ミニ・レビュー
98年度ベスト・アルバム最有力候補作。曲構成の中味はとても細かい。歌唱は気丈さと可憐さと浮遊的快感が溶けあった麗しいもの。ことさらに自分の理念を押し出したりしない奥床しさが実力の証し。ヒップホップの深化をここに見て涙するおやじも。
ガイドコメント
フージーズのシンガーとしてグラミー2部門を獲得したローリン・ヒルのソロ・デビュー・アルバム。カルロス・サンタナ、メアリー・J.ブライジといった豪華なゲストが参加しているのも話題。
収録曲
01INTRO - ROLL CALL
学校での出席確認風景が描き出されるインタールード。「ローリン・ヒル!」と3回呼ばれるが、返事がない演出にアルバム・タイトル『ミスエデュケーション』に込められた「教え込まれるものがすべて正しいわけじゃない」という想いがにじみ出ている。
02LOST ONES
ローリン・ヒルの歯切れの良いラップやバスドラとスクラッチが交錯するリズムが高揚を誘うレゲエ・ファンク。レゲエ・ユニットのチャカ・デマス&プライヤーズの「バム・バム」からのネタ借用は、マニアでもなかなか気づかないレアものだ。
03EX-FACTOR
日本でもソニーのCMで話題となった大ヒット曲。ウェットなピアノと音色の太いベース音がやさしく響き、エンディングで振り絞るように繰り返される「CARE FOR ME」(私を想ってほしい)のフレーズが胸に迫る。「Can't It Be So Simple」のネタのループもクール。
04TO ZION
愛息ザイオン君の誕生を歌った劇的なバラード。愛息をキリスト、自らをマリアになぞらえた受胎告知シーンなども登場する崇高な雰囲気の楽曲に、ゲスト参加のカルロス・サンタナが弾くギターがメランコリックな音色を添える。
05DOO WOP (THAT THING)
ローリン・ヒルのソロ・デビュー作にしてメガ・ヒット。ゲットー育ちの才媛が綴るリリックは聖書の引用もあるが、決して妄信ではなく独創的。ピアノが刻む16ビートが絶妙な、辛らつながらも包容力にあふれたメッセージ・ソングだ。
06SUPERSTAR
泥臭いソウル・ミュージックの香りとクールなラップが楽しめる、ゴスペル、ソウル、ファンクなどさまざまなルーツを感じさせてくれる曲だ。ドアーズ「ハートに火をつけて」の借用クレジットがあるが、歌詞が少し使われているだけなので惑わされないように。
07FINAL HOUR
ローリン・ヒルならではの難解でインテリジェンスな世界が淡々とラップされる硬派な曲。「あなたがドレッシングを探してる間に、私はバラードを作り続ける」といったフレーズと縦横無尽に鳴るフルートに、無限のセンスが感じられる。
08WHEN IT HURTS SO BAD
ハープと歌うような生ベースが印象的な、スローなR&B。少し音をはずした古いソウルの雰囲気が漂うコーラスにのせて、ローリン・ヒルにしては珍しく、シンプルで分かりやすい詞で「傷つくということ」について綴っている。
09I USED TO LOVE HIM
ローリン・ヒルと彼女が敬愛するメアリー・J.ブライジのヴォーカルが交錯する軽いタッチのR&B。声が似ているので判別しにくいが、若干透明感で勝るのがメアリー.Jだ。2人の存在感がすべての演奏をかき消すぐらいの力を放っている。
10FORGIVE THEM FATHER
8ビートを意識したスカ・レゲエのリズムは、スティーヴ・ミラー・バンド「アブラカタブラ」のアプローチと酷似。「彼らをお許しください」と歌っているが、ローリン・ヒル自身も辿るべき道を渇望する内容になっている。
11EVERY GHETTO, EVERY CITY
ローリン・ヒルが生まれ育ったニュージャージーのゲットー(アメリカでは主に黒人居住区のこと)を歌った曲。クラヴィネットはこう使うしかないだろうというフレージングはこれぞブラック・ミュージックといえるノリで、黄色人種の魂をも呼び覚ます破壊力だ。
12NOTHING EVEN MATTERS
ショート・ディレイのかかったエレピとウィスパー・ヴォーカルの組み合わせは、常套手段といえるもの。それだけにオリジナリティが問われるが、ディアンジェロの懐の深いヴォーカルとつぼを抑えたローリン・ヒルのコーラス・ワークが、鮮度をもたらしている。
13EVERYTHING IS EVERYTHING
弦楽四重奏を擁した緊張感たっぷりのトラックと揺らめくゴスペル・タッチの歌が印象深い。ローリン・ヒル曰く「聖書とヒップホップの出会い」の曲だそうだが、確かにこの強力なビートなら聖者でも踊れてしまうかもしれない。
14THE MISEDUCATION OF LAURYN HILL