ミニ・レビュー
84年のシングル編集盤と翌年の2ndをまとめた2in1。のしかかる絶望を気の抜けた諦念で切り抜けようとし、それを少年的純朴さで、あるいは小さな爆発も交え表現したモリッシー。彼の歌世界は、時を超え終焉間近な今の日本でこそリアルなのかも。
収録曲
[Disc 1]〈ハットフル・オブ・ホロウ〉
01WILLIAM IT WAS REALLY NOTHING
ジョニー・マーの卓越したセンスが発揮された、さざ波のように流麗なギターの旋律が圧巻。「ウィリアム」と情熱的に名前を連呼するサビのフレーズは、聴き手に何かを問いかけているようで胸に突き刺さる。
02WHAT DIFFERENCE DOES IT MAKE?
歪んだ恋愛感情と自らが犯した過ちを、自嘲気味に綴ったナンバー。陰鬱な感情を歌い上げる表情豊かなヴォーカル、アルペジオを多用した荘厳なギター音、力強いグルーヴが一体となって、美しく翳りのある世界を描き出す。
03THESE THINGS TAKE TIME
04THIS CHARMING MAN
初のインディーズ・チャート1位を獲得した作品。インパクト大なイントロの流麗なギター音、ポエティックな詞をメロディアスに歌う美しいヴォーカルとしなやかなグルーヴで紡ぐ音像に、最後まで魅了され続ける。
05HOW SOON IS NOW?
しなやかなビートと不穏なノイズ・ギターで始まる冒頭は、インパクト抜群。「今では希望のかけらもなくなった」と絶望感に満ちた心象風景を、美しくメランコリーなヴォーカルと歪んだギターの旋律で描き出す。
06HANDSOME DEVIL
07HAND IN GLOVE
83年リリースのデビュー・シングルで、冒頭の哀愁漂うハーモニカ音が強いインパクトを放つ。疾走するビートに絡みつく華麗なギターの旋律とモリッシーの優美で物憂いヴォーカルが交錯し、悲しい愛を克明に描く。
08STILL ILL
09HEAVEN KNOWS I'M MISERABLE NOW
不景気の中でやっと手に入れた仕事に嫌気がさして苦悩するという、モリッシーの閉塞的な心境が反映された作品。暗い歌詞とは裏腹に、音像は明朗で美しくい。流れるように紡ぎ出されるキラキラしたギター・リフに耳を奪われる。
10THIS NIGHT HAS OPENED MY EYES
11YOU'VE GOT EVERYTHING NOW
12ACCEPT YOURSELF
13GIRL AFRAID
14BACK TO THE OLD HOUSE
15REEL AROUND THE FOUNTAIN
16PLEASE,PLEASE,PLEASE LET ME GET WAHT I WANT
[Disc 2]〈ミート・イズ・マーダー〉
01THE HEADMASTER RITUAL
教師の体罰を泣き出しそうな調子で歌い上げる美メロ・ナンバー。ジョニー・マーが弾くクリアでジャングリーなギター・リフは、後続バンドの作品でたびたび類似品に出くわすほどの鮮烈さ。渦巻くような曲調に目もくらむ。
02RUSHOLME RUFFIANS
エルヴィス・プレスリー「マリーは恋人」を下敷きとして拝借したロカビリー調のリズミカルな曲。軽快な曲調に反し、詞ではにぎやかな移動遊園地の片隅での悲観的な人間模様が、苦々しく厭世的な調子で描かれている。
03I WANT THE ONE I CAN'T HAVE
心と身体の関係を毒気を交えて歌い上げた文学的な歌詞。人間の誰もが抱える暴力性への警句にも思える内容だ。ジョニー・マーが弾くクリアな音色のギターで形作られた、スミスらしいサウンドがポップに展開されている。
04WHAT SHE SAID
「煙草を吸うのは早死にしたいから」と歌われる虚しげな曲。全編にフィーチャーされたパワフルなドラミングをはじめ、スミス作品にしては珍しくサウンドがハード。ハード・ロック調のギター・プレイも見せ場が満載。
05THAT JOKE ISN'T FUNNY ANYMORE
アコースティック・ギターのメロウな旋律がゆるいビートに絡みつき、幻想的で耽美なモリッシーのヴォーカルと相まってエレガントな雰囲気を醸し出す。美しいサウンドが、絶望を綴った哀しい詞世界をリアルに描く。
06HOW SOON IS NOW?
しなやかなビートと不穏なノイズ・ギターで始まる冒頭は、インパクト抜群。「今では希望のかけらもなくなった」と絶望感に満ちた心象風景を、美しくメランコリーなヴォーカルと歪んだギターの旋律で描き出す。
07NOWHERE FAST
次回作『ザ・クイーン・イズ・デッド』の予告編とも思える反英国王室ソング。王室に対する反感を“女王の前でズボンを下げる”という不敬な一節に集約。アップ・テンポで跳ねるような曲調は、リズム隊の飛躍的な成長の証といえる。
08WELL I WONDER
少ない言葉数で語りかけるように、訴えかけるように歌う切実なラブ・ソング。簡素でリリカルな曲調は、終盤に雨が降り出す演出により美しさを際立たせている。ギター・ポップの理想的な姿が記録されている隠れた名曲だ。
09BARBARISM BEGINS AT HOME
家庭での児童虐待を題材にした問題作。シリアスすぎる歌詞に対し、サウンドは驚くほどファンキーで、ギターやベース(ソロあり)がシックばりのサウンドを鳴らしている。モリッシーの朗々としたフェイクも素晴らしい。
10MEAT IS MURDER
菜食主義者のモリッシーが肉を口にするすべての人間を非難した強烈な曲。家畜の悲痛な鳴き声、静けさの中に不穏さを湛えたアレンジが、「キル」ではなく「マーダー」と表現してみせた歌詞のメッセージ性を強めている。