ミニ・レビュー
自意識過剰気味のメタポップな話題作『クルーキッド・レイン』に続くサード・アルバム。「90年代型デッド」なんて声もあるルーズでダルな物腰は相変わらずだが、過去のポップの多様な意匠をストレートに再利用したサウンドは前作よりも直截的で外向的だ。
ガイドコメント
95年にリリースされたペイヴメントの3作目。ルーズに鳴り響くオルタナティヴ・サウンドの中に、鮮やかなポップ・センスをキラリと覗かせる。日本盤のみ、ボーナス・トラックを3曲収録。
収録曲
01WE DANCE
フォーキーなギターとルーズなリズムがゆらりと漂うスロー・ナンバー。限りなく透明に近いサウンドとスティーヴ・マルクマスの祈るような歌声が絶妙のバランスで融合し、心の中にそっと流れ込むように鳴り響く。
02RATTLED BY THE RUSH
粘っこいギターやハーモニカなどを導入したブルージィなナンバー。あっさりさっぱりした感じが持ち味だったそれまでのペイヴメントからは考えられないほどしつこく絡みつくサウンドだが、持ち前のひねくれたポップ感は健在。毒々しさもともない、中毒率は高い。
03BLACK OUT
美麗なアルペジオに彩られたスロー・ナンバー。ビートにブレイクビーツが導入されるなど、全体的にアシッド・フォーク的な印象も。丁寧に紡がれる一音一音が織りなすメロディの美しさには思わずうっとりさせられてしまう。
04BRINX JOB
フォーク、カントリーを基調とした演奏は全体的にヘロヘロ。ヴォーカルも酔っているかと思うほどヤケクソ気味の、同じフレーズの繰り返しというなんとも奇妙な曲。1分半ほどの小品だが、意図的に崩されたサウンドに、ニクいポップ・センスを発揮している。
05GROUNDED
ずしんとしたビートにアルペジオやギター・ノイズなどが徐々に絡み合い、重厚感あるサウンドへと変貌していくさまは、ショベルカーのような力強さを感じさせられる。イントロやブレイクの時に光るハッとするほど奇麗なギターのフレーズも聴きどころだ。
06SERPENTINE PAD
爆音ノイズ・ギターと絶叫ヴォーカルが印象的な1分半ほどのラウド・ナンバー。荒々しくもアーティスティックなサウンドに、ソニック・ユースなどのオルタナ・パンク勢を彷彿とする場面も垣間見られる。
07MOTION SUGGESTS
ブレイクビーツのリズムやスペイシーなサウンドを導入し、得意の脱力系ローファイではありながらも新しさを手に入れた曲。ひねくれたメロディと先端性を感じさせるサウンドは、ビースティ・ボーイズが率いていたグランドロイヤル・レーベルを彷彿とさせる。
08FATHER TO A SISTER OF THOUGHT
アコースティック・ギターで聴かせるフォーキーなナンバー。ゆったりしたサウンドにハワイアン調の粘っこいギターのフレーズが心地よく響き、気持ちをリラックスさせてくれる。夏に吹く乾いた涼風のような一曲だ。
09EXTRADITION
ブルース・ロックを基盤にしつつも、突然転調したり、随所にギター・ノイズや鉄琴の音色を挿入するなど、実験精神を感じさせる一曲だ。全体的に粘っこく湿度の高い熱帯夜のように全身にまとわりつく。
10BEST FRIENDS ARM
勢いのあるブルース・ロックで駆け抜けるアッパーな幕開けと、途中で転調してじっくりとこねくり回すような粘度の高いサウンドのコンストラクトが印象的。後半はフリー・セッションのようになり、唐突に終わってしまうなど面食らわせれるところも。
11GRAVE ARCHITECTURE
レールの上を走っているようで徐々に脱線し出すフリーキーなメロディ・ライン。絡み合っていないようで絡み合っているセッション、ブレイクからの迫力あるたたみかけと、ひねくれバンドのぺイヴメントらしさに満ちたナンバー。
12AT&T
ローファイ感漂うダルダルなロックンロール。歪んだギターでガツンと聴かせるかと思いきや、ヘロヘロなギター・リフのせいで相変わらずの脱力サウンドへと持ち込むのは、いかにもペイヴメントらしい意地の悪さだ。
13FLUX=RAD
ゴロゴロしたファズ・ギターのリフと喚き立てるようなスティーヴンのヴォーカルが爆発する一曲。2分に満たない短い時間の中に、密度の濃いバンド・サウンドを凝縮して詰め込んだ、珍しくハイテンションなナンバーだ。
14FIGHT THIS GENERATION
憂鬱な歌声が印象的なダウナーなナンバー。錆びついたようなストリングスと歪んだギターの音が全体的に暗い影を投げかけている。後半の吐き捨てるようなヴォーカルとノイズ・ギターは、とことんパンキッシュ。
15KENNEL DISTRICT
野太いファズ・ギターの甘くメランコリックなメロディで聴かせるミドル・チューン。幾重にも折り重ねられたウォール・オブ・サウンドと甲高いコーラスが色鮮やかな祝祭感を演出している。ヘタレでポップなこの甘さはウィーザーのファンにもオススメだ。
16PUEBLO
カントリー・ブルース調の緩やかな歌い出しから一気に感動的なサビへと雪崩れ込むメロウなバラード曲。ファズ・ギターとリフの絡み合いから生み出される美しさはライドにも通じるものがあるが、こちらの方がフリーキーなメロディを奏でている。
17HALF A CANYON
レッド・ツェッペリン・ミーツ・ソニック・ユースといった感じのフリーキーなブルース・ロック。緩やかなグルーヴの中で渦を巻くギター・ノイズと絶叫の嵐が、すべてをなぎ倒してしまうような圧倒的なパワーに満ちている。
18WESTERN HOMES
19BRINK OF THE CLOUDS
20FAKE SKORPION
21EASILY FOOLED