ミニ・レビュー
ノスタルジックでメランコリックなサイケデリック・サウンド空間を体験できる一枚。ヘッドホンをし、リラックスした気分で楽曲に意識を任せれば、脳裏にはいろいろな風景やイメージが浮かんでは消えていくはず。これぞデイ・トリップ・ミュージック。★
ガイドコメント
唯一無比ともいえるサイケデリックな雰囲気に満ちたバンド、ザ・フレーミング・リップスの新作が到着。心を揺さぶるサウンドを聴けば、ついに時代が彼らに追いついたことを実感できるはず。
収録曲
01RACE FOR THE PRIZE
メロディとサウンドが洪水となって押し寄せてくる総天然色オーケストラル・ポップの金字塔。渦巻くシンセ、跳ね回るリズム、治療薬開発のために自らの命を削る学者を歌った奇妙な歌詞など、魅力の枚挙にいとまがない。
02A SPOONFUL WEIGHS A TON
ストリングス、シンセを駆使した美麗なサウンドが、リズム隊の轟かせるひずんだサウンド(レッド・ツェッペリン風)と鉢合わせ。きめ細かな部分と粗い部分とを巧みに接合させた変わりなインドア・ポップだ。
03THE SPARK THAT BLED (THE SOFTEST BULLET EVER SHOT)
ジョン・レノンのソロ作品をブライアン・ウィルソンがアレンジし、それをイエスが演奏した。そんな雰囲気の凝ったプログレッシヴ・ポップ。叙情的な序盤から、軽やかな中盤を経て、再び叙情的に展開する組曲形式を採用。
04THE SPIDERBITE SONG
しとしとと静かに鳴らされるピアノをバックに歌われるメロウなスロー・ナンバー。しかし、それだけで終わらないのがリップス。ドラムが土砂崩れのように轟いたり、スペーシーなサウンドが交信を求めたりと、サウンド・コラージュにもぬかりなしの内容だ。
05BUGGIN' (THE BUZZ OF LOVE IS BUSY BUGGIN' YOU)
愛を羽虫に例えたユーモラスな歌詞のラブ・ソング。流麗なヴォーカル・ハーモニー、シンセを駆使したサウンド・コラージュが、楽曲全体の浮遊感を豊かなものにしている。ほんの少しだけ鳴るギターも絶妙なアクセントに。
06WHAT IS THE LIGHT? (AN UNTESTED HYPOTHESIS SUGGESTING THAT THE CHEMICAL IN OUR BRAINS BY WHICH WE ARE ABLE TO EXPERIENCE THE SENSATION OF BEING IN LOVE IS THE SAME CHEMICAL THAT CAUSED THE "BIG BANG" THAT WAS THE BIRTH OF THE ACCELERATING UNIVERSE)
なだらかな曲調の中で音響ポップやカントリーが入り乱れる構成が、例によって凝りまくっており、「バギン」で歌われた事柄を踏まえて問いかける歌詞も巧み。国内盤CDでは、あまりの長さに副題の邦訳が省かれている。
07THE OBSERVER
アルバム『ザ・ソフト・ブレティン』の前半と後半をつなぐインタールード的インスト。シリアスなムードのメロディのバックで、心臓の鼓動、あるいは足踏みのようなリズムが脈を打つ。サウンドトラックのような趣の曲だ。
08WAITIN' FOR A SUPERMAN (IS IT GETTIN' HEAVY?)
スーパーマンの登場を待つ人々に、“待つだけでなく自分でも最善を尽くさなきゃ”と呼びかけるリップスらしい歌詞。穏やかなピアノとメリハリあるリズムが心地良いこの曲は、彼方で響く鐘の音がなんとも哀しげな雰囲気を醸し出している。
09SUDDENLY EVERYTHING HAS CHANGED (DEATH ANXIETY CAUSED BY MOMENTS OF BOREDOM)
「イエスタデイ」の一節を切り取ったようなストリングスなど、ビートルズの遺産の断片があちこちに配置されたリリカルなナンバー。冒頭でのスクラッチ・ノイズや終盤のギターが、後になってじわじわと効果を発揮。
10THE GASH (BATTLE HYMN FOR THE WOUNDED MATHEMATICIAN)
クイーンの作品世界に通じる大仰紙一重のスペクタクルなイントロ、力強い曲調に合わせ、聴き手と自らを鼓舞するかのごとく“闘い続けること”を促す歌詞が印象的。これぞリップス流のゴスペル・インドア・ポップだ。
11FEELING YOURSELF DISINTEGRATE
愛と死の相関関係を綴った歌詞が非常に哲学的。自らの歌声に自分の声を“ラッパッパ”と被せ歌うウェインのヴォーカルも味わい深い。スライドなど多彩な音色で構成された多重録音ギターが、ドリーミーなメロディ、ハーモニーを絶妙に支えている。
12SLEEPING ON THE ROOF (EXCERPT FROM "SHOULD WE KEEP THE SEVERED HEAD AWAKE??")
そのまま眠りについてしまいそうになるアンビエントなインスト・ナンバー。リップスならではのポップ・センスは控えめだが、フィールド・レコーディングを盛り込んだサウンドに、彼らの実験的な魅力があふれ出ている。
13RACE FOR THE PRIZE (SACRIFICE OF THE NEW SCIENTISTS)
要所でヘヴィなドラム・サウンドが猛々しく轟く、オリジナルとは異なるヴァージョン。中央に配置されていたヴォーカルがこのヴァージョンでは左右に振り分けられているなど、微妙な違いがいくつも仕込まれていて聴きごたえがある。
14WAITIN' FOT A SUPERMAN
R.ケリーとの仕事で名高いピーター・モクランがミックスを担当。デイヴ・フリッドマンが手がけたヴァージョンでのピアノに対し、こちらはアコースティック・ギターが耳を奪うアレンジ。音響ロック的効果を抑えた手堅い仕上がりだ。