ミニ・レビュー
メジャー・デビュー作にして本年度を代表する傑作。サウンド面ではピクシーズ、詞ははっぴいえんど、ルックスのび太。引き合いに出されるのはいつも決まった顔ぶれだけど、そんな単純なバンドじゃない。ノイジィと呼ぶにはあまりに清らかな現在進行形のエレジーを聴け。★
ガイドコメント
あまりにも普通なルックスの彼らが掻き鳴らすフィードバック・ノイズ大洪水の1stアルバム。聴けば誰もが度胆を抜かれること請け合い。なんでもギター兼ヴォーカル&“叫び”担当の向井氏は“いまでもペイル・セインツが好き”(!!)だとか。なるほど納得。
収録曲
01タッチ
カウントともにドラムがドカドカと鳴り響き、冷たい感触と繊細さをあわせ持ったギターが迷走するように駆け抜けていく。触れることを恐れて、“冷えきった場所へ逃げていく”若者たちの姿を鋭くとらえた曲。“笑いあう”や“信じあう”という熱を持つはずの言葉が悲しく響き、その叫びの中に逆説的に熱を感じる。
02PIXIE DU- PIXIE Dワ -
ピクシーズへのオマージュ。ギターを筆頭にバンド・サウンド全体でリズムを刻んでいくかのようなリズム主導の演奏。その中を“ふらついたり さまよったり”する向井秀徳のヴォーカルが、酔っ払いのひとり言のように響く。あっという間に終わる演奏時間が、不思議な空間と余韻を際立たせている。
03裸足の季節
透明感のある音色でかき鳴らされるギターとともに疾走していくバンド・サウンド。そんななかで歌われる“眼鏡をかけ直す”という歌詞が印象的。「裸足の季節」というどこか無邪気な雰囲気を持つタイトルながら、“終わりのキセツ”や“世紀末”といった言葉で紡がれているのが切ない。爽やかでいながら、どこか歪んでいる曲。
04YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING
どんよりと足取りの重いギターが、“夕暮れどきに立ち尽くす一人の男の姿”をヘヴィに浮かび上がらせる。泣いてるようにも叫んでるようにも聴こえるサビのコーラスがエモーショナル。自分は知らない何かを知っているものの存在を感じ立ち尽くす、哀愁漂うナンバー。“どれくらい?”“到来”と韻を踏むのが面白い。
05桜のダンス
ぎくしゃくした雰囲気のリズムに乗せて、引きつったヴォーカルを聴かせる。東洋的なフレーズを繰り出しながら、ひん曲がったようなギターが脳に絡みつく。無愛想なドラムと投げやりな感じが、曲の短さとも相まって、刹那的に響く。“季節と季節の間に遊ぶ風の声”――まさに桜が散っていく“桜のダンス”を見るような曲。
06日常に生きる少女
騒音とともに幕を開け、躍動感を持って疾走していくバンド・サウンドに乗せて、気だるそうに“日常”を歌う。メロディからはみ出したようなギターと各楽器がハチャメチャに暴れまわったりスローになったりする変化の激しい展開が、混沌とした日常のアップ・ダウンを思わせる。日常に生きる気だるさとタフさをリアルに表現。
07狂って候
ドラムがドカドカと響きわたり、ギターがギャンギャンにかき鳴らされ、一気に“ロックトランスフォームド状態”に突入する。酒場や公園などでふとよぎる記憶、そこから生まれる妄想、残像……。正気から狂気へ“フラッシュバック現象”をそのまま音にしたような曲。“猫町に狂い屋が潜入”など、歌詞も独特。
08透明少女
メジャー・デビュー・シングル。何もかもが透き通って見えるような、きらきらした夏も、ナンバーガールが歌うとこうなる。抜けの良いグルーヴは、街のあつれきが加速し突き抜けていくようであり、“狂った街かどきらきら”と歌う。“気づいたら 夏だった!!”……狂騒と能天気さが入り混じる、夏の一瞬のきらめきを表現したナンバー。
09転校生
歯切れの良いギターのカッティングと、ユラユラと漂いながらメロディアスな旋律を繰り出すギターが混ざり合い、何とも切ない感情を生み出す。それを振り払うかのように、あるいは、それとは無関係のように、力強く叩かれる太鼓の音が聴くものを高揚させる。色を巧みに使った状況描写とエモーショナルなグルーヴが美しい。
10EIGHT BEATER
8ビートに乗せて歌われるのは、“よみがえる性的衝動 繰りかえされる諸行無常”。さすらい、さまよい、叫ぶ。これぞ“JAPANESE STYLE”と言わんばかりだ。殺伐としたバンド・サウンドと心の奥底からの叫びには、焦燥感が漂う。“コミュニケーション不能!!”という向井秀徳の叫びが胸を突き刺すナンバー。