ミニ・レビュー
やっぱライヴだわ、ナンバーガールは。99年10月に行なわれた渋谷クラブクアトロでのステージをほぼ丸ごと収録した、無敵のライヴ・アルバム。肌に刺さる刺激的な轟音も、トボけた味わいのMCも、やるせなく熱い歌詞も、すべてがワン・アンド・オンリー。★
ガイドコメント
口うるさいロック親父から、椎名林檎姫までもトリコにする圧倒的サウンドで、グイグイと直進中の彼ら。メジャー・デビュー1年未満にしてライヴ盤発売という待遇も、そのサウンドに多くのファンが共鳴しているから。激烈なサウンドはもはや感動的ですらある。
収録曲
01EIGHT BEATER
ゆらゆらとつま弾かれるギターから一転、よりくっきりとしたリズムを刻む。オリジナルの持つ焦燥感というよりは、しっかりと落ち着いて、乱れのないタイトな演奏を聴かせている。向井秀徳は終始叫びっぱなしではあるが、真摯な態度で歌い上げているのが印象的。“JAPANESE STYLE”という叫びが頭に残る。
02IGGY POP FANCLUB
ナンバーガールの代表曲の一つ。分かりやすいくらいポップな曲を力いっぱいに演奏し、特に中尾憲太郎のベースがブイブイ響く。ストレートだが、向井秀徳のくねくねした歌い方を含め、癖になる粘着性を帯びていて、バンドの一体感が凝縮された演奏と雰囲気から、血走ったライヴの高揚感や盛り上がりが伝わってくるナンバーだ。
03タッチ
熱情と冷たい鋭さを保ちながら疾走していくバンド・サウンド。“熱さを嫌う若者たち”が逃げてゆく“冷えきった場所”の心象風景を切り取ったかのようなギターが特徴的。空間を埋めるように轟くアヒト・イナザワのドラムが無骨に響き、泣き叫ぶようなエモーショナルなヴォーカルに、引き裂かれそうな気持ちになる。
04桜のダンス
東洋的なフレーズを繰り出す鋭角的なギターと攻撃的なヴォーカルの掛け合いが絶妙。これでもかと力強く強調されるビートと“桜のダンスをお前は見たか?”というかすれた絶叫から、白熱していくライヴハウスの現場が目の前に浮かんでくるようだ。ひん曲がってしまったかのようなギターの音色が印象的なナンバー。
05SAMURAI
侍における切腹のことを、理解はできないが「素晴らしいことかも知れませんね」と向井が言って、演奏がはじまる。切れ味鋭く、小刻みなギターのカッティングに導かれるようにして、一気に駆け抜けていく。目の前のものを次から次へとメッタ斬りにし、また自分も何ものかに斬られていく。そんなさまを描いた“サムライ”な曲。
06裸足の季節
胸をかき毟るようにギターが鳴らされ、休む間を感じさせないパワフルなドラムが炸裂する。疾走感あふれる演奏が、“世紀末ダンス”や“終わりのキセツ”などの言葉をよりいっそう映えさせている。時折、歪んだ音像が顔を出し、“妄想都市”に渦巻くさまざまな妄想がハイスピードで脳裏をよぎっていくかのようだ。
07YOUNG GIRL 17 SEXUALLY KNOWING
ヘヴィかつラウドなギターと乱れのない着実なリズム隊が、どんよりとした曲の雰囲気を支えている。歌のメロディとは微妙にズレた旋律を奏でるギターに、どことなく哀愁が漂う。“SEXUALLY KNOWING”と叫ぶ向井のヴォーカルには、自分は知らない何かを知っているものへの憧憬や羨望が感じられる。
08透明少女
「例えばあの娘は透明少女」と向井が言って、演奏がはじまる。透明感のあるギターがかき鳴らされ、抜けの良い演奏を聴かせる。一気に疾走していき、“透きとおって見えるのだ”というフレーズとともに、夏のきらめきとそれが一瞬のことである切なさを運んでくる。爽やかさの中に狂騒と能天気さが入り混じるナンバーだ。
09狂って候
連打するようにブンブンと鳴らされるベースが凄まじい。一気に“ロックトランスフォームド状態”に。矢継ぎ早に叩かれるドラムは、饒舌に何かを歌っているようでもある。“記憶〜 妄想〜 残像〜”といった、メロディを逸脱した向井の叫びが脳天を直撃する。後半、スピード・ダウンして、黄昏れた雰囲気を醸し出している。
10DESTRUCTION BABY
“U・S・録・音”というカウントからはじまって、全体的にどことなく疲労感が漂うナンバー。ゆったりとした演奏と歌唱に、心地良くて美しいカタルシスを感じる。ふらついたギターに“めまい”を感じ、ある種の清々しささえ感じられる。“破壊された君の心ん中 そのあと 誰が入り込んだ?”という歌詞も印象的。
11日常に生きる少女
「ヤヨイちゃん(その場にいた観客)にささげます!」と言って演奏開始。前半は躍動感あふれるアレンジを聴かせ、後半はテンポを落としてじっくりと聴かせる。向井も前半は力強いヴォーカルで押し切り、後半ではメロウに歌い上げる。歌のメロディと微妙な距離を取った旋律を繰り出すギターが印象に残る曲。
12我起立一個人
“ずんずん歩くこの俺様の一人旅”を一歩一歩踏みしめるように、ゆっくりゆっくり進んでいく。向井のヴォーカルも、想いを一つ一つ噛み締めるように歌い、“何処へいく?”や“何を探しているんだろう”という言葉が切なく響く。ヘヴィなバンド・サウンドがエモーショナルに叫んでいるようで、胸が締めつけられる。
13SUPER YOUNG
ナンバーガール流の青春ソング。繰り返されるギター・リフが“いつまでも 変わらない僕らです”という歌詞と重なって、青臭く切ない気持ちにさせられる。“駈けぬける”という言葉とは裏腹に、ゆっくりとしたリズムで進んでいく。途中で挟まれる、学生時代の思い出を語る向井の台詞が、ノスタルジックな気持ちにさせる。
14OMOIDE IN MY HEAD
ナンバーガールの代表曲の一つ。向井の「ドラムス、アヒト・イナザワ」の掛け声からはじまり、演奏される。徹夜明けの朝、現実と残像が入り混じる中、だんだんと現実に戻っていく過程を歌った曲。“感傷のうずまきに沈んでゆく俺”を“突き飛ばせ そしてどこかに 捨てちまえ”と歌う。残像を振り払おうとする姿が切ない。