ミニ・レビュー
何かとレイディオヘッドとの類似性が話題の英新人バンド、ミューズのファースト。確かにエモーショナルなヴォーカルや、情感的なメロディなど、共通項は多い。だがそれでも聴かせるだけの作品を作っているのは才能がある証拠で、真価を問うのはこれから。
ガイドコメント
UKから飛び出した、平均年齢20歳3人組のデビュー・アルバム。若々しいエモーションをたたえたヴォーカル、3ピースとは思えない厚みのあるメランコリックなサウンドに注目だ!
収録曲
01SUNBURN
マシューのピアニストへの憧れが伝わってくるアルペジオで幕開け。妖しくなめらかな冒頭から、徐々にエモーショナルなロック・オペラへと展開。感情過多なヴォーカルを凌駕する、中盤でのヒステリックなギターが圧巻。
02MUSCLE MUSEUM
彼らの美メロ・メイカーぶりを象徴するドラマティックなナンバー。ハードでラウドなサウンドながら、どこか冷え冷えとした空気なのがミューズ流。歯磨きや洗車を号泣しながら行なう人々が登場するPVも印象的だ。
03FILLIP
動のカタルシスと静のカタルシスが数分の間にせめぎ合う、起伏に富んだドラマティック・ナンバー。ハイ・オクターヴなヴォーカルを天井知らずで伸ばし続けるマシューのヴォーカルには、聴いているこちらが酸欠になりそう。
04FALLING DOWN
60年代米国西海岸フォーク・ロックを思わせるトラックを、厚みのあるサウンド・プロダクションやハイトーン・ヴォーカルでミューズ仕様に改装。彼らにしては珍しく、かすかに土臭さを漂わせた美しいスロー・バラード。
05CAVE
手数の多い肉感的なベースと安定感のある重々しいドラムが支える舞台の上で、マシューのメタリカルなギターと感情過多な歌唱が響きわたる“劇場×激情”ナンバー。自身の世界にここまで入り込めるシンガーも稀有な存在では?
06SHOWBIZ
溜めに溜め、引っ張りに引っ張り、ようやく炸裂するサビが印象的。狂おしいムードの静かな前半が、この2分過ぎのサビを境にハードな世界へと舞台転換。ナイロン弦によるスラップ・ベースが楽曲に歯切れの良さを与えている。
07UNINTENDED
キャリアを積むにつれ、教会音楽のような荘厳な音世界を築き始める彼らの、その前兆が感じとれるバラード・ナンバー。祈りを捧げるのにも等しく感じられる歌声の切実さを、ハモンド・オルガンの旋律が際立たせている。
08UNO
タイトルに表われているように、サウンドにスペイン風エキゾチシズムを採り入れたハードなナンバー。歪んだベースと怒涛のドラミングが生み出すハードな音世界も、もはや叫びに近いマシューの激情歌唱には気圧される。
09SOBER
彼ららしい流麗さを兼ね備えたラウド・ナンバー。ドラムはクールなビートを刻み、ベースは変則的なラインをなぞり、ギターは感情の趣くままに歪んだり泣いたり。三者三様の個性的なプレイがたっぷりと味わえる構成だ。
10SPIRAL STATIC
壊れた心を感じてごらんと語る歌詞とじわじわと迫力を増す暗鬱な曲調とが結合し、重く押し潰されそうな空間を生み出している。祝詞のようなハイトーン・ヴォイスには、心の暗部を撫で回されているような気分にさせられる。
11ESCAPE
彼らの初期作品に頻出する、“僕から君(神!?)”へと語りかける歌詞が印象的。「アンインテンディッド」などに通じる、厳粛なムードとラウドな爆音とが背中あわせになった曲調は、冒頭と終盤では感情の高ぶりにも激しい差がみられる。
12OVERDUE
「もうダメだ」と思わせるような物言いの歌詞が多い『ショウビズ』に収録の、ひとすじの光明を感じさせてくれる小品。3分に満たない短い楽曲で、淡白なパートと濃厚なパートが激しく入り乱れるミューズ得意の躁鬱的展開がみられる。
13HATE THIS & I'LL LOVE YOU
ピンク・フロイドやレディオヘッドにより継承されてきた、ストーリー性のある英国ロックの伝統を踏襲した見事なナンバー。緩急自在のドラマティックな曲調をベースに、英国ロックの大仰さとコクが感じられる。始めと終わりでコオロギの鳴き声も。