ミニ・レビュー
シングルの(11)(アルバム・ヴァージョンで収録)で、新生スピッツをアピールすることに成功して、新たなファン層を掴んだ結成10周年記念アルバム。スクーデリア・エレクトロの石田君が共同プロデュースで参加作品。
ガイドコメント
お待たせしました! 『フェイクファー』以来、2年4ヵ月ぶり、通算9作目のオリジナル・フル・アルバム。スピッツのデビュー10周年を飾るファン待望のニュー・アルバムだ。
収録曲
01今
唐突に始まり、唐突に終わる……、まさに“今”という時間の臨場感を感じさせる、9th『ハヤブサ』の刹那的なプロローグ。勢い任せに掻き鳴らすアコギを、ガッツ溢れるエレキがさらに煽る迫力満点の疾走フォーク・チューン。
02放浪カモメはどこまでも (album mix)
キャッチーなマサムネ・メロディに、石田小吉の影響色が濃い骨太サウンドが炸裂する、ダイナミックなロック・チューン。「恥ずかしい日々腰に巻きつけて風に逆らうのさ」と情けなさを誇らしく歌うその姿こそ、スピッツである。
03いろは
隅から隅まで電気が通った、石田小吉テイスト炸裂の最強デジタル・ロック。“俺の秘密を知ったからには ただじゃ済まさぬメロメロに”と、強烈なグルーヴに乗せてキケンな色気でグイグイ挑発。男さえ虜にする伊達男っぷり。
04さらばユニヴァース
宇宙の遥か彼方から“君”に呼びかけるような、切なくも美しいラブ・バラード。スピッツらしいフォーキーなサウンドはそのままに、“ユニヴァース”という広大なスケールの舞台を創り出したアレンジャー、石田小吉の功績は絶大。
05甘い手
君への切ない思いが、屈折したフェチシズムとなって描き出される……、まさにタイトルが象徴するがごとくの、官能的なスロー・バラード。作品の甘美なムードを引き立てる間奏のセリフは、ロシア映画『誓いの休暇』のワン・シーンから。
06HOLIDAY
初の英語タイトル。とは関係ないが、いつになくファッショナブルな雰囲気を湛えた、軽快なポップ・チューン。といっても綴られるのはいつものごとく、弱気な僕のクレイジーな恋心。浮き足立ったリズムが恋のソワソワ感そのものだ。
078823
青い衝動のごとくの瞬発力でもって幕を開ける、“Loveと絶望の果て”への逃避行物語。リスナーのこころをわしづかみにするキャッチーさと、炸裂のロック・サウンドにただただ圧倒される4分間だ。ちなみにタイトルは“ハヤブサ”と読む、どうぞ4649。
08宇宙虫
目を閉じれば、あなたもなれる“宇宙虫”。ひんやりした宇宙空間を、ふわりと漂流するような感覚を呼ぶサウンドだ。三輪氏の少年的ロマンティシズムと、石田小吉お得意のスペーシーな音づくりが生んだ、幻想的なインスト・ナンバー。
09ハートが帰らない
もしやりなおせたら……と、別れた彼女への想いに耽る失恋ソング。スピッツ十八番の穏やかなバラードだが、切なさ極まるダイナミックなサビは、さながら演歌の泣き節だ。ちなみに、草野マサムネに寄り添う気になる美声は、五島良子。
10ホタル
“恋”という鮮やかな幻を、短いホタルの一生に重ねた、ドラマティックなロック・チューン。甘美さと悲壮感が鬩ぎ合うサウンドの中、“君”の想いへと疾走していくマサムネの歌声は、いままでにないほど、痛々しい。
11メモリーズ・カスタム
不良少年な一面を見せた新境地、22ndシングル「メモリーズ」の石田小吉カスタム・ヴァージョン。怒涛のごとくのスペーシーな音響効果、さらに石田&草野共作の大サビが加わり、最高にドラマティックなデジタル・ロックへ変貌を遂げた。
12俺の赤い星
草野マサムネの哀愁漂う独唱に怒涛のバンド・サウンドがなだれ込んでいく、ダイナミックなロック・バラード。ある意味『巨人の星』にも通じる、“男のロマンチシズム”を強烈に漂わせた異色のメロディは、リーダー・田村明浩によるもの。
13ジュテーム?
君がいるだけで優しくなれる……、そんな穏やかな愛を弾き語る、至高の安らぎを湛えたアコースティック・バラード。ギターの素朴な音色と二胡の緩やかな調が生み出す空気は、家路への憧憬を誘うかのように、懐かしく、温かい。
14アカネ
スペーシーなサウンド・アプローチを試みた9th『ハヤブサ』も、最後はかくも爽やかな王道スピッツ・サウンドで締めくくる。宇宙旅行からただいま、といった感じでいつものスピッツが顔を出す、ホッとさせるエピローグである。