ガイドコメント
この作品が、80年代ミュージック・シーンの幕開けとなった。ジョンとヨーコの間に通い合う愛と、二人の音楽に対する思い入れを、みずみずしい感性で自由奔放に描いた、ピュアなアルバムだ。
収録曲
01(JUST LIKE) STARTING OVER
80年発表。音楽活動を休止し、表舞台から遠ざかっていたジョン・レノンの復活を告げたナンバーとして知られる。往年の50〜60'sのロックンロールを年齢相応の含蓄を感じさせる穏やかさで表現した名曲。
02KISS KISS KISS
ヨーコが歌うニュー・ウェイヴ調のポップ・ソング。曲そのものもチャーミングだが、女性のエクスタシーを表現したナレーションは飛びきりセクシー。ジョンの男性的な「スターティング・オーヴァー」と対になるヨーコのきわめて女性的な作品。
03CLEANUP TIME
ホーン・セクションや女性コーラスをフィーチャーしたディスコ調のファンク・ロック。おとぎ話のような物語風の歌詞だが、この曲における「クリーンアップ」の意味するところは「ドラッグやアルコールをやめて、きれいになろうよ」ということか。
04GIVE ME SOMETHING
「クリーンアップ・タイム」に対応するヨーコの曲。ニュー・ウェイヴ調の強烈なロック・サウンドに乗って、虐げられてきた女性の心情を歌っている。平易な言葉で女性の心の飢えを的確に表現してみせるテクニックはさすがヨーコ。
05I'M LOSING YOU
1978年に書かれた「ストレンジャーズ・ルーム」の進化形。「コールド・ターキー」ばりのサスペンスフルなサウンドが「君を失いそう」な語り手の不安感を象徴している。そして、それは“失われた週末”時代のジョンの精神状態の象徴でもある。
06I'M MOVING ON
ジョンの「アイム・ルージング・ユー」とSEで繋げられたヨーコの曲。二人の別居生活が始まった頃に作られた曲だが、こちらはジョンの曲よりもずっとポジティヴ。背後には痛みや悲しみも感じられるが、「私は行く」と歌うヨーコの強固な意志がここにはある。
07BEAUTIFUL BOY (DARLING BOY)
やっと授かったヨーコとの子、ショーンに捧げた子守唄。東洋的で雅なメロディ・ラインと、トロピカルなサウンドが違和感なく溶け合った、極上のリラクゼーション・ナンバーだ。戦うロックンローラーも、ここでは目を細めて我が子を見守る一人の父親。至上の安らぎに浸るジョンの、穏やかな歌声に出逢える。
08WATCHING THE WHEELS
「僕はもう降りた。あとは勝手に回ってくれ」……ショウビズ界をメリーゴーランドに見立て、それを冷静に眺めるジョンの視線を綴った本作は、音楽活動休止中、さまざまな憶測で騒ぎ立てるマスコミへの回答とも取れる。穏やかなメロディに乗せて、そのシニカルな主張をサラッと聴かせてしまうところがいかにもジョン。
09YES, I'M YOUR ANGEL
ジョンの「ウォッチング・ザ・ホイールズ」に対応するヨーコの曲。古いミュージカルの中の洒落たジャズ・ソングのようなサウンドをバックに、とても幸せそうに歌っている。プラザホテルで収録されたSEも効果的。彼女の作品の中では異色の1曲。
10WOMAN
80年発表のアルバム『ダブル・ファンタジー』に収録されたナンバー。女性に対する男性の優しく穏やかな気持ちを表現した歌詞とさわやかで甘いメロディなど、エヴァーグリーンな輝きを感じさせる傑作。
11BEAUTIFUL BOYS
ジョンの曲は単数形だが、こちらは複数形。ヨーコはショーンとジョンに向けて歌い、さらに世界中の男性たちに向けて歌っている。ジョンの「ウーマン」に対応する曲。戦争を象徴するSEを配したシリアスなサウンドが印象に残る。
12DEAR YOKO
9年前の「オー・ヨーコ」は彼女を励ます唄だったが、こちらは彼女を求める唄。切れ味の鋭いファンク調のリズム・ギターが先導する陽気なビートに乗って、ジョンは「決して君を離さない」と歌う。「オー・ヨーコ」同様、ポップ・ソングとしても佳作。
13EVERY MAN HAS A WOMAN WHO LOVES HIM
ソングライターとしてのヨーコを高く評価していたジョンがとりわけ気に入っていた曲。タイトなビートとミステリアスなサウンドをバックに、「男には誰だって愛してくれる女がいる」と歌うヨーコのヴォーカルに、ジョンのハーモニーがやさしく寄り添う。
14HARD TIMES ARE OVER
ジョンが「日本人による初めてのゴスペル」と絶賛していた曲。かつてのスローガン「戦争は終わる/あなたが望むなら」を思い出させる「辛い時は終わる/しばらくの間は」というメッセージはヨーコの祈りだったが、その後の悲劇を予感させるものでもあった。
15HELP ME TO HELP MYSELF
のちに「ウォッチング・ザ・ホイールズ」へと進化する曲のデモ・トラック。ピアノの弾き語りによるもので、ダコタハウスで録音されている。“失われた週末”時代を思わせる歌詞はややネガティヴだが、これはこれで完結した美しい曲。
16WALKING ON THIN ICE
1980年12月8日の夜、ジョンとヨーコがダビングやミックスを行なっていた曲。ジョンがプレイしたギターやキーボードも聴ける。豊かな発想を生かしたスリリングな展開はヨーコならでは。彼女の作品の中でも最も優れたロック・ソングのひとつだろう。
17CENTRAL PARK STROLL (DIALOGUE)
ジョンがヨーコに「ほら、僕らはまたここにいる。公園を散歩する標準的なカップルさ」と語りかけている。『ダブル・ファンタジー』のプロモーション・ビデオのサウンドトラックからピックアップされたもの。ジョンが実際にそこにいるかのように感じられる。