ガイドコメント
日本独自企画の紙ジャケット復刻CD。82年発表の5作目。スタジオ活動に専念して産み出された傑作。バンド名の読み方は“エクスタシー”だ、とのメンバーの言葉も記憶に新しい。
収録曲
01RUNAWAYS
父親に殴られ家出した少年を主人公にした曲。ゆっくりと広がるアコースティック・ギター、薄もやのようなシンセ、一打一打が丁寧に叩かれたバス・ドラムなど、それまでの彼らの作品にはない落ち着いた雰囲気の音世界が広がっている。
02BALL AND CHAIN
故郷スウィンドンでの地域開発を描いた曲で、イントロはビートルズ「ゲッティング・ベター」風。住居を解体された住民の視点による歌詞の哀感とは裏腹に、メロディは小躍りするように楽しげ。ドラミングも快活だ。
03SENSES WORKING OVERTIME
五感を通じて感じる生きる喜びを歌った朗らかな歌詞のポップ・ソングで、過去にも未来にも最高位となる全英10位を記録。すこぶるキャッチーなサビとその前後のひねくれた展開との組み合わせが、相当に技巧的。
04JASON AND THE ARGONAUTS
人生を冒険旅行になぞらえたポップ・ソング。終わりなき旅、人生の輪廻の象徴か、間断なく循環するサイケがかったバンド・サウンドは、意識下からむずむずとした刺激を送り込む。目まいを引き起こす圧巻のグルーヴだ。
05NO THUGS IN OUR HOUSE
移民排斥運動を行なう右翼集団“国民戦線”の青年を逮捕にきた警官に対し、息子の活動を知らない父親が「ウチの子にかぎって」と懸命にかばう親馬鹿ソング。乱雑なポップンロール・サウンドから皮肉と悪意が立ち昇る。
06YACHT DANCE
男女の関係を海上のヨットになぞらえたラブ・ソング。アコースティック・サウンド主体の流され浮き沈みするような曲調が心地よく、スパニッシュ風ギターやインドネシア楽器“アンクルン”の涼しげな音色も印象的だ。
07ALL OF A SUDDEN
曲題が示すとおり、自分が若くないことに突然気づいた心中が語られる曲。意気消沈する気分そのままの少しうつむき加減のメロディが魅力で、新発見したというコードを使ってのギター・プレイからも、鮮度ある触感の旋律が響く。
08MELT THE GUNS
米国銃社会への痛烈な非難が込められた社会派ソング。「銃を溶かせ」と何度も繰り返されるサビが、破滅への秒読みをイメージした止まないチクタク音の催眠効果によって深々と刷り込まれる。リズム面での冒険も果敢な快作。
09LEISURE
「学校で働き方は教われど、怠け方までは教わっていない」と、欲しくもない余暇を過ごす憂き目に遭った失業者の歌。古きよき英国の音楽を連想させる穏やかな曲調の中なか、アンディのド下手なサックスがむせび泣く。
10IT'S NEARLY AFRICA
文明の発達がもたらす純真さの喪失を歌った曲で、アフリカはその純真さのメタファー。アフロ・ビートを採り入れたパーカッシヴなエスニック・サウンドには、エレクトロな処理によるモコッとした質感が加えてある。
11KNUCKLE DOWN
レゲエ/スカ風ビートのゆったりとしたポップ・ソングで、歌詞では反人種差別や反戦がほのめかされる。演奏クレジットに“蛙”とあるとおり、アンディの鳴き真似が聴ける。アウトロのギター部は没曲を切り貼りしたもの。
12FLY ON THE WALL
ジョージ・オーウェルの小説『1984年』(1949年)を連想させる監視社会を、冗談とも本気とも判断しかねる調子で歌ったモダン・ポップ・ナンバー。ハエが主人公の曲なので、シンセを使った耳障りな羽音が被せてある。
13DOWN IN THE COCKPIT
男には女が必要なのだから、世の男どもよ女性を大切にと呼びかけた曲。駆け足気味のスカ・ビート調ナンバーは、彼ららしい独創性や雰囲気には欠けた嫌いがあり。間奏部ではアンディがジャズ風ギター・ソロを披露している。
14ENGLISH ROUNDABOUT
ペンタングルの「ライト・フライト」風ギター・フレーズとスカ風ブルー・ビートが顔を合わせた、スマートにして異色のポップ・ソング。イギリス都市生活者の生活がユーモラスな筆致で描かれた音も詞も軽妙な作品。
15SNOWMAN
意図せぬうちに書き上げ、のちにその詞がアンディ自身の冷めた結婚生活のメタファーだったことに気づかされる悲しい曲。テリー・チェンバースが細かく刻む技巧的にして独創的なリズムが、楽曲に得がたいグルーヴを生んでいる。