ガイドコメント
トッド・ラングレンのプロデュースでビートとポップ性のバランスをうまくとって大ヒットした86年の第8作。リマスタリングなので、ラングレンの音作りの秘密がクリアに聴こえるかも。
収録曲
01SUMMER'S CAULDRON
夏の暑さや爽快さを「煮え立つバター」などの抽象的表現で描いたポップ・ソング。バックで絶えず鳴き続けている虫や鳥の声が、夏らしさの演出に貢献。多彩かつ複雑なリズム・パターンが最後まで印象的に展開されている。
02GRASS
草原での秘めごとを牧歌的な曲調で描いた曲。ギターとストリングスが絡み、そこにコーラスやコンガも加わる音世界。それまでの彼らにはなかったサイケなサウンドで新生面を披露。曲の最後には虫や鳥の鳴き声が再登場。
03THE MEETING PLACE
恋人を待つ労働者を主人公にした柔らかいメロディのポップ・ソング。ローリング・ストーンズ「ファクトリー・ガール」を連想させる歌詞は現代を舞台にしたものだが、サウンドは蹄鉄(ていてつ)の音が被せるなど、なぜか中世の時代を彷彿とさせる。
04THAT'S REALLY SUPER, SUPERGIRL
お高く留まった女性を優雅なメロディでわかりづらく皮肉った曲で、ユートピア『ディフェイス・ザ・ミュージック』からスネアの音のみを引用する奇矯な録音法を採用している。デイヴ・グレゴリーが渾身のギター・ソロを展開。
05BALLET FOR A RAINY DAY
雨天のレインコートを果物の色になぞらえたカラフルな歌詞。恐ろしく精緻なアレンジが詞の色彩も増してみせるメロディアス・ナンバーだ。歌詞に用いた語句の正誤を巡り、アンディはトッド・ラングレンと2時間も激論を交わしたという。
061000 UMBRELLAS
女性に捨てられた惨めな気分を重苦しい雰囲気で表現した失恋ソング。10回以上も書き直したデイヴ・グレゴリー作のストリングスが、アンディ・パートリッジのやけに真に迫ったダメ男ヴォーカルの魅力を引き出している。
07SEASON CYCLE
春夏秋冬が自然の摂理によるものなのかを軽い疑問として歌った曲。ポジティヴなメロディ、流れるようなハーモニーやピアノ、入り組んだアレンジなどに、ビーチ・ボーイズへのリスペクトの念も感じられるポップ・ソング。
08EARN ENOUGH FOR US
子宝を授かった労働者夫婦の耐え忍ぶ姿が描かれたキャッチーなナンバー。ビートリッシュにスタートする楽曲は、妙なコード進行など、お得意のツイストをあちこちに効かせながら展開。強めのベース・ラインも印象的だ。
09BIG DAY
いずれ行なわれる愛息の結婚式に思いを馳せ、コリン・ムールディングが父親としてのメッセージを綴った曲。いわば芦屋雁之助「娘よ」の息子版。東洋的なイントロなど、曲全体にサイケデリックなアレンジが施してある。
10ANOTHER SATELLITE
妻帯者のアンディが、アメリカで見惚れた女性の熱心すぎるアプローチに苦慮し、「もう、かまうな」の意味で書いた曲。のちに彼女とは本格的に交際することになる彼の複雑な立場・感情が、そのままメロディに反映された。
11MERMAID SMILED
子供の純真さを示す小道具として人魚を用いたナンバー。アコギを鉄琴が追いかける軽やかなイントロや、ボンゴやミュートしたトランペットに波音も加わるスウィングする音世界が、海辺に来たような開放感を体感させる。
12THE MAN WHO SAILED AROUND HIS SOUL
デモ段階ではフォーキーなアコースティック・ナンバーだったものが、トッド・ラングレンのプロデュースを経て、ビッグ・バンド風スパイ・ミュージックに大変身。アンディもスタイリッシュに歌唱し、そのムードを援護している。
13DYING
隣家に住む老人の孤独な人生に同情しつつ、自分はそうなりたくないと歌う、しんみりとしたバラード。メロディの背後でチクタクと時を刻む時計やクラリネットのわびしい音色が、メランコリックな曲調にダメ押しをする。
14SACRIFICIAL BONFIRE
古代の儀式を思い描いた曲で、ギターやドラムスもどこか民族的な色合い。途中、厚みの あるストリングスが登場し、スペクタクル度が上昇。演奏クレジットに“焚火”とあるとおり、火がはぜたような効果音が聴ける。
15DEAR GOD
カレッジ・チャート1位を記録し、米国での知名度上昇に貢献した曲。ビートルズ「ロッキー・ラクーン」を思わせる曲調で、子供が神に神の存在を問う歌詞は皮肉たっぷり。そのため米国では放送の是非を巡る騒動も。