ガイドコメント
デジタル・リマスタリングによるジョン・レノン作品シリーズの最新作。『ダブル・ファンタジー』と同時期録音のアルバムに未発表音源を含むボーナス・トラックを追加した、うれしい発売だ。
収録曲
01I'M STEPPING OUT
02SLEEPLESS NIGHT
ジョンの「アイム・ステッピング・アウト」に対応する曲。ジョンがいない夜の寂しさを歌っているようだが、歌詞と表現はとてもコミカル。ヨーコが書いたポップ・ソングの中でも最も楽しい曲のひとつ。こんなこともできるのか、と驚く人もいるはずだ。
03I DON'T WANNA FACE IT
軽快なロックンロール・ビートを引き連れて、ジョンが楽しそうに自分自身をからかっている。「人類を救済したいんだって/人間が嫌いなくせに」など、その舌鋒はコミカルだが鋭い。ジョンが自分自身に向けて歌った「ハウ・ドゥ・ユー・スリープ?」。
04DON'T BE SCARED
レゲエ調のリズムを乗って、ヨーコがジョンをやさしく励ましている曲。彼女が脚本と作詞を手掛けたオフ・ブロードウェイのミュージカル『ニューヨーク・ロック』の劇中でも「スリープレス・ナイト」「アー・サニティ」とともに使用されている。
05NOBODY TOLD ME
「失われた週末(ヨーコとの別居時期)」でのジョンの心の乾きがありありと表われた、哀愁のバラード。ショービズ界で身を粉にする自身を自嘲し、ヨーコのいない虚しい心中を切々と綴るジョンの歌声は身につまされるものの、快活なロック・ナンバーでは出せない、渋い男の色気は絶品だ。
06O' SANITY
生ギターを使ったアコースティックなサウンドをバックに、ヨーコが「正気」について歌う。まるでポエトリー・リーディングのような歌い方が鮮やか。小品だが、シンガー/パフォーマーとしての彼女の高度なスキルを改めて思い知らせてくれる。
07BORROWED TIME
若き日を振り返り、そして「年をとって良かった」と語る、味わい深いレゲエ調のナンバー。バックを彩るトロピカルなサウンドは、ショーンと訪れたバミューダの風景を思わせる。その旅行中、ジョンは海上で嵐に遭い、絶体絶命の状況を体験し、「人生観が変わった」という。この後、ジョンは音楽シーンへカムバックする。
08YOUR HANDS
日本語で歌われるヨーコの曲。メランコリックなサウンドを背景に、声楽を学んでいたこともあるというヨーコならではの歌声が響き渡り、そして英訳詞がナレーションされる。英語を母国語とする聴き手には、この曲は神秘的な印象を与えるようだ。
09(FORGIVE ME) MY LITTLE FLOWER PRINCESS
カリプソやレゲエを思わせるエキゾチックなリズムに乗って、ジョンが「小さな花の王女様」に許しを請うている。エレクトリック・ギターのカッティングが絶妙。ジョンの作品としては異色だが、メロウなタッチが心地よい佳作。
10LET ME COUNT THE WAYS
ピアノの弾き語りによるヨーコの曲。エリザベス・ブラウニングの詩の一部を引用し、ジョンへの感謝の念が歌われている。姉妹作(いや夫婦作)ともいえるジョンの「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」に対応させるためにカセット録音のデモ・トラックを収録。
11GROW OLD WITH ME
ジョンが遺した最後の名曲。自然発生的なメロディと「一緒に歳を重ねよう」という歌詞も見事だが、何よりもピアノとリズム・ボックスにバックアップされたジョンの歌声が美しい。カセット録音のデモ音源に深いエコーを被せ、回転速度を速めたヴァージョン。
12YOU'RE THE ONE
1980年のレコーディング・セッションで録音されたヨーコの曲。ジョンもギタリストとして参加している。ここでの彼女の歌はポエトリー・リーディングに近い。ジョンと自分をさまざまな人物にたとえ、最後に「ただの男の子と女の子だった」と結ぶ歌詞が秀逸。
13EVERY MAN HAS A WOMAN WHO LOVES HIM
シングルとしてリリースすることを薦めていたお気に入りのヨーコの曲「男は誰もが」をジョンが歌ったカヴァー・ヴァージョン。ヨーコを驚かせるために内緒で録音したらしい。1984年にヨーコの作品のカヴァー曲を集めたコンピレーション盤に収録された。
14I'M STEPPING OUT
1980年に録音されたデモ・トラック。生ギターの弾き語りだが、音質もよく、曲そのものの魅力をダイレクトに伝えてくれる。ジョンのヴォーカルも素晴らしい。たぶん同年夏にバミューダ諸島で録音された9曲の内の1曲。
15I'M MOVING ON
『ダブル・ファンタジ-』に収録された「アイム・ムーヴィング・オン」のデモ・トラック。ピアノの弾き語りによるもので、ダコタハウスでカセット録音されている。シンプルな曲だが、ヨーコの音楽の魅力を凝縮したような力強さがここにはある。
16INTERVIEW WITH J & Y DECEMBER 8TH, 1980
1980年12月8日の午後に行なわれたジョンとヨーコへのインタビュー。ヨーコ、ショーン、ビートルズ、60〜80年代についてジョンは大いに語り、計画中の今後の音楽活動についても言及している。ここでの二人はとても幸せそうに笑っている。