ミニ・レビュー
深い海に沈み込んだ後に浮上してきた4人が選んだのは歌心の回復。しかし最新のレコーディング技術も披露されている曲は、無垢な自分への回帰とは程遠い。そう、ここにあるのは成熟した歌ばかりで、すべてが大人の感覚によって支えられているのだ。
ガイドコメント
2002年5月に発表され、デビュー10周年を飾った10作目のアルバム。桜井のシャウトが冴える「優しい歌」、秀逸なバラード「君が好き」ほか全15曲。10年選手にふさわしい、深みのあるバンドの音に風格も漂う秀作。
収録曲
01overture
02蘇生
アルバム『It's a wonderful world』の1曲目を飾った……っていうか1曲目以外には収まりそうもないほどにダンサブルなポップ・チューン。タイトルからは、メンバーの心意気も読み取れる。
03Dear wonderful world
04one two three
ミディアム・テンポの陽気なシャッフル・ナンバー。間奏ではアントニオ猪木のセリフが流れるが、これはアントニオ猪木の言葉に感動した桜井和寿が、本人に許可をもらい、引退試合のビデオから録音したもの。
05渇いたkiss
ミスチルには珍しいメロウな曲調で、ブラスをフィーチャーしたAOR風ナンバー「クラスメイト」を連想させる。恋愛の真実を抉り出した残酷な歌詞で“ポップス”とは程遠い悲痛なナンバーになっている。
06youthful days
ラヴ・ソングの形を借りて、青春の痛みや悲しみを浮き彫りにする、桜井和寿節が炸裂した疾走感あふれる感動的なナンバー。10代の頃のだらしなげな“匂い”さえ喚起させる歌詞の生々しさが秀逸。
07ファスナー
ウルトラマンの背中にファスナーを見つけてしまう悲しさを人間関係にあてはめた歌詞がユニーク。2003年には、映画『Jam Films 2』で、この曲にインスパイアされた短編「FASTENER」も制作された。
08Bird Cage
09LOVE はじめました
アルバム『It's a wonderful world』に収録されたヘヴィなロック・ナンバー。“冷やし中華はじめました”の“冷やし中華”を“LOVE”に置き換えたシニカルな歌詞が面白い。
10UFO
アルバム『It's a wonderful world』に収録されたアップ・テンポなポップスだが、「そこまで言わなくても」と思うほど、歌詞の歪み加減がものすごい。歌詞だけを読むと、とても悲しい気持ちになる。
11Drawing
最も崇高でありながら最も不確かな存在である“愛”を描こうとする行為の虚しさ。ラヴ・ソングを書き続ける桜井和寿のジレンマが“Drawing”に例えられ巧みに表現されている。壮大なエンディングが感動的。
12君が好き
TVドラマ『アンティーク』の主題歌となった、ミスチルらしいほがらかなラヴ・ソング。桜井和寿の得意とするナイーヴな感情表現がストレートに表現された歌詞が秀逸で、つい口ずさんでしまう。
13いつでも微笑みを
アルバム『It's a wonderful world』に収録された、まさにアルバムのための曲といった小品。ミスチルのどの曲にも似つかない、不思議なテイストを持った曲に仕上がっている。
14優しい歌
ストレートでシンプルな演奏で奏でられる直球の青春賛歌。「甘えていた鏡の中の男に今復讐を誓う〜」といった自己批判的な歌詞も、不思議なほどまっすぐ万人の心に溶け込んでくる。まさに優しい歌。
15It's a wonderful world
アルバム『It's a wonderful world』のメッセージが凝縮されたようなアルバムのテーマ曲。ポップスにおける永遠のテーマとも言える“この素晴らしき世界”を実にユニークに綴っている。