ミニ・レビュー
我が道を行く女性シンガーのソロ第4作。スローな落ち着いた曲を、じっくり聴かせている。もともと才能のあった人だが、最近の充実ぶりは目を見張るものがある。マイケル・ロックウッドのギター、プロデュースが秀逸。エイミーの持ち味を十二分に引き出した。★
ガイドコメント
映画『マグノリア』のサウンドトラックの大ヒットも記憶に新しいエイミー・マンのアルバム。アーティストとしての素晴らしい才能と、女性としての奥深い魅力が光る。「トゥ・オブ・アス」をボーナス収録。
収録曲
01HUMPTY DUMPTY
対人関係を築けず周囲に当り散らす主人公を物憂げな曲調で描写。アルペジオやスライド・ギターの尾を引く旋律が音空間の隙間を吹き抜けるよう。悲観的な内容ながら、同時に達成感めいたものも感じさせるユニークな曲。
02HIGH ON SUNDAY 51
「罪を憎んで人を憎まず」ならぬ「人を憎んで罪を憎まず」と歌い、人間関係における依存を「私をあなたのヘロインにして」と、刺激的な物言いで表現。ドブロ・ギターのシブい音色も加わった珍しくブルージィな作品。
03LOST IN SPACE
アルバム『ロスト・イン・スペース』の主題である“絶望”や“迷い”を、宇宙を彷徨うさまに置き換えてみせた曲。奥行きを意識させるスペイシーな音空間の彼方に、各楽器の旋律が翳りとひずみをまといながら消えていく。
04THIS IS HOW IT GOES
ドラッグ依存者に語りかけるように歌う彼女が、さながらセラピストのように思えてくる優しい雰囲気の曲。ドラッグに言及した歌詞を反映し、サウンド・プロダクションにもサイケデリックなギミックが加えられている。
05GUYS LIKE ME
恋愛関係や雇用関係など、あらゆる対人関係に置き換えられそうな歌詞のバラード。ポップ・ミュージックの遺産がセンス良く消化されたサウンドとメロディで、もの悲しく淡々とした世界を演出。地味だが忘れがたい佳作。
06PAVLOV'S BELL
恋人への懇願と問いかけで綴られた甘さ控えめのラヴ・ソング。ギター中心の力強い曲で、ベースはジェイソン・フォークナーが担当。彼女がドラマ『バフィー〜恋する十字架〜』にゲスト出演した際に演奏したのがこの曲。
07REAL BAD NEWS
ビートルズやエリオット・スミスの影響をエレクトロニカな編曲で撹拌したような曲。ワルツ系のゆったりとしたテンポに反し、歌詞では恋人への率直な物言いが。彼女自身によるコーラス“♪ダバダダダダー”が素敵に無表情だ。
08INVISIBLE INK
ひと目惚れを小手先の奇術に喩えるなど、彼女独特のレトリックが随所で決まる苦いラヴ・ソング。弾き語り調の静かな展開から、バック・バンドがあぶり出しのように登場する力強い後半へと変転させるアレンジが絶妙。
09TODAY'S THE DAY
ジェニファー・ロペス主演映画『イナフ』(2002年)に提供した曲を自作用に修正した別ヴァージョン(映画版は未CD化)。なだらかなメロディがサビ部分で控えめに高揚。彼女の凛然たる歌声と高い歌唱力が堪能できる。
10THE MOTH
誘惑や馴れ合いの関係を蛾と炎を用いて表現した曲。アコースティック・ギター主体のメランコリックな曲調に幽玄なエフェクトを被せて空間的演出を施している。曲の最後には炎が燃え上がるような効果音が聴こえてくる。
11IT'S NOT
ストリングスが跳ねたり滑ったりしながら悲しく優しい歌唱と併走する美しいナンバー。スタンダード・ポップスのような趣にほのかに加わるロック・テイスト。歌詞には「ロスト・イン・スペース」との共通性が散見。
12TWO OF US
映画『アイ・アム・サム』(2002年)に提供したビートルズ・カヴァー。彼女がポール・マッカートニー、夫マイケル・ペンがジョン・レノン役を担当したデュエットは、原曲のカントリー・テイストを活かした好演となっている。