ミニ・レビュー
本年度ベスト・アルバムの最右翼。強く美しい透き通ったメロディと、完璧な危うさを真っ正面から叩きつけるバンドのグルーヴが素晴らしい。亀田誠治も名アシスト。随所に挿入されるオルガンのソロだけで一晩飲み明かせる、そんな名盤。ぜんぶ、名曲。★
ガイドコメント
『ハヤブサ』から約2年ぶり通算10枚目のオリジナル・アルバムが完成。「さわって・変わって」や「遥か」など既発シングルと新曲で構成された本作、結成15周年の貫禄と瑞々しさが同居した話題盤だ。
収録曲
01夜を駆ける
冷たいピアノの旋律が、夜の街に響き渡るかのような……スピッツらしからぬ、温度を感じさせないシリアスなロック・ナンバーである。“バラ色の想像図”が、胸を締め付けるような絶望的なメロディのなかで、鮮やかに散っていく。
02水色の街
03さわって・変わって
04ミカンズのテーマ
ちゃんとロックしてるのに、どこか情けなく、懐かしい味わい。「ミカン」という言葉の響きがぴったりハマる、新生スピッツのテーマ・ソング(?)。「ミカ〜ンズ、ミカ〜ンズ」って……なんとも甘くて酸っぱいコーラスが聴ける。
05ババロア
淡々と刻む4つ打ちビートの上を、アルペジオが滲んでいく……淡く淋しげな色彩の中で展開される“君がいた夏の日”への追憶。「会いに行くから」という、叶わぬ想いを抱え込んだその歌声は、あてもなく宇宙空間を彷徨う。
06ローテク・ロマンティカ
サムライになったつもりの“犬”の視点が、シンプルなリフと並行して淡々と綴られる、ガレージ・パンク風のナンバー。アングラな匂いを放つサウンドを背に、めいっぱい強がる弱虫な“俺”の語り口は、なんとも愛くるしい。
07ハネモノ
08海を見に行こう
久々に肩の力を抜いたフォーク・ナンバー。その爽やかさは、タイトルから想像に難くない。かき鳴らされるギターは、子供のような無邪気さを湛え、チェンバロの旋律は、マサムネのメルヘン・ワールドを瑞々しく彩っていく。
09エスカルゴ
重厚なギター・リフに、ダイナミックなメロディ・ラインはまさに王道パワー・ポップ。UKカラーの上に“弱虫ワールド”を描き出す。スピッツらしいアプローチながらも、今までとは一線を画す、何か吹っ切れた感のある快作である。
10遥か (アルバム・ミックス)
11ガーベラ
淋しげに響くアルベジオの上に広がる、悲壮な歌声……、それはまるで鮮やかな血が滲んでいくような、胸を締め付ける光景のごとく。切なる想いを、その甘美なメロディ・ラインいっぱいに描き上げた、究極のラヴ・バラードである。
12旅の途中
“君”を見守るやさしい視線に、“人生=旅”というテーマを絡めた、穏やかなアコースティック・ナンバー。誰かの温もりで春になったり、誰かの言葉で冬になったりと四季の移ろいを生きる僕らは、みんな旅の途中である。
13けもの道
「東京の日の出、すごいキレイだなあ」と、のっけからインパクト抜群の直球ハード・ロック。荒削りなサウンドの中に、しっかり根を張り、誇らしげに花を咲かせるスピッツ・ワールド。その意地らしいまでの美しさを拝むべし!