ミニ・レビュー
何も変わってないなーと言いたいところだが、やはり7枚目ともなるとそれなりの変化はある。ヒロトの作る歌にミディアム〜スローのものが多く、コーラスの多用など、メロディアスな要素がより耳に残るのが特徴。しかし、聴いたあとのすがすがしさは変わらない。
ガイドコメント
マキシ「Too Late To Die」「一人で大人一人で子供」に続く2002年を締めくくるにふさわしいアルバムが完成。スピーディーで男気あふれる無頼のハイロウズ・サウンドが詰まった1枚。
収録曲
01Too Late To Die
曲名を連呼するシンガロング必至の歌詞や曲調自体もシンプルさを極めているにもかかわらず、タテノリの極上グルーヴを最高潮に高めた仕上がりだ。ライヴで拳を振り乱し、歌い上げているファンの姿が透けて見えてくる豪快なロックぶりだ。
02ななの少し上に
軽快な8ビートが心地良いポップ・ロック・ナンバー。“なあ なあ〜”を繰り返すシンプルなサビが、甲本ヒロトの存在感ある声によってインパクトの強いフレーズに昇華している点に注目。“なな”とは北斗七星のことか?
03スカイフィッシュ
ワウ・ギターのカッティングが印象的なグルーヴィなファンク・チューン。黒人のようなパンチの利いたヴォーカルや随所で大暴れするマーシーのギター・ソロなどが聴きどころ。インパクト重視の歌詞も実にファンキーだ。
04アメリカ魂
ストレートな言葉で9.11後のアメリカを批判したキャッチーなロック・ナンバー。“〜だぴょん”など、ムキにならない程度の塩梅の良さが見事。アメリカン・ロック風仕立てという、二重の意味での皮肉も面白い。
05毛虫
甲本ヒロトの十八番となっているチャーミング系ポップ・ナンバーの最高傑作。ほのぼのとしたアコギやチロチロ鳴るシンセ、フワフワと上下させるメロディなど、考えられるすべてのユーモラスなアレンジが施されている。
06天の川
8分の6拍子基調の穏やかなポップ・ナンバー。全編繰り広げられる分厚いコーラスが美しい夜空を連想させる一方で、“カレーライス”や“ゲロ”など、飽くまでマーシーらしい言葉が並び、絶妙な味わいを出している。
07マミー
ピアノのコード弾きによるバッキングを主体としたスロー・バラード。はるか昔に生きていたはずの目の前のミイラに時空を越えて語りかけているような歌で、スケールの大きいロマンとほのかな侘びしさが混在している。
08俺たちに明日は無い
軽快な8ビートが心地良いポップ・ロック・ナンバー。タイトルからもわかるように映画をモチーフにした歌で、歌詞には“モリコーネ”や“用心棒”などが登場する。甲本ヒロトらしい極めてキャッチーなサビが印象的。
09Born To Be Pooh
甲本ヒロトによるチャーミングなナンバー。“時速3時間”や“クリスマプー”など、気の利いた言葉のちりばめられたユーモラスな歌詞が魅力。だらしない生活を送るいわゆる“プー”をモチーフにしていると考えられる。
10映画
ブラス・セクションの温かいサウンドが印象的なライト・バラード。素朴なAメロではボソボソと喋るように歌い、サビでは声を張り上げて歌う甲本ヒロトのヴォーカルを満喫できる1曲。寂しい恋心を綴った歌詞も味わい深い。
11つき指
往年のガレージ・サウンドを彷彿とさせる哀愁系16ビート・ロック。大平洋戦争時に日本軍が占領していた南国の“ラバウル”にいた野球好きの兵隊の歌。曲調が一転するエンディングが聴き手を一気に現実に引き戻す。
12曇天
アルバム『エンジェル ビートル』の中で最も激しいロック・ナンバー。割れんばかりに歪んだギターとツンツンと尖ったパンク・ヴォーカルが魅力。倦怠期のような窮屈な生活から来るストレスを一気に発散させる爽快な1曲。
13ecstasy
サーフ・ミュージック風コーラスが特徴的なポップ・ロック・ナンバー。Aメロからのオールディーズ・テイストを残しつつ、ヴォーカルとギターがハードになるサビと、エンディングのリズム・チェンジが聴きどころ。
14一人で大人 一人で子供
精彩に富んだ鍵盤が明るいムードを与え、中盤に挟み込まれたフルートの音色が郷愁感を漂わせ、楽曲にフックをもたらしている。諦めることはなによりも簡単、過去にも未来にも捉われることなく、今を生きろと主張する歌詞には重みがある。