ミニ・レビュー
ロックの未来を担う存在とその将来を嘱望され続けた4人組の、最後のステージを収録したライヴ・アルバム。ライヴを真骨頂とした彼らの、本当意味でのラスト・アルバムと言って良いだろう。激しさの中にほのかなロマンチシズムが薫る、見事な遺品だ。
ガイドコメント
最強のライヴ・バンド、ナンバーガールの最終CD。2002年11月に実施されたラスト・ツアーのステージを収録したもので、ファンには手元に置きたいアイテムになること必至!
収録曲
[Disc 1]
01I don't know
つま弾かれるギターとともにはじまって、バンド全体で感情を一気に解放し、爆発させていくような出だしから、絶叫する向井。あの娘の本当もうそも知らないと歌い、“I don't know”と吠えまくる。掻き鳴らされるギターとともに、張り詰めた緊張感をじわじわと解放していくようなスリリングな演奏。
02鉄風 鋭くなって
ギザギザしたベースの低音に引っ張られ、切れ味の良いギターと表情豊かなドラムとともに、リズミカルでソリッドな演奏を聴かせる。曲を短く区切っていくような歌い方とメロディが、鋭くエッジの効いた雰囲気をいっそう際立たせている。颯爽としていながら、“風 鋭くなって”という切ない響きのサビが合唱を誘う。
03ZEGEN VS UNDERCOVER
つま弾かれるギターに乗せて向井がナンバーガールの紹介をし、“ヤバイ さらにやばい”との歌い出しから合唱が巻き起こる。爆裂と静寂を行き交う構成を、タイトに引き締まった演奏で聴かせる。そんなクールな演奏の中、“バリヤバイ”という向井の叫びが空気を突き抜けるように浮かび上がる。
04TATTOOあり
ゆらゆらと揺れながら、その揺れからも泣きを感じさせるギターが特徴的。力強いドラムを筆頭に強調されるリズムによって気持ちが高ぶっていき、“右肩 イレズミ”と叫ぶ向井のヴォーカルもよりエモーショナルに炸裂する。中盤、緩やかなまどろみを運び、歪んだギターとともに再び炸裂していく。
05透明少女
「そんな彼女が透明少女なわけよ」という呟きから演奏がはじまり、透明感のあるギターがかき鳴らされ、抜けの良いグルーヴとともに一気に疾走していく。スピード感がありながら、乱れのないまとまった演奏が、曲の持つ爽やかさをいっそう引き立てる。夏の一瞬のきらめきが、景色や匂いや温度をともなって伝わってくるようだ。
06はいから狂い
リヴァーブがかったギターの残響音が響きわたるなか、“病気はどんどん進行”と吠える。よろよろした雰囲気を醸し出しながらも、素早くリズムを刻んでいくギターが、“はやり病に冒された”人々の痙攣のようにも聴こえる。ドカドカ叩かれるドラムがそれを容赦なく進行させていく。そんななか、“俺はまだ生きている”と叫ぶ。
07URBAN GUITAR SAYONARA
へヴィなギターのイントロから、乾いたドラムと東洋的なフレーズのギターが重なって、全体的にドライな雰囲気で進んでいく。ギターのカッティングが輪郭のはっきりしたリズムを刻み、サックスやピアノがない分、原曲よりは軽やかな印象。語り口調の向井のヴォーカルは、くねくねとリズミカルな動きをみせる。
08NUM-AMI-DABUTZ
歪んだギターが繰り出すメロディアスな旋律と、早口で念仏を唱えるように“冷凍都市”を斬りまくる向井のヴォーカルが前面に出た演奏。乱れ打つように叩かれるドラムとダンサブルなベースが、リズムを着実に支えている。饒舌な歌詞に対して、歪みながらもあっさりとした演奏が潔く、かえって説得力と鋭さが増している。
09delayed brain
溜めを効かせたルーズな演奏で、大人っぽくブルージィに聴かせる。低音から高音までを丁寧に行き来するギターの音色が美しい。奥行きを感じさせるドラムの響きなど、浮遊感漂うバンド・アンサンブルによって、意識が朦朧としている脳内を表現した曲の雰囲気がよく出ている。向井の静かに抑えた歌い方も、色気がある。
10性的少女
不穏なベースと和を感じさせるギターとともに幕を開けていき、ドラムが合いの手のように入り、どこかおどけた雰囲気。そのまま下世話な雰囲気で進んでいき、合間に向井が「それからどうしたというのだ?」という台詞を挟み、記憶を自ら消していく“性的少女”の悲しみや空しさを叫ぶようにして炸裂していく。
11CIBICCOさん
前半は、ブイブイうねるベースと淡白なギター・リフに先導され、シンプルに削ぎ落とされたバンド演奏を聴かせる。後半、緩やかにテンポを落として、黄昏れた雰囲気を醸し出している。公園で野球をして遊ぶ子供たちや犬の散歩をしている女性を歌いながら、夕暮れどきにたった一人佇んでいる男の哀愁を感じさせる。
[Disc 2]
01SAPPUKEI
「殺す風景を見ていたのでありました」と向井が言って演奏開始。一定の冷静さを保った、短いギター・リフが曲を引っ張る。ひんやりとした質感はそのままに、殺伐とした空気を静かに切り裂いていくような張り詰めた緊張感が漂う。“殺す風景!!”と叫ぶ向井のヴォーカルも消えていきそうなほどの“殺風景”を描くナンバー。
02U-REI
メロディアスなフレーズを繰り返すベースと絶妙な間を効かせたドラムによる、でこぼことしたリズム感が気持ち良い。そこに、ディストーションがかったギターが絡みつく。夕暮れどき、感傷的な気分や憂鬱に飲み込まれそうになるさまを、それを振り払うかのように“ユーレイ 死に神 見たのは夕暮れ”と腹の底から叫ぶ。
03MANGA SICK
容赦なく人の心に切り込んでくるような刺々しいギターとそれに呼応するようなギターによる、ツイン・ギターの掛け合いが面白い。“漫画の恋をしていたい”と願う彼女の気分をぶち壊していくように、殺伐としたバンド・サウンドが迫りくる。しかし、向井のちょっととぼけた歌い方によって、メロディの可愛さが浮き出ている。
04SENTIMENTAL GIRL'S VIOLENT JOKE
ダークな雰囲気のギターのカッティングに引っ張られ、ヘヴィに進行していく。歌のメロディに呼応するような、ギターのメロディアスな旋律が頭に残る。“無気力と感傷行ったり来たり”するあの娘のやるせなさやヤバさがじわじわと伝わり、隙間と隙間の間を埋めるようにして、ドラムが叩き鳴らされている。
05DESTRUCTION BABY
“U・S・録・音”というカウントからはじまり、心地良い疲労感を漂わせながら進むバンド・サウンドに、美しいカタルシスを感じる。所在なさげにふらつくギターは、めまいをそのまま音にしたようでもあり、その中に眩しさや清々しささえ感じさせる。“コントロール不能の気持ち”の解放感やそこに潜む狂気を緩やかに描くナンバー。
06YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING
ヘヴィなギターと軽やかなドラムに乗せて、自分の知らない何かを知っているものへの羨望や憧憬を織り交ぜて向井がエモーショナルに歌い上げる。着実にリズムを刻むベースが、じわじわとドラマティックに心を揺さぶり、徐々に感情が高ぶって泣き叫ぶような向井のヴォーカルを、力強い演奏が骨太に支えている。
07TRAMPOLINE GIRL
“背高草のざわざわっと”という一節を歌ってから演奏開始。躍動感のあるリズムと凛としたギターによって、喧騒に飲み込まれてしまう自分と惑わされない少女とを対比するように、静寂と喧騒を行き来する。少女に対する憧れと嫉妬をないまぜにして“あの娘の勝利”と歌うバックの、抜けの良いサウンドが心地良い余韻をくれる。
08日常に生きる少女
轟音とともに幕を開け、かき鳴らされるギターを合図に疾走していく。前半は躍動感あふれる演奏で一気に突っ走り、爆音を鳴らした後、テンポを落としてスローに聴かせる。日常のアップダウンを思わせるその構成に乗せて、日常に生きる光景をダルそうに歌っている。それが切実さをともなって、日常に生きることをリアルに伝えてくる。
09OMOIDE IN MY HEAD
「ドラムス、アヒト・イナザワ」の掛け声からスタート。“感傷のうずまきに沈んでゆく俺”の想い出やら残像やらを一気に振り払うかのように、バンド・サウンドが随所で轟音を鳴らしながら疾走していく。さまざまな想い出や残像を背負いながら、それを振り切るように歌われる向井の歌声も、擦り切れそうで、切なさは沸点に。
10IGGY POP FANCLUB
力強くギター・リフがかき鳴らされ、ナンバーガール最後のライヴの最後の曲へ。分かりやすいポップな曲をストレートに力いっぱい演奏するバンド・サウンドは、熱くエネルギッシュ。向井のくねくねした歌い方も、一体感が凝縮されたそのサウンドに乗せて、最後には吠えまくる。演奏後の「乾杯!」という言葉が胸に残るナンバーだ。