ミニ・レビュー
テレビ朝日系ドラマ『動物のお医者さん』の主題歌として、ユーミンのカヴァー「朝陽の中で微笑んで」を歌っているのが諫山実生。その諫山のデビュー・アルバムが本作。彼女の魅力的なヴォーカルの原点がここにある。癒されつつ、明日への希望が湧く……。そんな一服の清涼剤。★
ガイドコメント
謎に包まれた歌姫の1stアルバム。蛭子能収監督作品『諫山節考』の主題歌「手紙」、NHK『みんなのうた』の「恋花火」を収録。シンガー・ソングライター諫山実生のすべてが集約されている。
収録曲
01手紙
シンプルなピアノと漂うように流れるヴァイオリンの音が、遠い故郷の情景を思い浮かびあがらせるバラード。しっとりとしたなかにも、沖縄風の歌い回しや民族的なサウンド・アクセントで、厚みを与えている。
02恋花火
デビュー曲。夏の風物詩である“花火”に恋心を重ね合わせて歌った曲。力強い鍵盤の響きとエコーがかかった音響が夏祭りの情景を想起させ、ノスタルジックな雰囲気を醸し出す。伸びやかなメロディと歌声によって、花火と一緒に恋心も夏の空にスッと打ち上げられていくような、爽快さと切なさを同時にくれる曲。
03告白日記
ゆったりとしたメロディに乗せて、隠しきれない想いを相手に告げるバラード・ナンバー。振り向くことのない相手に“彼女じゃなきゃダメなの?”と問いかける歌声が生々しく、主人公の溜め息が漏れ聞こえてきそうだ。一方通行でありながら、止めることのできない想いが、“大好き”というフレーズに込められている。
04撫子の華
静かな春の訪れを感じる曲。悠久の時の流れを感じさせるサウンドに乗せて、遠いどこかにいる友へと歌いかける。ひとつひとつ言葉を噛み締めるように“友よ友よ”と切々と語りかける歌声が胸に残る。思い出に別れを告げて、一歩ずつ歩き出そうとする決意を、やわらかく優しく歌い上げる。
05SAYONARA
ピアノの弾き語りによるひとり言のような歌いだしから、そよ風のように繊細で爽やかな空気を運ぶギターなどの音が徐々に重なっていくにつれ、思い出があふれ出し、感情も高ぶっていく。“なぜ私のそばから離れていってしまうの?”という言葉が切実に歌われる。別れの苦しさを、痛いくらいに真っ直ぐに歌った曲。
06アオイトリ
ギターがつま弾かれ、サンポーニャの乾いた笛の音が響きわたる哀愁を帯びたナンバー。自分の進むべき道に迷った心を鳥に喩え、歯切れの良いリズムに乗せて流れるようなメロディで歌う。荒野を感じさせるサウンドが、旅人のさすらいを思わせる。迷いの中で、“忘れてた飛び方”を思い出していくことを歌う。
07Once Again
つま弾かれるキーボードと、さり気ないヴァイオリンの旋律に導かれるように歌われるエモーショナルなメロディが印象的。息遣いまで聴こえてくる歌声から最後の願いを託すように囁かれる“once again”まで、別れた相手をずっと忘れられず、胸が掻き毟られるような想いが伝わってくる。
08雪月花
軽快でポップなメロディと風通しの良いサウンドに乗せて、日常から“平和と愛”までを綴った、大きな視野と強い意志を持った詞を歌う。エッジの効いたギターが曲に力強さを与え、“私は私らしく”というシンプルなメッセージが胸に響いてくる。何気ない毎日を大切に思う気持ちをくれる曲。
09六月のうた
潤いのある音構成から、しとしとと雨が降る音が聴こえてきそうなナンバー。忘れられない人の優しすぎる思い出やぬくもりが胸のなかにあふれてきて、“しつこい六月のこの雨のように”頭を離れないと歌う。情緒のあるメロディとサウンドが、思い出の優しさとズルさを描き出し、そこから解放されるようにと願う。
10Eternal Love
ヴァイオリンによるイントロから、キーボードの弾き語りで力強く歌われ、徐々に音が重なり、世界や未来に対する大きな愛を歌った詞の世界を広げていく。子どもの笑い声が聴こえてくるのが印象的で、後半は子どもたちとともに合唱する。決して大げさにならずに、一人の人間としての温かな目線が感じられるナンバー。
11OMOI
諫山実生自身によるピアノ弾き語りの曲。しっとりとしたスロー・ナンバーを、強弱のついたリズミカルなピアノ演奏に乗せてじっくりと聴かせる。無音部分からも想いが伝わり、胸に込み上げてくる愛情を感じさせる、子守唄のように優しく穏やかな響きも持っている。愛おしさに満ちた歌唱に包み込まれるよう。