ミニ・レビュー
これまで辿った実験的な道筋をすべて踏まえながらも、再びバンド・アンサンブルの感覚が呼び起こされたかのよう。問題作を世に送り出し続けてこれが通算6作目となるが、キャリアを増すごとに強まるシニカルな表情が若返った音とぶつかり、すさまじい情景が静かに延々続く。★
ガイドコメント
ロック界最大のカリスマが放つ6thアルバムを日本先行発売。2002年のライヴでも演奏されたキャッチーなナンバーはもちろん、濃密なナンバーも多数収録。実験的な作風からさらに前進したサウンドはさすが。
ガイドコメント
現代ロック最大のカリスマが放つ6thアルバムを日本先行発売。2002年のライヴで演奏したキャッチーな楽曲を多数収録。実験性は薄れ、ギター主体のメロディアスな作風に戻っている。
収録曲
012 + 2 = 5 (THE LUKEWARM.)
『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』のオープニング・ナンバー。レディオヘッドの楽曲に頻出する「変拍子」に「疾走感」が加わっている。レディオヘッド初期のギター・サウンドを彷彿とさせ、サビで爆発する展開は涙モノ。
02SIT DOWN. STAND UP. (SNAKES & LADDERS.)
打ち込み系のドラム音で静かに幕を明け、徐々に上がっていくテンションが「rain drops」のリピート部分で最高潮に到達。楽曲の展開と聴く者の興奮度合いが、リンクすること間違いなしのナンバー。
03SAIL TO THE MOON. (BRUSH THE COBWEBS OUT OF THE SKY.)
専売特許の“変拍子”はこの曲でも健在。だが、リズムの複雑さをまったく感じさせない美しいトム・ヨークの歌声とメロディがフィーチャーされた名曲。儚げで頼りなさげな歌声だが、メロディの良さを活かすにはそれが欠かせない要素なのかもしれない。
04BACKDRIFTS. (HONEYMOON IS OVER.)
素晴らしいメロディだけで十分成立する楽曲に、タイトな打ち込みのアレンジを組み合わせることで、レディオヘッドならではの画期的な仕上がりになっている。副題の「ハネムーン・イズ・オーヴァー」が何とも意味深に伝わるナンバー。
05GO TO SLEEP. (LITTLE MAN BEING ERASED.)
冒頭のギター&ヴォーカル後の、リズム隊が突入する瞬間は、彼らには珍しく「痛快さ」を与えてくれる、アルバム『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』の中でも人気の高いシンプルなロック・ナンバー。
06WHERE I END AND YOU BEGIN. (THE SKY IS FALLING IN.)
タイトル通り、決して共存することのない二者を歌っている。『キッドA』以降に多用されている浮遊感のある電子音が16ビートの軽快なリズムと融合し、「ノリ」と「メランコリック」の共存が見事に表現されている。
07WE SUCK YOUNG BLOOD. (YOUR TIME IS UP.)
暗いピアノと、トム・ヨークのハイトーン・ヴォイスが、ホラー映画にバッチリはまりそうなスロー・ナンバー。間の空いた手拍子や一瞬だけ垣間見せるフリー・ジャズ風の展開など、ちりばめられたアイディアがクセになる。
08THE GLOAMING. (SOFTLY OPEN OUR MOUTHS IN THE COLD.)
The Gloaming=“黄昏”という詩的なタイトルに反し、「あんたらは人殺しだ、ぼくたちはあんたらと同じじゃない」という、かなりきわどい詞の世界。世界を席巻する「影の支配者」への恐怖や怒りを歌ったアルバム『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』の核といえるナンバー。
09THERE THERE. (THE BONEY KING OF NOWHERE.)
難解なエレクトロ色は控えめで、太いドラミングやギターが、彼らの初期を彷彿とさせる。トム・ヨークのあくびをしたまま歌っているようなヴォーカルが、ひたすら“絶望”を歌う。光の中に狂気が見える作品。
10I WILL. (NO MAN'S LAND.)
ギター&ヴォーカルがシンプルに映えるナンバー。2分弱というタイトな時間の中で、トム・ヨークが自分自身の大切な物を守っていくことへの「決意」を歌う。低いトーンの力強いヴォーカルが魅力的だ。
11A PUNCHUP AT A WEDDING. (NO NO NO NO NO NO NO NO.)
ファンキーな匂いを感じさせる新鮮なナンバー。ゆるいノリで、「結婚式の酔っ払いの殴り合い」という何とも情けない状況を歌っている。トム・ヨークがプレイするリズム・ピアノにも注目。
12MYXOMATOSIS. (JUDGE, JURY & EXECUTIONER.)
冒頭の低音のキーボードがインパクトを与え、「雑種の猫が頭を半分くわえて帰ってきて…」「気に入ったところに行って気に入った女と寝た」などの詞も強烈。しかしそれらにふりまわされない、淡々としたヴォーカルとのアンバランスさが絶妙のナンバー。
13SCATTERBRAIN. (AS DEAD AS LEAVES.)
“昨日の見出しの事なんて誰も覚えちゃいない”と、風に飛ばされていく新聞紙をセンチメンタルに歌った詞をトム・ヨークの優しいヴォーカルが包みこむ、美しさあふれるナンバー。
14A WOLF AT THE DOOR. (IT GIRL. RAG DOLL.)
アルバム『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』のクロージング・ナンバー。エンディングとしては文句のつけようのない、メロディアスかつドラマティックなアレンジが光る。そんな美しいサウンドに乗せて、トム・ヨークが悪意とも思える苦悩を歌っている。