ガイドコメント
ボブ・ディランの初期名作群がSACDハイブリッド仕様で登場。1965年発表の5作目で、バーズが取り上げた「ミスター・タンブリン・マン」ほか、フォーク・ロック・スタイルを提示した重要作。
収録曲
01SUBTERRANEAN HOMESICK BLUES
キャッチコピー満載の歌詞をラップばりの早口で投げ出すように歌うディランがカッコいい。チャック・ベリーの曲を下敷きにしたもので、フォーク・ロック時代の到来を告げた曲でもある。映画『ドント・ルック・バック』冒頭の有名なシーンで使われている。
02SHE BELONGS TO ME
カントリー調の編曲を施した1965年のラブ・ソング。そのメロディとサウンドは、後年のアルバム『ナッシュヴィル・スカイライン』を想起させる。歌詞の一節“don't look back”は、1965年の英国ツアーを撮ったドキュメント映画のタイトルとなった。
03MAGGIE'S FARM
フォーク・ロック時代を代表する1曲。ユルいシャッフル・ビートに乗って「マギーの農場で働くのはもう嫌だ」とディランは歌う。「マギーの農場」は狭苦しいフォーク村の比喩で、頑迷なフォーク信者たちに別れを告げる唄だとも言われている。
04LOVE MINUS ZERO / NO LIMIT
ユニークな数式のタイトルを持つ美しいラブ・バラード。メロディ、歌詞、ヴォーカルが奇跡的なコラボレーションを展開する完全無欠の名曲。彼のラブ・ソングとしては「アイ・ウォント・ユー」と並ぶ最高傑作だ。13年後の武道館ライヴ・ヴァージョンも素晴らしい。
05OUTLAW BLUES
エレクトリック・サウンドによるオリジナル・ブルース曲。トーキング調のヴォーカルの背後のマウスハープが効いている。歌詞に登場するジェシー・ジェイムズとロバート・フォードは、西部開拓時代の伝説的強盗団“ジェイムズ・ギャング”の親玉と子分(裏切り者だが)。
06ON THE ROAD AGAIN
エレクトリック・サウンドによるディラン流ブルース・ロック。トーキング・ブルースから発展させたラップ調のヴォーカルは、この時期のディランによる画期的な“発明”。抱腹絶倒の狂騒的な歌詞も痛快。これじゃ「再び路上に」出るしかないよ、いやマジで。
07BOB DYLAN'S 115TH DREAM
即興的な言葉の奔流が素晴らしいエレクトリック版トーキング・ブルース。ディランが吹き出して録り直すところも良い。歌詞にはエイハブ船長やコロンブスも登場するが、タクシーやホットドッグも登場する。時代考証を無視したSFばりの傍若無人な展開が面白い。
08MR.TAMBOURINE MAN
新時代のディランを象徴する曲のひとつ。ジャック・エリオットとのデュオ録音を封印し、再挑戦したソロ録音。夢の世界に迷い込んだような歌詞のためにドラッグ・ソングだとも批判された。ザ・バーズのフォーク・ロック・ヴァージョンは全米No.1ヒットを記録。
09GATES OF EDEN
アコギとマウスハープだけで見事にロックしてみせるバラード。“エデンの門”の内側と外側を対比してみせる歌詞も秀逸だが、フォーク時代とは大きく異なるディランのヴォーカルが圧巻。当時のロック・バンドでは追いつけなかった桁外れの才気がここにはある。
10IT'S ALRIGHT, MA (I'M ONLY BLEEDING)
アコギの弾き語りによるトーキング・ブルース調の曲だが、ディランのヴォーカルはもはやフォーキーではなく激しくロックしている。秀逸な比喩や造語を含む即興的な言葉の奔流が凄まじい。最後の結語も見事。いくつかのライヴ音源もそれぞれに良さがある。
11IT'S ALL OVER NOW, BABY BLUE
ジーン・ヴィンセントの「Baby Blue」に触発されて書いた曲。フォーク歌手ポール・クレイトンとの仲違いを歌ったものらしいが、頑迷なフォーク信者に別れを告げる唄だという解釈も可能。アコースティックな演奏によるものだが、感覚はロック的。