ガイドコメント
2003年9月のニュー・アルバムと10月の来日を記念し、初期の名曲を収めたベスト盤をリリース。メロディとギターがあまりにも美しい「アリソン」ほか、いつの時代にも色褪せない名演集だ。
収録曲
01ALISON
02WATCHING THE DETECTIVES
03(I DON'T WANT TO GO TO) CHELSEA
60年代ブリティッシュ・ビートを80年代流の前のめりなビートで再構築したような独創的な楽曲。キーボードの彩り鮮やかな旋律が、着飾る人々への揶揄と悪意をちりばめた歌詞にさらなる毒を盛ってみせる。全英16位。
04PUMP IT UP
上流階級を揶揄した攻撃的な曲で、ほとんどラップのような歌唱はコステロ版「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」の趣。ずっしりしたベース・ライン、キレたオルガンなどバックの演奏も攻めの姿勢。全英24位。
05RADIO, RADIO
ラジオから流れてくる曲がどれも退屈なのは聴く者を思考停止にさせるためだと歌う、キャッチーで軽快な曲調のメディア批判ソング。社会に潜む支配関係に自覚的なコステロは、同時に民衆の思考停止もチクリ。全英29位。
06(WHAT'S SO FUNNY 'BOUT) PEACE, LOVE AND UNDERSTANDING
恩人ニック・ロウがブリンズリー・シュウォーツ時代に書いたポップ・ソングのカヴァー。楽曲の軽快さを損なわずにサウンドやビートに重量感を加えた好アレンジだ。ここで歌う愛や平和にはもちろん皮肉が込められている。
07OLIVER'S ARMY
1649年のアイルランド侵攻を率いたオリヴァー・クロムウェルの名を冠したポリティカル・ソング。アバ「ダンシング・クイーン」の一節も引用したポップな曲調で、帝国主義や軍事侵攻をラジカルに批判する。全英2位。
08ACCIDENTS WILL HAPPEN
プレッシャーが生み出す対人関係での衝突を交通事故になぞらえて、「いつかは起きるもの」と歌った曲。恋人、職場、国家など、多義的な解釈ができる歌詞が深い。キャッチーでメランコリックな名曲だ。全英28位。
09I CAN'T STAND UP FOR FALLING DOWN
サム&デイヴのスロー・バラードをアップテンポに改変した全英4位のヒット・カヴァー。フラれた男を主人公にしたラブ・ソングが、ポップな味付けによりポジティヴな輝きを増す。PVでの冴えなさすぎるダンスも絶品だ。
10NEW AMSTERDAM
フォーキーでノスタルジックな雰囲気の佳曲。曲題や歌詞がオランダを連想させるが、映画『猿の惑星』を思わせるPVを観た後では、古称がニュー・アムステルダムだったニューヨークを歌ったとも解釈ができる。全英36位。
11HIGH FIDELITY
かつての恋人への未練を余計な忠告とともに歌い上げたコステロお得意の嘆き節ラブ・ソング。過去の恋愛を引きずり続ける男の後悔が、ポップでソウルフルな曲調により強度を増している。歌唱の調子もかなり切実だ。全英30位。
12CLUBLAND
ナイトクラブを舞台に描かれるノワール調のナンバー。サスペンスフルな序盤から開放的なサビへと転じる曲調が、利用する側・される側の関係を描いた歌詞の苦味を強調。スティーヴ・ナイーヴの鍵盤も聴きものだ。
13WATCH YOUR STEP
ささやくように、語りかけるように歌唱し、「気をつけろ」と警告を発し続ける意味深なポップ・ソング。若かりし頃に書いた曲のひとつで、軽やかな鍵盤とコシのあるベース・ラインが最後まで印象的に鳴り続ける。
14GOOD YEAR FOR THE ROSES
テキサスの名カントリー・シンガー、ジョージ・ジョーンズのカヴァー。コステロの作品でもたびたび描かれる愛の終焉を歌った曲で、原曲の乾いた空気に英国らしい翳りを加えた、しっとりとした名演だ。全英6位。
15BEYOND BELIEF
スタジオでの着想が注ぎ込まれた精緻でクールなロックンロール・ナンバー。語り手が複数存在しているような歌詞を多重録音により複数名で歌っているように演出するなど、ヴォーカル表現にもひと工夫が加えられている。
16MAN OUT OF TIME
テンポを落として再録した本編に、初期テイクのイントロ/アウトロを連結した「ストロベリー・フィールズ〜」式ポップ・ソング。接合面の激しい差異でも楽しませる名曲で、歌唱の雰囲気はボブ・ディラン調。
17EVERYDAY I WRITE THE BOOK
冗談の中に本音がにじみ出る哀しいラブ・ソング。女声コーラスを配したブルー・アイド・ソウル風の曲で、自身初の全米ヒットとなる36位を記録(全英28位)。PVにはチャールズ皇太子とダイアナ妃のそっくりさんが出演して話題となった。
18SHIPBUILDING
かつてロバート・ワイアットに提供した共作曲のセルフ・カヴァー。フォークランド紛争下の造船業を描きつつ、間接的に反戦を表明した歌詞が秀逸。チェット・ベイカーのトランペット・ソロもただただ素晴らしい。
19LOVE FIELD
ゆったりと揺れるようなリズムと詩情あふれる歌詞で、野外でのセックスを描いた奇妙な曲。しかもメロディには、有無を言わせぬ高揚感が完備。曲の最初と最後で人称を変え、二人の複雑な関係性を描いた技ありの作品だ。
20BRILLIANT MISTAKE
アメリカの掲げる理想と実像とのギャップを、同国のルーツ・ミュージックに根ざしたシンプルな曲調で歌い上げた愛憎混在の佳曲。アメリカが抱える矛盾に、誰の人生にも必ず訪れる矛盾を重ね合わせたような歌詞が奥深い。
21INDOOR FIREWORKS
夫婦の口論を家の中でやる花火になぞらえてみせたアコースティック・ナンバー。しみじみと訴えかけるようなメロディと歌詞が、もはや花火をやる火薬さえ尽きてしまった夫婦関係の破綻と後悔を浮かび上がらせている。
22I WANT YOU
得意の“捨てられた男”視点によるラブ・ソング。執拗に繰り返される「あなたが欲しい」の一節がダウナーな曲調とシンクロし、主人公の自虐的で嫉妬深い性質を強調。どこかビートルズの同名曲を思わせる雰囲気もある。