ガイドコメント
大ヒットを記録した『ヨシュア・トゥリー』に続き、デジタルを導入し新たなスタイル/プロダクションを聴かせた91年発表作品の低価格再発盤。「ワン」をはじめヒット・シングルも多数収録。
収録曲
01ズー・ステーション
前作までの米国音楽巡礼から一変、U2にしてはダンサブルでグラマラスなスタイルへと急旋回したナンバー。リズム隊やイントロでのエッジのフィードバック・ギターが、金属的な質感の音色を響かせている。
02リアル・シング
古きよきアナログ感覚に現在進行形デジタル感覚を同居させたロックンロール・ナンバー。サウンドにはT.レックスを思わせる官能性、歌詞にはブラック・ミュージックを思わせるポジティヴィティ。全英12位、全米32位。
03ワン
“人と人とが支えあって”という、金八先生を思わせるメッセージが込められた胸迫るナンバー。隙間を活かした懐深くドラマティックなバンド・サウンドと、歌世界に深く入り込んだボノの歌唱で、問答無用の名曲に昇華している。
04夢の涯てまでも
キリストとユダの関係を歌い上げ、あげくは両者の同性愛関係らしきことさえほのめかしてみせる、U2版『ダ・ヴィンチ・コード』。「悪魔を憐れむ歌」を思わせるポリリズミックな雰囲気の中で、エッジが硬軟自在にソロ・パートを演じている。
05ワイルド・ホーシズ
ノイジーな序盤とクリアーな中盤以降で音空間に齟齬(そご)が生じている奇妙なナンバー。リリーホワイト、ラノワ、イーノと、個性派三人が関与したことが導いた結果だろうか。メロディ自体はかなり劇的なだけに惜しまれる。
06ソー・クルエル
堅牢なロック・サウンドに、ヨーロッパ的美学を盛り込んだグラマラスなナンバー。耽美で淫靡な歌詞が、性愛行為の持つ中毒性、快楽と苦痛の二律背反的な魅力に言及。ピアノとストリングスが秘めごとのようなムードを演出。
07ザ・フライ
彼らのサイバー路線突入を告げたアシッド・ハウス×デヴィッド・ボウイ風のダンサブルなナンバー。自意識過剰と揶揄される自らを誇張した誇大妄想偏執キャラ“ザ・フライ”に扮したボノが、ラップらしき歌唱まで披露している。
08ミステリアス・ウェイズ
切れ込むようなギター・リフが瞬発力を、レゲエの作法を吸収したゆるやかなベース・ラインが持久力を担当するダンサブル・ナンバー。前戯の描写としか思えない暗喩など、歌詞がいつになくセクシャルで驚かされる。
09世界を抱きしめて
『魂の叫び』制作時の彼らが、足繁く通ったロサンゼルスのバー“Flaming Colossus”に捧げられているナンバー。歌詞には、朝まで呑み明かした男の言い訳めいたところも。音もメロディもシンプルでキャッチーな佳曲。
10ウルトラ・ヴァイオレット
澄み切ったエコー処理、美麗なギター・リフの途切れぬリフレイン。曲を覆う適度な陰り。前作『魂の叫び』での路線を飛び越え、デビュー時のスタイルにまで回帰したようなたたずまいで、ファン人気も絶大のラブ・ソングだ。
11アクロバット
彼らの言動への批評を逆に批評したような歌詞。自分たちの過去の作品の断片を再構築したような雰囲気もあるが、ベタなまでの泣きメロ攻撃にはやはり抗いがたき魅力がある。トレモロも駆使したエッジの激しいソロが白眉。
12恋は盲目
デカダンスな雰囲気のラブ・ソング。恋に溺れる主人公の体現か、哀切なエッジのギター・プレイを筆頭に意図的に不確定要素を押し出したサウンドを展開。エコーの加減も従来の彼らにはない支離滅裂さがあって刺激的。