ガイドコメント
歌詞が強烈なインパクトを持つ「ルーザー」の大ヒットで一躍注目されたベックのメジャー・デビュー作、94年発表作品。ブルースやフォーク、ロックやパンク、ヒップホップなど煮込んだ傑作。
収録曲
01ルーザー
切り裂くようなスライド・ギターの幕開け。ブレイクビーツにリフレインするシタールの音。そしてラップともトーキング・ブルースともつかないヴォーカル。何もかもがオーディエンスを圧倒した、BECKの歴史が始まった1曲。
02ペイ・ノー・マインド (スヌーザー)
初期のBECKらしい、やさぐれた感のあるシンプルなフォーク・ソング。当時の労働者としてのひどい暮らしの中でこみ上げてくる怒りを、ほんの少しユーモアを交えて歌ってみせるあたりが、また彼らしい。
03ファッキン・ウィズ・マイ・ヘッド (マウンテン・デュー・ロック)
裏「ルーザー」が「ペイ・ノー・マインド(スヌーザー)」なら、これはジ・アザー・サイド・オブ「ルーザー」か。単純なコード進行に叫びのようなハープを乗せたブルースは、歌詞通りスウィート・センセーションにほかならないといえるナンバー。
04ウイスキークローン、ホテル・シティ1997
全体に漂う暗い死の影が印象的。おどろおどろしく響くコーラスもすべて自らこなし、現代アメリカ社会に生まれた若者として、その歪みを歌い上げている。やりきれなさばかりが募る、初期BECKの一面をなす曲。
05ソウル・サッキン・ジャーク
ブレイクビーツにやや狂い気味なギターが吠え、アルバム『メロウ・ゴールド』の中でもよりオルタナティヴ臭が漂う時代の落とし子的1曲。やけにノリのいい曲だが、詞の内容を考えると悪ノリとしか思えない、ちょっとシャレにならない曲。
06トラックドライヴィン・ネイバーズ・ダウンステアーズ (イエロー・スウェット)
“階下はシャブ中の住人”という、衝撃的なタイトルを与えられた曲。不穏な空気の流れる会話のシーンで始まり、力強くつまびかれるギターに裏声で神に祈る不敬虔さ。ここまでやると逆にそのキレっぷりが気持ちいい。
07スウィート・サンシャイン
お得意の生活効果音をイントロに配し、打楽器だろうが生活雑貨だろうが叩きまくり、これまたお得意の絶叫とも言うべきヴォーカルで吠えまくる。良識ある大人に眉をひそめさせるのが狙いの、怒れる若者の曲。
08ビール缶
チューニングの狂ったギターが正確に刻むリズム、その下にグルーヴィにループするベース、魔法のようなシンセの音、そして身近な生活音。すべてが揃うとこんなにパーフェクトなポップができあがるのかと、感動すら覚えさせられる1曲。
09スティール・マイ・ボディ・ホーム
初期のBECKは本人のキャッチーな顔や体格に似合わず、その当時を反映するような重々しい曲を作る傾向があったが、これもそういう曲のうちの一つ。しかしその重々しさの中に垣間見える美しい幻想的なギターの音に注目。
10ナイトメア・ヒッピー・ガール
彼がもっとも「歌」を表現するフォーク・ソングでなければ愛は語れない。まさに悪夢のような気まぐれな彼女をあらゆる表現で最後には絶賛するあたり、これが愛でなくて何だろうと思わせられる、BECK流の究極のラブ・ソング。
11マザーファッカー
怒れる若人BECKの真骨頂。インディ時代からプレイしていた曲だが、メジャー・デビューに際してへなちょこな怒りから本気の怒声を響かせる傑作へと進化した。しかし終盤、裏声でマザーファッカーを罵倒するユーモアも健在。
12ブラック・ホール