ミニ・レビュー
メロディの強さの勝利だったか。決して簡単な曲とはいえぬものでも聴く者の歌唱欲を刺激する総合的親しみやすさが効く。切なさが幾重にもなぐさめられるメロディが自然に湧き出て来るように感じられるのだから、やはりただものではない、とあらためて思う。
ガイドコメント
宇多田ヒカルのシングル・コレクション。リリースにあたって、アメリカ屈指のマスタリング・エンジニア、テッド・ジェンセンが全曲リマスタリングを担当、音のクオリティも保証付き。
ガイドコメント
「Automatic」から「COLORS」までの全シングルを収めたコレクション。15歳からの5年間に彼女が発表した15曲には、日本のポップ・ミュージック・シーンの変遷がそのまま記録されているようだ。
収録曲
01time will tell
ブラック・テイストやジャズ・ファンク調のアクセントを忍び込ませながら、ポップスとして聴ける構成力が光るナンバー。ダンス・チューン的要素のある曲ながら、ミディアム・テンポを維持できるバランスは高水準。
02Automatic
女性R&Bシンガーのトップへ一気に登りつめ、音楽シーンを驚愕させたデビュー・シングル。情感豊かなヴォーカル・ワークと、柔軟なメロディ・ラインが心地よい浮遊感を生んでいる。当時15歳!
03Movin' on without you
驚嘆のデビュー・シングルを受けての2ndシングル。疾走感あるダンス・ビートに、鋭く刻むギター・リフが印象的。当時15歳で“いいオンナ演じるのはまだ早すぎるかな”と歌われても、説得力があるんだから凄い。
04First Love
飾り気ない素朴なピアノとストリングスが瑞々しく響くスロー・バラード。空間と空間を紡いでいくような表現力の豊かさと、決して優しくない旋律をサラッと歌える能力には、もう脱帽するしかない3rdシングル。
05Addicted To You (UP-IN-HEAVEN MIX)
「Automatic」のイメージの呪縛を一気に払拭させた4thシングル。全篇にわたる“チキチキ”サウンド、ジャム&ルイスが手掛けた本格的なR&Bに、彼女独特のニュアンスで咀嚼してくる細密なヴォーカルが堪らない。
06Wait&See〜リスク〜
5thシングルは、声色は揺らぎがあって浮遊的であるのに、しっかりと骨太さを感じるダンス・チューン。都会的な疾走感を保ちながら、時折突き刺さるようなビートが迫る。転調してのラストへの展開が圧巻。
07For You
一気に突き抜けるような展開はなく全開感には欠けるが、彼女が持つ“和”のテイストが、重いキックで進むボトム・ラインと上手く調和して洗練された6thシングル。彼女だからこそ歌いこなせるサウンドで、完成度高し。
08タイム・リミット
ロドニー・ジャーキンスの“ダーク・チャイルド”テイストを盛り込んだミディアムR&Bサウンド。表面的には漂流感を見せつつも重心の低いラインをしっかり構築するヴォーカルが、上級ポップスに仕立てている。
09Can You Keep A Secret?
スパニッシュ風のギター・フレーズがさらに情動を煽る7thシングル。メリハリの効いたサウンド・メイクが、内に秘める一途さとあふれそうな情念との間で行き交う心の機微を見事に表現。TVドラマ『HERO』主題歌。
10FINAL DISTANCE
2ndアルバムのタイトル曲をピアノとストリングスのクラシカルなバラードにアレンジ。美しくも繊細なメロディは、心や身体の隅々へと行きわたる浸透力があり、守りたいものすべてへ捧ぐ一曲。
11traveling
雲の隙間を飛び跳ねていくようなスピード感とボトムの効いたダンス・ビート。そこに春らしさが窺える包容力ある楽曲や『平家物語』の一節を引用した詞など、和のテイストが波のように連鎖するハイパー・チューン。
12光
13SAKURAドロップス
ドラム・ロールから始まり、煌めく音効がちりばめられているものの、全体的に骨っぽさを感じるメロディが、芯の強さをあらわしている。肉を削ぎ落としたムードが、符割りにも歌唱にも見られ、シンプルかつ新鮮。
14Letters
ラテンやジプシー調のサウンドがスパイスとなって、情熱的な旋律に浸透している。軽快なリズムとは対照的にメランコリックな日常感を映し出している。アコギでCharやGLAYのHISASHIらが参加。
15COLORS
オリエンタルなイントロから、どこか悩みを振り切ろうともがくような緩急あるメロディを展開。サビにパッと花が咲き出すように、サウンドが色鮮やかになっていくナンバー。