ミニ・レビュー
ニューヨーク3部作の最終章を飾る本盤は、意外にもストレートで一本気なサウンドが主軸。初期に戻ったような印象さえある。メンバーでもあるジム・オルークによるミックスもまた効果的。ゲスト・クレジットにはドン・フレミングなんて懐かしい名前も。
ガイドコメント
ノイジーで実験精神あふれるサウンドと、独特のヒリヒリとしたポップ・テイストがたまらないソニック・ユース、2年ぶり17枚目のスタジオ・アルバム。近年の作品のなかではかなりポップな作品。
収録曲
01PATTERN RECOGNITION
「ザ・スプラウル」などのソニックス作品に強い影響を与えたSF作家ウィリアム・ギブスン。その彼の長編作品と同タイトルで、歌詞には同作品に登場する固有名詞を引用。ギブスン作品に通じる雑種感覚と疾走感が刺激的なナンバー。
02UNMADE BED
歌とギターの幻想的な絡み合いが、もはや熟練の域に達してさえいるメロディアスなナンバー。スティーヴ・シェリーの生々しいドラミングなど、硬軟自在の起伏ある展開。ほんのり漂うサイケデリックな芳香に我を忘れてしまいそうだ。
03DRIPPING DREAM
メロディアスなギター・フレーズと、身悶えする微細ノイズの重奏で始まる7分超の大曲。静と動のパートをなだらかに連結してのけるバンドの表現力に改めて感服。歌手サーストンの魅力もたっぷり味わえる佳曲だ。
04KIM GORDON AND THE ARTHUR DOYLE HAND CREAM
歌詞にマライア・キャリーの醜聞ネタをたっぷりと盛り込んだ、毒気を満載したセレブ批判ソング。当初のタイトルは「Mariah Carey and the Arthur Doyle Hand Creme」だったが、本人からのクレームが来ることを恐れて改題。
05STONES
小技の応酬が楽しめるイントロが2分に達すると同時にサーストンが歌唱開始。彼らにしては珍しいくらいに明瞭な起承転結が用意された曲で、ノイジーな要素は控えめ。その分、メロディの魅力が一歩前に出てきている。
06DUDE RANCH NURSE
“お医者さんごっこしましょうよ”と、ビッチな歌声でキムがそろりとささやきかけてくるナンバー。ミステリアスなローファイ・サウンドが、このまま誘いに乗ったらいったいどんな目に遭わされるのかという、不安な気分を駆りたてる。
07NEW HAMPSHIRE
歌詞にジョニー・ウィンター、B.B.キング、スティーヴン・タイラー、ジョー・ペリー、バディ・ガイの名が“ミニ解説”付きで登場。スペーシーなフレーズも織り交ぜたローファイ感覚あふれるソニックス流ブルースだ。
08PAPER CUP EXIT
リー・ラナルドのクールな歌唱とソリッドなギターが主役のナンバー。リー歌唱=リー作詞だと思われるが、サーストンやキム作の歌詞に比べ、韻の踏み方がより詩的。文学的表現に隠されたメッセージを解読・受信されたし。
09I LOVE YOU GOLDEN BLUE
少し長めのイントロで聴けるアブストラクト・サウンドも新鮮なら、いつもはドスを利かせるキムの歌唱もウィスパーがかっていて新鮮。弱々しさすらのぞかせながら、微妙な感情の動きを表現した歌詞と歌唱が魅力的な作品。
10PEACE ATTACK
アメリカ軍のイラクへの空爆攻撃をかなり直接的な表現で批判したナンバー。ポリティカルな内容ながら、激しい感情と温和な感情を千々に乱れさせたサウンドで表現するなど、ミュージシャン・シップの発露も忘れていない。
11KIM CHORDS
12BEAUTIFUL PLATEAU