ミニ・レビュー
スマッシュ・ヒットの(11)をはじめ、先行シングル(3)(4)も収録した充実のファースト・アルバム。ギター・ロックの痛快さをとことん突き詰めたナンバーのほか、彼らの持ち味である詩的な淋しさをじっくり歌い上げた曲もあって何度も聴き込みたくなる一枚だ。
ガイドコメント
ギター・ロック・バンド、ランクヘッドの1stアルバム。定評のあるライヴを想起させる、パワーとエネルギーあふれる作品が完成。収録曲は「白い声」「プリズム」ほか。
収録曲
01音
押し寄せる音の雪崩に始まる、わずか17秒の衝撃。ギター、ベース、ドラムが自己主張をしつつも、激しいうねりとともに掻き鳴らされるギターに呼応し溶け合っていく。彼らの心の叫びを表わしたような音の洪水に魅せられる作品。
02冬の朝
不安定な焦燥感を表わすように激しく弾かれるギター・フレーズに、「強くはなれない、強くなりたいよ」と苦悩に満ちた叫びが突き刺さる。挫折感や失意に襲われた生々しい心の表現が衝撃的な、高揚感たっぷりのロック・ナンバー。
03プリズム
性急に繰り返されるベースのフレーズが、胸を締めつけるほど刺激的なメロディアス・ロック。人を信じる覚悟を心へ訴えかける詞や、プリズムに流れ込んだ光のような、分散、屈折し飛び散る無数の音に、心地よい刺激と興奮を覚えるナンバー。
04白い声
ソリッドなエレキ・ギターが渦巻き、音の根底を支えるドラム、迫力のあるベースが脳を刺激するハード・ロック・ナンバー。絶望から希望を見出すような内省的な詞が、聴きこむほど深く心に突き刺さるメジャー・デビュー曲。
05夜行バス
夜行バスに乗った「僕」が生や死について考えるという詞から、静まり返った濃密な孤独感が漂う。闇に閉ざされたバスのなか、曇ったガラス窓の外を見ながら、飾らない言葉で語る精神世界を表現したミディアム・ロック・チューン。
06白濁
キラキラとした80年代ポップスを思わせるイントロが印象的なナンバー。素直でシンプルなメロディに、日に日に心を汚して生きていくことへの罪悪感を描く。ベースがたくましくうなり、ギターが感情的な旋律を奏でる、インディーズ時代の名曲。
07その間5メートル
穏やかな歌い語りから徐々に熱をはらみ高揚していくエモーショナル・ロック・チューン。夕立がやんだ午後に、子供時代や傷ついたこと、忘れたはずの思い出をポツリポツリと描いていく。イントロでは、うなるベースの重低音が腹の底に響いてくる。
08前進/僕/戦場へ (アルバム・ヴァージョン)
ビートの荒波にギターが煌くパワー・ポップ・ナンバーのアルバム・ヴァージョン。彼ら独特のコードや音をちりばめながら、熱を持ったメロディが、秋空のような爽快感とメランコリーを描き出す。一方で、生きる場所を戦場にたとえ、生への覚悟を語った詞はきわめてシリアスだ。
09灰空
キラキラと軽快なリズムを刻み、ループするサウンドが爽やかなギター・ロック・チューン。青空を見上げ、意味もなく湧き上がる不安に襲われて、無意識に涙をこぼす「僕」。青春の脆い心が、寂しさを流し込んだメロディの波に乗って描かれていく。
10三月
小高芳太朗が語り歌う温かい言葉が、心に沁みるミディアム・ナンバー。シンプルでソフトに流れるギターとドラムを背景に、「迷いながら歩き出す一歩に意味がある」と歌うと、そっと背中を撫でられるような安堵感に満たされる。
11千川通りは夕風だった (G・ヴァージョン)
焦燥感を抱くさまを表わした、燃え上がるようなギター・フレーズが情熱的なパワー・ポップ・チューン。自転車で駆け抜ける夕暮れの街の風景と、そこに織り込まれていく「僕」の素朴な不安を描く。男性的な激しさと艶やかさが溶け合うサウンドが美しい。
12金木犀
学生時代を思い出し歌い語る、郷愁的なミディアム・ナンバー。彼らには珍しいシンプルなギターの音を背景に、小高芳太朗の心を赤裸々に描いた作品。金木犀の香りのように、穏やかで懐かしいムードが全体に満ちている。