ミニ・レビュー
ファースト・アルバム。椎名林檎やCharaを思わせる、コケティッシュで小悪魔的な声が印象的な人だが、型にはまらない自由奔放さやソウルフルなフィーリングが魅力だろう。ファンクやジャズなど大胆なアプローチのサウンドも、彼女の個性的な歌声とよく合っている。
ガイドコメント
ミニ・アルバム2枚をリリースしている安藤裕子の1stフル・アルバム。スカパラのメンバーなど適材適所のゲストも魅力だ。映画『2LDK』のエンディング曲「隣人に光が差す時」を収録。
収録曲
01ロマンチック
軽快なリズム隊とそれを押さえるように鳴るオルガンにのせて、まるで夢物語のように歌い上げるのは彼との別れ話。サビのバッキングよりも遥かに高いキーで響くヴォーカルと駆け抜けるようなストリングスが、これからの彼女の未来を期待させる。
02悲しみにこんにちは
淡々と落ち着いたピアノの旋律に乗るのは、壊れそうな彼との関係を描いた詞。語りのような長いヴォーカル・ラインは、彼との関係がずっと続けばいいという願いごとのようで切なく、彼女のパラドキシカルで愛らしいラブ・ソングの典型をみてとれる。
03サリー
せっかくの誕生日くらい大好きな彼といたかった、今になって失恋の痛みが体中に満ちていく……。そんな歌詞とは裏腹に、ヴォーカルとギターが掛け合うメロディ・ラインが印象的なポップなナンバー。その明るさゆえに彼女の一言一言が突き刺さるようで痛々しい。
04BABY BABY BABY
まるで古いラジオから流れてくるようなエフェクトのかかったギターがアクセントのナンバー。ユルくジャジィなサウンドが、どんなに追いかけてもとらえどころのない“君”の気持ちを表わしていて切なく、どこか懐かしいサウンドが寂しく感じられる一曲。
05黒い車
リズミカルなベースと疾走感あふれるヴォーカルで始まるナンバー。サビ直前のヴァースで入るオルガンの旋律がその勢いを止め、そこから変わるサウンドのギャップが魅力的。どうにもできないジレンマを表わすように繰り返される“クロイクルマ”というフレーズが、焦燥感をあおっていく。
06slow tempo magic
ヴォーカルの影を踏むように追う男性ヴォーカルとのユニゾンが、安藤裕子の世界へと招待してくれる。ギターのアルペジオに乗せて語られる現実と、そこから解放されるように広がる淡い電子音が、彼の断ち切れない彼女への不安定な気持ちを表わしているようで痛々しい。
07水色の調べ
輝くようなグロッケンがアクセントになっているポップ・チューン。彼のことが好きだという想いを乗せたヴォーカルが、バッキングの上で駆け巡る。恋する女の子はこんなにも“手ニイレレタイ!!”ことがいっぱいでワガママなのに、彼女の世界では愛らしく感じられるから不思議。
08忘れものの森
とげとげしい空気さえ優しく包んでくれるバラード・ナンバー。音数の少ないピアノの伴奏は、たとえどんなことがあっても真摯に生きていこうという彼女の思いを歌詞以上に強く際立たせているようだ。止まっていた悲しい時間さえも動き出す、そんな前向きにさせてくれる曲。
09眠りの家
寄せては返す静かな波のようなアコギのメロディ・ラインと、その上に乗る囁くようなヴォーカルが子守唄のように続いていく。その心地よさに身を委ねると、どうしても逢えない君への哀しみを綴る詞の世界へと包まれているだろう。
10ドラマチックレコード
淡々と刻み続けるピアノが、地に足をつけるような落ち着いた雰囲気を感じさせるサウンド。その上に乗るとらえどころのない淡いヴォーカルがそこからの離脱を促すようだ。全体的にモヤがかかってかすむ感覚は繊細なシンセサイザーのなせる技。
11隣人に光が差すとき
ストリングスがサビに向かって広がりをみせていく、包み込むような優しい旋律で始まるナンバー。その壮大なサウンドは“コレジャタリナイ”という想いを埋めていくよう。そこに乗る透きとおるようなヴォーカルが、ドラマティックなサウンドをバックに、切なく迫ってくる。
12聖者の行進
着実に歩みを進めていくようなドラムが全体を通して響き続ける。曲が進むにつれて、ヴォーカルに溶け込んでいくオルガンは壮大な展開をみせ、そのドラマティックなサウンドに呼応するように強くなっていく真摯な想いが、落ち着いたヴォーカルで語られている。