ミニ・レビュー
80年代後半を代表する女性ブラコン歌手のブルーノート移籍第1弾は、育児と両親の看病に専念していた関係で、実に10年ぶりの作品となる。ベイビーフェイスやイエロー・ジャケッツの協力を得ながらも、自作曲中心に構成。アルト・ヴォイスに深みを増した。
ガイドコメント
80年代後半にR&Bシーンで大成功を収めたシンガーが、94年以来の10年ぶりとなるアルバムを発表。ブルーノート移籍第1弾でもある本作には、ベイビーフェイスとのデュエットも収録。
収録曲
01YOU'RE MY EVERYTHING
ブルーノート移籍第1弾で、スタジオ録音のアルバムとしては10年ぶりとなるアルバム『マイ・エヴリシング』のタイトル曲にして、第1弾シングルでもあるナンバー。アニタ自ら「ホームタウンのフィーリングのする曲」と語るとおり、これぞアニタ・ベイカーといった感じの、スウィートなミディアム・チューンだ。
02HOW COULD YOU
アルバムのプロデュースを務めたバリー・イーストモンドとアニタの共作曲で、もともとはアニタが単独で書いたメロディに、バリーがブリッジの部分を書き足して、完成したそうだ。少しシャッフル気味の流麗なバック・トラックも含め、バリーの手腕が見事なポップ・ソングを生み出した好例といえる一曲。
03IN MY HEART
バリー・イーストモンドがメロディを紡ぎ出し、そこにアニタが歌詞を入れて曲はでき上がったが、レコーディングでは何十とおりもの異なるヴァージョンを録音した末に、ようやく完成したという一曲。そんな制作過程における苦労など微塵も感じさせない、スウィートこのうえないラヴ・ソングに仕上がっている。
04SERIOUS
ドーン・トーマスという女性ソングライターのペンになる作品。レコーディングには、イエロー・ジャケッツのメンバーも参加している。想いを寄せる男性に向けての、女性からの素敵なラヴレターともいえる内容の歌詞が、思わずグッときてしまう。こんなに真剣な言葉で求愛されたら、男性はみんなイチコロでしょう、きっと。
05HOW DOES IT FEEL
イントロを聴いた瞬間、即座に「これぞアニタ・ベイカー!」と思ってしまうナンバー。「ラプチュアー」「スウィート・ラヴ」といった彼女の大ヒット曲が好きな人なら、絶対気に入ってしまうこと間違いないだろう。バリー・イーストモンドがメロディを作ったそうだが、さすが、分かってるなぁ〜という感じだ。
06LIKE YOU USED TO DO
アルバムの中でも、おそらく最大の話題作といえそうな、あのベイビーフェイスとの共演曲。デュエットはもちろんのこと、曲作りにおいてもアニタ、バリー・イーストモンドとの三者共作で、ベイビーフェイスならではの美メロの魅力が、この曲でも堪能できる。これほどスウィートなデュエットはそうそう聴けるもんじゃない。
07CLOSE YOUR EYES
アルバムの中で唯一プログラミング(打ち込み)によって作られた曲らしいが、そんなことは微塵も感じさせないほど、見事なサウンドに仕上がっている。どこかミステリアスな雰囲気のナンバーで、ナイト・ミュージックにふさわしいアニタの作品の中でも、夜の闇がことさらよく似合う一曲といえる。
08YOU'RE MY EVERYTHING REVISITED
これは、アルバム1曲目に収録されたタイトル・ソング「マイ・エヴリシング」の一節をリプリーズした小品で、曲と曲の間のクッション、というだけにとどまらず、アルバムのトータリティを保つために有効な手段ともいえるもの。アニタは、スキャットによる歌唱で、ジャズ・シンガーばりに小粋にキメてくれる。
09I CAN'T SLEEP
イエロー・ジャケッツが参加しているナンバー。躍動感があって、しかもメリハリも効いている秀逸な演奏をバックに、生き生きと歌い上げるアニタ。まさに、良い演奏が良い歌を引き出している典型のような作品だ。間奏の素晴らしいサックス・ソロを含め、作品全体に漂うアーバンな雰囲気もたまらなく魅力的。
10MEN IN MY LIFE
バンドのメンバーとスタジオに入り、全員で「せーの」で録音した、そのファースト・テイクが本作だという。まさに、奇跡のワン・テイク・マジック。歌詞には、夫と二人の息子に囲まれ、幸せな家庭生活を送っているアニタの、現在の素直な気持ちが綴られている。幸せを噛みしめるように丁寧に歌う彼女が印象的だ。