ミニ・レビュー
初期作品を手がけたスティーヴ・リリーホワイトのプロデュースによる4年ぶりのアルバム。初期の熱気に25年のキャリアが加わったギター・ロックだが、シンプルさを大きな武器にしてしまっているのはさすがU2。ボノの歌いまわしなども妙に生々しくリアルだ。★
ガイドコメント
79年のデビューから25周年を記念したU2の4年ぶりのオリジナル・アルバム。シングル「ヴァーティゴ」をはじめ、まさにU2らしいスケール感と昂揚感あるロックが詰まった傑作だ。注目盤。
収録曲
01VIRTIGO
iPodのCM曲に起用された、12枚目のオリジナル・アルバム『ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム』からの先行シングル曲。ど真ん中を突っ走るような王道ロックは、U2の原点回帰を思わせる。
02MIRACLE DRUG
科学と人間の心に限界は無い、だから奇跡の薬だってできるはず……。そんな壮大な願いを綴った、高揚感溢れるロック・ナンバー。実はエイズ薬についても当てはまる、という社会的な意味を秘めたボノならではの作品でもある。
03SOMETIMES YOU CAN'T MAKE IT ON YOUR OWN
“人は一人では生きられない”……、長年和解することのなかった父親への、ボノからのメッセージ・ソング。スケール感溢れるサウンドをバックに、切々と語りかける歌声は、家族愛から人類愛まで、あらゆる形の隣人愛を呼び覚ます。
04LOVE AND PEACE OR ELSE
律動感と重量感を携えた、U2らしいロック・ナンバー。暗雲立ち込める空に荒涼とした大地……、現代の世を象徴するかのようなサウンドをバックに愛と平和を訴える歌声は、決して聖なる使徒ではなく、飽くまで生身の人間の叫び。
05CITY OF CLINDING LIGHTS
もう若くないと悟りながらも、時として、心のなかの少年が目覚める、まさにそんな瞬間を描いた、躍動感溢れる爽やかなロック・ナンバー。静から動への展開に見る穏やかな疾走感は、円熟した大人だからこそ表現できる“若さ”だろう。
06ALL BECAUSE OF YOU
少年期に亡くしたボノの母親へ歌ったと思しき、ノリの良いストレートなロック・ナンバー。アコギとドラムの生み出す乾いたサウンドの上を、エッジならではのギターの轟が自在に駆け回り、U2らしいグルーヴ感満点。
07A MAN AND A WOMAN
男と女の“不思議な距離”について綴る、アダルトなスロー・ナンバー。シックなベース・ラインに加え、ボノの息遣いの生々しいヴォーカルがなんとも官能的だ。ロック道を走り続けるU2も、実はもう熟した大人であることを、再認識。
08CRUMBS FROM YOUR TABLE
世界の貧困格差と戦い続けるボノらしい、社会派ロック。彼の強烈な訴えは、ダイナミックなリフに乗って、僕らの頭にイヤと言うほど響く。決して感傷的でなく、飽くまで現実に挑む、という意志を感じさせる力強いプレイは圧巻。
09ONE STEP CLOSER
父親に死が近づいていることを、ボノはオアシスのノエルに話した。ノエルの返答は「物知りに一歩近づくだけのことだろ」。そんな彼の言葉に触発されて生まれたのが、まさに悟りの境地とでも言うべき、この穏やかなバラード。
10ORIGINAL OF THE SPECIES
人生という長い旅路に、怖気づく時もある。そんな“きみ”を、ボノが「大丈夫だよ」、とやさしく勇気付けてくれる、エッジも思わず涙したという感動のバラード。次第に広がりを増すサウンドは、まさに未来へ紡がれる希望そのもの。
11YAHWEH
タイトルはヘブライ語で「神」の意。スケール感溢れるサウンドで仕上げた爽快なロック・ナンバーだが、そのリリックは社会的かつ宗教的な色を持つシリアスなもの。神に訴えかけるサビは、ボノのあらゆる心情が凝縮した、魂の叫び。
12FAST CARS
アラブ音楽を基調に、ダイナミックなドラミングがインパクト抜群のグルーヴィなナンバー。官能的な旋律とサイケデリックなサウンド・アプローチが相まった、心地良い疾走感は中毒度満点。ボーナス・トラックだからと侮るなかれ。