ミニ・レビュー
8枚目の貫禄フル・アルバム。変質性と執着性をさらりと唄う妙に加え、明るく華やかに移ろう完成度の高いメロディに敬服。洒脱に突き抜けちゃうんだ、厭味もケレン味もなく。構築される楽曲世界のインパクトに、思わずヘヴィ・ローテーション。
ガイドコメント
約1年半ぶり、通算8枚目のオリジナル・アルバムの通常盤。ホーン・サウンドが印象的な突き抜けた「クライマックス」をはじめ、ファンク・ビート全開の「秘密」などのシングルを収録。2004年の集大成的内容だ。
収録曲
01サナギ
アルバム『TIME』のオープニングを飾る、土着的なリズムを持ったミディアム・テンポのファンク・チューン。女性の視点で語られた秘密めいてなまめかしい雰囲気の歌詞は、男性が歌うからこそのセクシーさを感じることができる。
02カラッポ
“多数決でしか決められない正義”など、世の中で“カラッポ”に感じられる事柄を列記していく歌詞は、ドキッとさせられるほど現代社会をうまく捉えている。アーバン・ソウル風の心地よいサウンドがアイロニカルな歌詞をうまく中和させている。
03光の川
誰にでも日常的に起こりうるような感情を独特の言葉で表現する、スガシカオらしい楽曲。過去の恋愛を密かに引き摺っている男の心象風景を、スガシカオならではと言うべき視点でえげつなくえぐり出している。
04アーケード
哀愁のあるメロディと夕陽のようなせつないヴォーカルが織りなすミディアム・バラードは、恋がうまく動き始めた男女の心の高鳴りを描いたもの。成就しない恋愛ソングを得意とする彼らしからぬ、スウィートな一曲。
05クライマックス (album version)
“ふられてしまう”というドラマの“クライマックス”のような状況にたたされ、ドラマの主人公になりきって悲しみから立ち直ろうとする失恋ソング。フュージョン調のアッパーなサウンドが、酷な状況を精一杯明るくしようとしている。
06June
“生まれ変われる気がする”と、新たな始まりの予感を瑞々しい感性で描いたミディアム・ポップ・チューン。音色の違うキーボードを重ね、鮮やかでやわらかい雰囲気を作りだしている。
07あくび
まどろみの中で聞こえた声がさまざまな女性を思い出させて眠れない、というスガシカオの独特の視点で描かれる男のサガ。やわらかいキーボードが醸し出す牧歌的なムードが、眠りに落ちる前の心地いい気を表現しているよう。
08魔法
ゆったりとしたリズムにジャジィなフレーズを弾くギターがやわらかく絡むファンク・ナンバー。“君としたあんなことやこんなこと”といった、エロティックな想像をかきたてる歌詞にも注目だ。
09秘密
8thアルバム『TIME』に収録された、歪んだ“恋愛の機密性”を得意のファンク・サウンドに乗せたスガ節炸裂の一曲。甘い恋愛が徐々に危うい感情へとねじれてゆく様を描いた歌詞にハラハラする。
10風 (かざ)なぎ
恋人が去った心の傷を抱えながらも前に向かって歩き出す人物について、ぽろりぽろりとアコギをつまびきながらそっと優しく歌われるバラード。涙を流して悲しむ男の姿を“美しい”と思わせてしまう、作詞力とヴォーカルの素晴らしさが実感できる1曲。