ミニ・レビュー
なんとも不思議な佇まいを持ったバンドのファースト・アルバム。詞の世界観やヴォーカル・スタイルはたとえば斉藤和義を彷彿とさせるし、サウンドの雑多性や妙にドラマティックなところはたとえばユニコーンを連想させる。それでいてオリジナリティ抜群だ。
ガイドコメント
「桜の季節」「陽炎」「赤黄色の金木犀」の先行シングル3部作を収録した1stアルバム。インディーズ時代の名曲のニュー・ヴァージョンも収められた、次世代ロックのマスターピース。
収録曲
01桜の季節
切ない恋愛模様を歌った哀愁歌。澄み切ったブレのないヴォーカルと透明感のあるクリアなキーボードが印象的。素朴で情緒のある歌詞は味わい深く、しっとり染みてくる。少しの野暮ったさもない。ストレートな心情描写から垣間見える、リアルな香りもたまらない。やるせない和風の春歌は、聴き込むほどに映えてくる。
02TAIFU
踊れや騒げやの痛快豪快キラー・チューン。張りのあるリフが祭り囃子を思わせる。ひたすらに向こう見ずで、前傾姿勢を崩さず突っ走るような演奏が潔い。やぶれかぶれのようで、緻密に構築された演奏はお見事。独特の志村節も炸裂しまくっていて、滑稽さはエスカレート。ライヴでもお祭り騒ぎなこと間違いなしだ。
03陽炎
胸を締めつけるような淡い懐かしさが漂うナンバー。疾走感のあるサウンドは、夏の記憶を鮮やかにフラッシュバックさせ、記憶の片隅を絶妙に掘り下げてくる。足軽に弾むクリアなキーボード音が爽やかさを演出し、曲をグイグイ引っ張っていく。ヴォーカルも切ない感情をストレートにぶつけていて、非常に耳あたりが良い。
04追ってけ 追ってけ
独特の色を放つ、ひねくれビート全開のミドル・チューン。へんてこでねじ曲がった奇妙奇天烈なグルーヴが、ループにループを重ね、心地良いめまいを呼ぶ。そして、抜群に息の合った演奏が素晴らしく、巧妙な技の応酬には思わず舌を巻く。派手さやポップさこそないものの、彼らのクセモノっぷりがわかりやすくあらわれている秀曲。
05打上げ花火
夏の風物詩を儚さの視点から切り取ったナンバー。序盤は妖しさ漂う、ゆらりゆらりとした曲調。暗闇の中、不適にぼんやりと灯るほの明かりのようなメロディは、静かに強い存在感を放つ。盛り上がりを見せる間奏も聴きどころ満載。変拍子が曲に刺激を与え、豊かな展開を生む。そのタイミングも華麗で、特に2ギターの絡みが秀逸だ。
06TOKYO MIDNIGHT
座禅のようなドスの効いたビートの重い足踏みから始まる、禅問答的な楽曲。ひょろひょろとしたか細い音色を浮き気味に響かせるギター、深夜の歓楽街を徘徊するかのように妖しく足音を立てるベースなど、やはり相当にひねくれている。お得意の転調もありで、中盤では混沌と音が入り乱れる迷シーンも見られる。
07花
シンプルなアコースティック・ギター・サウンドで構成された、牧歌的な優しさがあふれる曲。熟練の含みのあるバンド・サウンドとはまた違った一面が見られ、弾き語りのような軽いタッチで、歌に重きが置かれているスタイルとなっている。素朴で飾り気のないヴォーカルが好感触で、サビのファルセットもきれいに響いている。
08サボテンレコード
くねくねビートでのろのろテンポのAメロとウルトラ・キャッチーなサビとの存在位置がやたらと対照的で、それが妙にハマって心地良い展開を形作る、不思議な魅力が漂う。退廃的な視点からかすかに見えてくる希望のメッセージには、わざとらしさも嘘偽りもない。それゆえに、強いリアリティが感じられるナンバーだ。
09赤黄色の金木犀
季節のきめ細かな描写が美しい哀愁歌。今作で描かれているのは秋。得意とするセンチメンタル・サウンドには、よりいっそうの磨きがかかり、聴き手の心をダイレクトに捉える。誰もが感じたことのある心情や風景を、不意打ち気味にフワっと思い出させるようなメロディには、浸らずにはいられない魅力があふれている。
10夜汽車
夜汽車の中で流れる、何ごとにも急かされないゆるやかな時を表現したバラード。夜長にうっとりと夢心地で浸れそうだ。アコギ基調の優しいメロにムードたっぷりのキラキラ・サウンドが寄り添ったら、素直にやられます。ストレートでシンプルなラヴ・ソングもこなせてしまうところに、バンドとしての懐の深さが垣間見られる。