ミニ・レビュー
昨今のUKの若手の中でも群を抜いて安定感のある4人組のファースト・アルバム。ザ・キュアーとザ・スミスを足したようなニューウェイヴ風味と、今日的なダイナミズムとスピード感がほどよくブレンドされた力作だ。ケリー・オケレケの歌に驚愕。
ガイドコメント
UKロック、ニューウェイヴ・シーンで注目のニュー・バンド。フューチャーヘッズを手掛けたPaul Epworthをプロデューサーに、ミューズやコールドプレイを手がけたRich Costeyをミキサーに迎えたデビュー・アルバム。
収録曲
01LIKE EATING GLASS
タイトでハードなビートに彩りを加えるギター・サウンドが美しいナンバー。ニューウェイヴ色は薄れてはいるが、持ち前のダークさを失わず、よりフィジカルな方面へとアプローチをかけることで、“ブロック・パーティーの音”というものを確立させている。
02HELICOPTER
ニューウェイヴ直系のカミソリのような鋭いギター・リフからなだれ込むハイテンションなロックンロール・ナンバー。彼ららしい直球の曲だが、突然のブレイクでオーディエンスのリズムを狂わせてくるなど、あまのじゃくな遊び心が見え隠れしている。
03POSITIVE TENSION
ブレイクビーツのリズムとラップ調のヴォーカルを基盤としながら、フラッシュバックのように差し込まれるギター・サウンドが強烈なインパクトを残していく。後半は転調してギター・ロック色が強め。急降下するダイナミックなサウンドに酔える一曲。
04BANQUET
ギャング・オブ・フォーを思わせる金属的なギター・カッティングとタイトなビートが印象的なダーク・サイドのダンス・ナンバー。モノトーンでありながら、美しさを放つサウンドのグルーヴが聴く者を魅了する。
05BLUE LIGHT
メランコリックなギターと内省的な歌声が印象的な一曲。メロディが浮遊するように漂っていくさまは、思わずうっとりと聴き惚れてしまうほどの美麗さを放っている。陰影に富んだケリーのヴォーカルはイアン・カーティスを彷彿とさせる。
06SHE'S HEARING VOICES
野太いダンス・ビートとギター・サウンドが厳かに鳴り響く呪術的な香り漂うナンバー。現代風にアレンジされたジョイ・ディヴィジョンと形容するのが一番分かり易いか。かき鳴らされる鋭いギター・カッティングのダイナミックさが秀逸。
07THIS MODERN LOVE
美麗なアルペジオに彩られたキラキラとしたサウンドとメランコリックなメロディが極限まで純化された透明度で、オーディエンスのハートを直撃する胸キュン・ナンバー。シルクのようになめらかなコーラスの心地良さは極上の一言。
08THE PIONEERS
ハイテンションかつ緊張感あふれるバンド・セッションが楽しめるロックンロール・ナンバー。ハードなビートを前面に押し出したタイトなサウンドで、オーディエンスのダンス衝動をこれでもかと刺激してくる。
09PRICE OF GASOLINE
4つ打ちのダンス・ビートとハンドクラップを前面に押し出したダンサブルなナンバー。中盤から後半にかけて金属的なギターの音色が徐々に曲を盛り上げ、ダークなサウンドが扇情的にフロアを盛り上げていく。
10SO HERE WE ARE
メランコリックなアルペジオが生み出すメロディは澄み切った青空を思い出させる。適度な加速度をともなうサウンドも風のようで心地良い。その中を浮遊するように漂うケリーのヴォーカルは、まるでU2のボノのようだ。
11LUNO
性急なブレイクビーツと小気味良いギターが絡み合う、ニューウェイヴ色たっぷりなダンス・ロック・ナンバー。緊張感のあるタイトなバンド・セッションによる畳み掛けるようなサウンドは、圧倒的の一言。
12PLANS
グッド・メロディと感動的なサウンドスケープで聴かせるミディアム・チューン。ニューウェイヴ独特の金属的なサウンドを活かしながらも、ストレートなバラードともいえるメロディを打ち出した器用さは流石の一言。
13COMPLIMENTS
レディオヘッドを思わせるダークなサウンドと電子ビートの波が印象的なナンバー。沈痛で重々しいメロディは絶望的で混迷を極めているが、その中でも美しいアルペジオが癒しのように一筋の光を投げかけている。
14SO HERE WE ARE
音響系に近い、ポスト・ロック的な要素の強いリミックス。ワン・コーラス丸々リズムを排し、光り輝くようなギターのサウンドを前面に押し出したかと思えば、後半でドラマティックなサウンドで一気に畳み掛ける。原曲より全体的にトランシーなものに。
15PLANS
音響系轟音バンド、モグワイによるリミックス。電子ノイズやギターのフィードバック・ノイズを効果的に差し込み、静謐としたサウンドに強弱をつけ、原曲とはまた違う感動を与えてくれる。フリーキーでありながらも、ポップ感を失わない仕事っぷりは流石。
16THE PIONEERS
原曲のハードなロックンロール・ナンバーからは考えられないほど壮大で幻想的なサウンドへと様変わりを果たしている。交響曲のような厳かなストリングスのメロディとサンプリングされたヴォーカルの反復がサイケデリックなトリップ感を引き起こしている。