ミニ・レビュー
作・編曲、制作し、ピアノを弾き歌う……本名ジョン・スティーヴンス。ローリン・ヒル、アリシア・キーズらと共演してきた実力派がカニエ・ウエストの新レーベルから登場。何げに70年代も匂うがレトロじゃない、時流に紛れぬ聴き応えあるR&B。スヌープとの共演(7)も◎。
ガイドコメント
全米ヒット・シングル「Used To Love U」を含むデビュー作。マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーを彷彿とさせる素晴らしい歌声にカニエ・ウエストのヒップホップ・フレイヴァーが融合した最高のR&Bを聴かせる。
収録曲
01PRELUDE
ジャズ風のフレージングのピアノ・プレイと余裕のヴォーカルで始まるアルバム『GET LIFTED』の導入曲。ブラック・アーティスト特有のハスキーなヴィブラートが心地良い。ジョンが「リラックスしてほしい」と歌うが、期待感あふれるフレーズに、気持ちの高揚は抑えられない。
02LET'S GET LIFTED
ノスタルジーが漂う、自らのルーツに誠実なR&Bナンバー。「ハイになろう」と歌いながらも、上品に聴こえるのは、幼少時、教会で腕を磨いた彼ならではの特性だろう。サウンドは教会で巻き起こるうねりのような、ゴスペルの高揚感があふれている。
03USED TO LOVE U
歌詞にJay-Zやホイットニー・ヒューストンも出てくる、盟友カニエ・ウェストとの共作の、メジャー・デビュー・シングル。多くのアーティストが「強盗しちまった」と歌いそうなところを、「強盗しようかな?」と歌う彼の思慮深さが垣間見られる楽曲だ。
04ALRIGHT
ベース音をチューバが担当していて、絡みつくような低音が心地良く響いていく。ジョンのルーツがゴスペルだということを明確にする重厚なコーラスが特色。幼少時、教会のヒーローだった少年が、成長してR&Bのニュー・ヒーローになったことを体現したナンバー。
05SHE DON'T HAVE TO KNOW
ウィル・アイ・アムが要所で絡んでくる、艶っぽいR&Bナンバー。恋の裏切りがテーマだが、ジョンが歌う「シンプルな愛」は、エロティックな艶かしさを感じさせない。巷に蔓延しているエロR&Bにうんざりしている方々にオススメ。
06NUMBER ONE
ステイプル・シンガーズ「Let's Do It Again」をサンプリングした、ジョン・レジェンドの子守歌とも思えるような曲で、いかにも楽しそうに歌っているのが印象的。カニエ・ウェストお得意の“タータタタータタ”といったラップも飛び出す、人間味にあふれたナンバー。
07I CAN CHANGE
鬼気迫るようなホーンが印象的な、懺悔がテーマのゴスペル・ソング。後半で登場するスヌープ・ドッグのラップに注目。ギャングスタで鳴らしたスヌープもジョンのパワーの前には脱帽のようで、洗礼を受けたかのような変貌ぶりは驚愕といえる。
08ORDINARY PEOPLE
ウィル・アイ・アムとの共作の、ソロ作品としての出世作。ジョンの希望でピアノと歌のみとなったアレンジは大成功。そこに存在するのは美しいメロディと深みのあるヴォーカルだけ。何もつけないでそのまま召し上がれる。
09STAY WITH YOU
ジョン・レジェンドはこんなサウンドに囲まれて育ったんだろうと思わせる、古典的で牧歌的なソウルだ。ゆったりした16ビートのシャッフルに乗って、ジョンの心から湧き出るハスキー・ヴォイスがリスナーをやさしく包み込んでいくナンバー。
10LET'S GET LIFTED AGAIN
イントロの喘ぎ声にセクシー・ソングか? と思いきや、ジョン・レジェンドはいつでも硬派で、次に発した言葉は「一緒に来てくれないか?」。プリンスのようなヴォーカル・アプローチだが、ジョンが歌うといやらしくない。
11SO HIGH
ギターのヴォリューム奏法が懐かしい、チャイ・ライツがやっていたような古いソウル・ミュージックだ。内容は喜びに震えるような愛の讃歌。脇を固めるジョンのピアノも絶好調、その喜びに体を揺らしながら弾く姿が浮かんでくる。
12REFUGE (WHEN IT'S COLD OUTSIDE)
愛の尊さと戦争の愚かさを対比させた、平和について考えさせられる歌。「オールライト」と繰り返すのはジョンの願いのようで、表現が直接的でない分、心に深く訴えてくる。さりげなくバグダッドとイスラエルが一度だけ出てくる詞も注目。
13IT DON'T HAVE TO CHANGE
“featuring The Stephens Family”とのタイトルがついている、ジョンの家族全員で歌い上げる渾身のゴスペル・サウンド。家族一体となって歌われるなかで、ジョンのヴォーカルは快活極まりない。トップ・アーティストになった彼が教会の少年に戻っているようだ。
14LIVE IT UP
ロマンティックなサンプリングは、ザ・デルズ&ドラマティックスの「ラヴ・イズ・ミッシング」。ジョン・レジェンドの声はキーが低いので、女性コーラスとの声の混ざり具合が良い。彼の声をはった時の美しさも楽しめる曲だ。
15JOHNNY'S GONNA GO
アルバム『GET LIFTED』日本盤のボーナス・トラックは、無垢な少年少女のコーラスがアクセントの旅立ちソング。「ママ、泣かないで」と繰り返した後の、「さびしいけど、行かなきゃ」のエンディングが印象的だ。
16MONEY BLOWIN
ジョンには珍しいヒップホップ風のトラック。オールドスクール的なスキットをバックに、ダミ声で「金に惑わされるな」と諭すような詞が快感。グラミー賞が彼に集中するのも納得、どこまでも優等生な曲だ。アルバム『GET LIFTED』日本盤のボーナス・トラック。