ミニ・レビュー
今やUK最高のグループへと成長したといっても過言ではない彼らの3作目。さすが、一曲ごとの作り込み方は尋常ではない。そして緻密な音作りでありながら、彼らの音楽は非常に大きなスケール感を持つ。すでにポストU2の位置を確立した感のある傑作だ。
ガイドコメント
デビューから注目を集め、1st、2ndアルバムともにグラミーを獲得するなど、着実に勢力を伸ばす彼らの3rdアルバム。発売前にネット上でリークされるなど、世界中のファンが渇望する最先端のUKロック全開。
収録曲
01SQUARE ONE
エレクトロ的なエフェクト音とギターのヴァイオリン奏法に、疾走感をもったビートがひとつになったアルバム『X&Y』のオープニング・ナンバー。切なさと激しさが融合したサウンドは、初期のU2に通じるものがある。凛とした冷たさを感じさせてくれるヴォーカルも美しい。
02WHAT IF
限りなく優しい気分に包み込まれる、珠玉のバラード・ナンバー。ピアノとオーケストラ、軽やかにして壮大なバンド・アンサンブルがゆったりと混ざり合うサウンドのなかで描かれるのは、“どんな暗闇にも必ず光は差す”というポジティヴで温かいメッセージ。生々しさと神々しさを兼ね備えたクリスの歌に引き込まれる。
03WHITE SHADOWS
エッジの効きまくったギター・リフがざっくりと空間を切り裂き、がっちりと骨太なビートが楽曲全体を力強くグルーヴさせていく。そしてクリスのヴォーカル・ラインは時折印象的なファルセットを織り交ぜながら、自由自在のオクターヴを駆け抜ける。全体的にパワー感を増したこのアルバムを象徴するようなロック・チューン。
04FIX YOU
ナチュラルな響きを持つオルガン、神々しい雰囲気のヴォーカル・ライン、「FIX YOU」(君を立ち直らせる)という真摯なメッセージ。楽曲全体に祈りにも似たホーリーな空気感がたっぷりと内包されたナンバー。ひとつひとつのフレーズに強い思いが込められたパフォーマンス(特にギターがすごい!)も素晴らしい。
05TALK
広い奥行きを生み出すキーボード、ロング・トーンを効果的に活かしたギター・リフ、装飾を排したリズム・アンサンブルによるアレンジは、きわめてシンプルにも関わらず、何度聴いてもハッとさせられるような新鮮さを体現。こういうのを“バンド・マジック”と呼ぶのだろう。感情の揺れをダイレクトに映し出したメロディも見事。
06X & Y
宇宙空間をさまよっているような浮遊感、酩酊感はコールドプレイの得意技のひとつだが、この曲はまさにそれ(実際、歌詞のなかにも“Space”という言葉が出てくる)。身体ごとふわりと持っていかれるような独特のグルーヴや、どこにも無理がなく、身を任せてるだけで快楽が沸き起こるようなメロディなど聴きどころ満載。
07SPEED OF SOUND
しっかりと強固なビートが鳴っているにもかかわらず、全体的な印象はきわめて抽象的で捉えどころがなく、激ポップなメロディを持ちながら、音響系に通じるような実験性も感じる。聴く人によってまったく異なった印象を抱くような、不思議な魅力を持ったナンバー。サビのとろけるように甘いメロディの魅力にはどんな人も抗えないだろう。
08A MESSAGE
アコースティック・ギターとヴォーカルだけで構成されるAメロが印象的な、生楽器の味わいがしっかり堪能できるナンバー。「My song is love」というあまりにもストレートなメッセージが心に突き刺さる歌詞からも、メンバーの気持ちが伝わってくるようだ。バンド全体で“歌っている”ようなアンサンブルも心地いい。
09LOW
タイトに疾走するビートときらびやかな光を感じさせるギターが鳴り響いた瞬間、心をグッとつかまれる。まるで万華鏡のように自由にカタチを変えながら、色とりどりの風景を想起させてくれるギター・アンサンブル、そして、“白黒の世界から抜け出そう”というメッセージが伝わってくるリリックも魅力的なナンバー。
10THE HARDEST PART
どことなくR.E.M.の影響を感じさせるコード感のなかで歌われるのは、タイトルどおり“いちばんつらかったところ”についての物語。絶望を抜け、希望の光を探し、それを歌にして“君(=オーディエンス)”に届けたいというメッセージ。繊細な感情の震えを体現したギター・ソロも素晴らしいナンバー。
11SWALLOWED IN THE SEA
荘厳な雰囲気をたたえたオルガン、スケールの大きさを感じさせる骨太のビート、ヴァースを重ねるたびに神聖なパワーを帯びていくヴォーカル・ライン、そして、“音楽をつくる意義”が垣間見えるような神話的リリック。曲全体にゴスペルの影響を強く感じる、壮大なナンバー。まさに“海に飲み込まれる”ようなトリップ感覚を味わえそう。
12TWISTED LOGIC
聴くものを大らかに包み込むような温かさと、身が切り裂かれるような厳しさを同時に体現したミドル・バラード。人類の歴史を想起させ、未来を予言するような歌詞からは、このバンドが持つ奥深さを証明している。まるで『2001年宇宙の旅』のラスト・シーンのようなスケール感を持つ音像も見事。
13TIL KINGDOM COME