ミニ・レビュー
8年の間に4人が残したシングルのB面を集めた、裏ベストとも言えるコンピレーション。主役であるシングル曲を上回るんじゃないのか、というクオリティのものも多く、ぜひ『A』とあわせて聴いていただければと思う。全編、イノセンスの塊である。★
ガイドコメント
2005年2月26日、studio coastでのライヴをもって解散。97年のデビュー以来、天性のポップ・センスで時代を牽引し続けた彼ら。その7年半の歴史を、全シングル16枚のBサイド作品で振り返るコンプリート・アルバム。
収録曲
[Disc 1]
01 (AM I)CONFUSING YOU?
スーパーカー最初で最後のクリスマス・ソング。疾走感溢れるギター・ポップと、若さゆえの無鉄砲さともどかしさを備えた歌詞の世界観。ハッピーではなく、どこか憂いを含んだクリスマスの風景が新鮮に響く。
02LOVE SONG
ミキの可愛いヴォーカルが光る、タイトル通りの「ラブ・ソング」。甘く切ないメロディと多くを語らないシンプルな歌詞から見えてくる無限のストーリー。誰もが持つ初恋の心の機微を見事に表現している。
03HELLO
ブンブン唸るベース・ラインから雪崩れ込む怒涛のギター・グルーヴ。ナカコーとミキによるツイン・ヴォーカルの掛け合いも大きな渦の吸引力となって、サウンドの中心へとぐんぐん引きずり込んでいく。飲み込まれずにはいられない快感。
04RIGHT NOW
シンプルなコード進行と印象的なギター・リフによって構成された直球ギター・ポップ。不安と未来の入り混じった青春のエネルギーがどんどん加速して、世界を打ち抜いていく感じがなんとも心地よい一曲。
05YES、
轟音フィードバック・ノイズの桃源郷に浮遊するミキの透明ヴォーカル。音の洪水に飲み込まれ、自分と世界の境界線を見失う中毒性の高い酩酊感。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの遺伝子が結実した、ひとつの解答ともいうべき作品。
06ALRIGHT
乾いたギターとミキのヴォーカルが心地よく融合した一曲。憂いを含んだ甘いメロディとミキの声の相性も然ることながら、ナカコーの美麗なコーラス・ワークが曲の美しさをより引き立てている。当時のメンバーの等身大を描いた歌詞もGOOD。
07HALKROAD
ルーズなリズムの中に紡がれる言葉とメロディ。若干カントリー風味なギターが丁度いい郷愁感を演出している。サビのゆっくりと伸びるように広がっていく展開が実にドラマティックで、涙腺を刺激される。
08SEVEN FRONT
人力ドラムンベースと爆音ギターが見事に絡まりあう超絶ダンス・ナンバー。爆撃のように投下されるビートと垂直に叩きつけられるファズ・ギターが生み出す即効性は、最早致死量の域。まさに劇薬そのものの、ヤバい一曲。
09WAVEMENT
水辺に無数に広がる波紋のように、小さな音の共鳴が絡まり合い、やがて大きな波を形どっていく。ぱっと聴いた感じの派手さは一切ないが、音の一つ一つから沸きあがるイマジネーションは最高にダイナミックだ。
10SLEEPING BAG
ドラムのコーダイ作曲によるミドル・チューン。気怠いサウンドに乗せて歌われる気怠い歌詞は、まさに青春期の若者が持つ倦怠感そのもの。それを「二流も三流も同じなんだよって笑う」と表現する辺りが実に彼ららしい。
11ELECTRIC SEA
初期スーパーカーのお家芸ともいうべき、シューゲイザー直系のフィードバック・サウンドを全面に押し出した、陰鬱で甘い壮大なロック・バラード。明滅する夜景をエレクトリック・シーと表現する詩情もナイス。
12PINK ROCK
初期ギター・ロック期と以降のエレクトリック期の間に位置する作品。随所に見えた暮れするエレクトリックな要素は、今聴くとどこか実験めいた感じに聴こえる。新たな飛躍に向けての実験ラボといったところか。
13GUMNOVA
UK色の強いイメージのあるスーパーカーだが、この曲だけはUSロック並みのヘヴィなギター・サウンドを採用している。最初で最後ともいえるマッチョなリフは不釣合いな感じもするが、妙にマッチしていたりで味わい深い。
[Disc 2]
01RAINBOW RAIN
ミキ作曲によるエレクトリック・チューン。ミニマムなメロディと言葉のリフレインがトランス状態を引き起こし、意識の向こうへと誘ってくれる。このシンプルかつ革新的なサウンドメイキングが、後期スーパーカーの一つの核となっていく。
02FREE YOUR SOUL
バウンシーなビートと縦横無尽に飛び交う電子音。理性を一瞬で飛び越え、魂を解放する完全フロア対応のトランス・サウンド。浮遊するミキのヴォーカルが呪術的ですらあるほど艶めかしく、妖しい。
03WAYDO
ギターのアルペジオのフレーズとナカコーのヴォーカルの反復が酩酊感を引き起こす、幾何学模様のサイケデリック・ナンバー。どこかしらビートルズの「トゥモロー・ネバー・ノウズ」を想起させる。
04UNIVERSE
地球の周りをぐるりと周回する衛星のように、心地よいメロディがゆっくりと旋回するミドル・チューン。クリアな電子音とテクノ的なビートがどこかSFチックな近未来的ヴィジョンを見せてくれる。
05SORATOBI
低空飛行感溢れるサウンドが徐々に加速度を上げていき、一瞬で飛び立つような爽快さ。タイトル通り、本当に空を飛んでいる錯覚さえ引き起こす。こういった映像的な音の作り方も彼らの持ち味の一つといえる。
06Rou
10分にも及ぶ大作。作詞を手掛けるのはミキ。徐々に広がっていくサウンドスケープの美しさと後半を支配する呪術的なパーカッションのリズムが、精神世界を描き出している。彼らのリスペクトするROVOの方法論を独自に消化した不可思議な一曲。
07INTERMISSION
電子音に時折自然音がインサートされたインスト・ナンバー。スーパーカーとしての作品というよりも、どちらかというとナカコーのソロ・ワークの色が強い。ありきたりになりがちなこの手のサウンドに、しっかりと個性を盛り込んでいる手腕はさすが。
08HIRAMEKI INSPIRATION
ノイジーな電子音のリフレインの「緊張」状態から、怒濤のダンス・ビートへの「解放」へ。抑圧された感情が一気に噴出し、ぐんぐんと天に昇っていく光のダンス・ミュージック。ちなみに高音ヴォーカルは一瞬ミキのように聴こえるが、ナカコーによるもの。
09ANTENNA
エレクトリック期の手法は残しつつ、生音の演奏に回帰したサウンドが新鮮。無駄を省いた透明なサウンドとナカコーの透き通ったヴォーカルが絡み合って、心地よいサウンドスケープを生み出している。
10SCALE
マイナー調のアルペジオを基盤としたフレーズのリフレインからサウンドを徐々に広げていく、ダークな一曲。陰鬱とした世界の中で、祈りにも似たナカコーの歌声が賛美歌のように一筋の光を投げかけている。
11ALIVE
パーカッションのビートと太いベース・ラインを下地に置きつつも、ドラマティックな展開で美麗な音風景を描き出すことに成功している。従来の自分たちの音楽性と一見不釣り合いな南米のビートを上手く融合させた、職人技が光る一曲。
12VOICE
自己模倣の連鎖に陥り、マンネリ気味になりつつあったこの頃のスーパーカーだが、痙攣気味のギター・リフを採り入れることで今までにないスパイスを加えることに成功。バウンシーでファンシーな胸躍るサウンドは、つかみ所のない不思議な魅力。
13ROLLIN' ROLLIN'
どす黒いベース・ラインが牽引するグルーヴと、ニューウェイヴ風味のギター・カッティングが反発し合いながらも絡まり合う、新感覚ロックンロール。ジャブの応酬のような音と音の小さなぶつかり合いが、実にエキサイティングだ。
14FOX、DOGS AND DOVES
ギターの引き語りで聴かせるブルージィな一曲。シンプルなスタイルだが、よく聴くと無数の民族楽器によるノイズがコラージュされており、静かながらも細かいサウンドメイキングがなされていることに気づく。