ガイドコメント
多くのゲストを迎えてセルフ・プロデュースされた、1968年の2枚組アルバム。ロック、ファンク、デルタ・ブルース、モダン・ジャズなど、あらゆる音楽的要素を詰め込み、エレクトリックを極限まで追求したグループの最高傑作。
収録曲
01ザ・ゴッズ・メイド・ラヴ
『エレクトリック・レディランド』のオープニングを飾る1分弱の小品。当時の録音技術を総動員したような音響効果の雨あられが、『エレクトリック〜』の革新性をそのまま体現。ジミ曰く「神様の性行為を表現した曲」なのだそう。
02エレクトリック・レディランド
ジミのカーティス・メイフィールド風ファルセット歌唱&ハモリが聴けるソウル・バラード。この曲ではベースもジミが弾いており、ギターにはソフト&メロウな曲調を損なわぬ程度のエフェクト処理が施されている。
03クロスタウン・トラフィック
ジャズの洗練さとソウルの泥臭さを融合させた、独創的なファンク・ロック・ナンバー。サビ部分で“〜トラフィック♪”とハモっているのはデイヴ・メイソン。彼がトラフィックのメンバーであることを踏まえたダジャレだ。
04ヴードゥー・チャイル
ジミ、ミッチ・ミッチェル、ジャック・キャサディ、スティーヴ・ウィンウッドの四者による15分間にも及ぶセッション・ナンバー。後引くオルガン、粘り気あるベース、黒々と野太いギターなど、全編がアドリブの応酬。
05リトル・ミス・ストレンジ
ノエル・レディング作&歌唱のサイケデリック・ポップ。同じくノエル作の「シーズ・ソー・ファイン」同様、またもザ・フーを感じさせるような曲調。出来そのものは良いが、ジミ作の曲と較べてしまうと……なのだ。
06ロング・ホット・サマー・ナイト
アル・クーパーが鍵盤で参加したR&Bナンバー。脇役に徹した印象を受けるアルの控えめなプレイだが、よぉ〜く聴くと妙な処理が施されていたりする。ジミのギター含め、あちこちにしなやかさが漂っている好曲だ。
07カム・オン (レット・ザ・グッド・タイムス・ロール)
ジミの高校時代からのカヴァー・レパートリーで、オリジナルはR&Bシンガー/ギタリストのアール・キング。14パターンを録音したうちのOKヴァージョンがこれで、ギター・ソロ突入寸前のパートがスリリングだ。
08ジプシー・アイズ
ジミの実母“ルシール”を歌ったブルース・ナンバー。ギターもベースも弾くのはジミだが、まるで同時にプレイしているかのような緊張感。ブルースの名曲「ローリン・アンド・タンブリン」によく似た冒頭部はご愛嬌。
09ミッドナイト・ランプ
多忙時代のジミが唯一落ち着けた飛行機での移動中に書いた、きわめて個人的な心情吐露ソング。『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』発表以前のシングル曲だが、なぜか『エレクトリック・レディランド』に収録された。
10レイニー・デイ、ドリーム・アウェイ
ジミの咳ばらいと鼻をすする音で始まるジャジィなナンバー。バディ・マイルス、マイク・フィネガンらの手堅いサポートを得たジミは、いつもの破天荒さは控えつつ気楽なプレイを披露。全編真夜中ムードの楽曲だ。
111983
SF好きのジミらしい黙示録的世界が描かれた終末ロック。フルート以外の楽器はすべてジミがプレイしているが、そのサウンド・オーケストレイションの完成度は、“宅録ミュージシャン”ジミの魅力で満ちあふれている。
12ムーン、ターン・ザ・タイズ
ギターを重ねて作ったサウンドの再生速度を速めたり遅めたりして深海を演出したインスト曲。同アルバム収録の「1983」で歌われる終末世界での逃げ場が“海”であることを踏まえたのかも。凝ったこの曲、作業時間は延べ18時間。
13スティル・レイニング、スティル・ドリーミング
冒頭の歌詞を聴いて分かるとおり、曲としては「レイニー・デイ、ドリーム・アウェイ」と地続きのジャズ・ナンバー。セッションがあまりに長引いたため、適切な箇所で2曲に分断したのだ。こちらは随所でワウが活躍。
14ハウス・バーニング・ダウン
ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス時代を思わせる曲調のロック・ナンバー。しかし、歌詞はジミにしてはずいぶんと政治的で、当時の黒人同士の争いに対して“真実は前にある、争う前に学べ”と諭している。
15オール・アロング・ザ・ウォッチタワー
ボブ・ディラン『ジョン・ウェズリー・ハーディング』収録曲のカヴァー。アコースティック・サウンド主体のシンプルな原曲に対し、ジミは重量感あるロックな解釈を披露。原曲を凌駕したカヴァーの稀有な一例だ。
16ヴードゥー・チャイルド (スライト・リターン)
ゲストとのセッションによる「ヴードゥー・チャイルド」に対し、こちらはミッチ・ミッチェル、ノエル・レディングとのバンド編成で録音。曲の長さは三分の一に縮んだが、迫力、豪快さ、呪術テイストは3割増である。