ミニ・レビュー
強烈な個性を持った、エレキ・ギターがメイン楽器の女性シンガー・ソングライターのデビュー作。私小説めいた印象深い歌詞に転調の多いメロディ、巻き舌をまじえた多少やさぐれた感のあるヴォーカル、そしてドラマティックな世界観。おもしろい。すごくおもしろい。
ガイドコメント
特異な存在感を持つ、女性シンガー・ソングライター、扇愛奈のデビュー・ミニ・アルバム。上田ケンジ、杉本恭一らのミュージシャンが好サポート。新人離れした声のパワーに注目。
収録曲
01スタンプラリー
上田ケンジ、杉本恭一など異才ミュージシャンたちの強力サポートによる、記念すべきデビュー・アルバムの1曲目を飾ったナンバー。恋する相手の心にだけは自分の存在というスタンプを押せないといった、もどかしい恋心を歌う。巻き舌の個性的なヴォーカルにピッタリな、ホーン満載の歌謡曲風サウンドもインパクト強し。
02ひねくれて藤沢
藤沢の海を人生に例え、我がままな自分にツッコミを入れて、大人になろうとする姿を描いたナンバー。懐かしくポップな作風で、言葉の乗せ方がうまく、オンナっぽい艶のあるヴォーカルを緩急自在に操っている。転調し速度を上げ、切ないギターを聴かせる終盤の、吹っ切れたような清々しさが聴きどころ。
03十月
急な恋人との別れ、その喪失感を歌ったエモーショナルなロッカ・バラード。“長すぎる前髪”などの些細な特徴や思い出の描写がリアルな感情を呼び起こし、苦しみを強く感じさせる。物悲しい旋律を響かせるキーボードが、空を覆っていく雨雲のように、楽曲全体にゆっくりと、どうにもならない悲しみを広げていく。
04共有
オーケストラ風の壮大なイントロ、祝福するような鐘の音に導かれ、疾走感のあるパンク・サウンドに乗せて歌われるハッピーなラヴ・ソング。同じ時間を生きているだけで十分、という熱い思いが爆発している。巻き舌で男っぽい歌い方だが、普通の女の子のように恋する気持ちがかわいらしい作品。
05お風呂
“あぁ今日もいいことなかった”と歌い出すヘヴィ・ロック・チューン。そんな彼女の救世主=お風呂の素晴らしさを歌う、平凡のようでいてロックな詞世界が個性的。湯船に浸かったとたん、思わずため息とともに声がもれてしまう、誰もが経験あるお風呂のリラックス感に共感必至の一曲。