ガイドコメント
ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』を手がけたブッチ・ヴィグをプロデューサーに迎えた、92年発表の8thアルバム。しょっぱなからサーストン・ムーアのギター・ノイズが混沌と渦巻く、90年代のアメリカを代表する1枚。
収録曲
01100%
「JC」同様、ロリンズ・バンドのローディー、ジョー・コールが殺害された事件をテーマにした曲。重心をグッと下げたヘヴィなリズムの上で、怒りと悲しみで彩られたギターのフィードバック・ノイズがのた打ちまわっている。
02スウィムスート・イシュー
キムが激しい口調で物申す反セクハラ・ナンバー。タイトルは、スポーツ雑誌『スポーツイラストレイテッド』の水着特集号を指し、歌詞の最後では同号に登場した有名モデルの名を列挙。ギター3本、ベースレスでの録音。
03テレサズ・サウンド・ワールド
硬軟高低を使い分けたクールでメロディックなナンバー。流麗なギター・フレーズを中心とした平穏な音世界と、ヒステリックな高音ギターと重低音リズム隊によるアグレッシヴな音世界が交互に顔をのぞかせる曲構成。
04ドランクン・バタフライ
キムがドスを利かせながら“♪アイ・ラヴ・ユー”と繰り返すセクシーなナンバー。ピックではなくドラム・スティックでギターを弾く(こする)独特の奏法が楽しめる曲で、急き立てるようなイントロの不穏さも刺激満点。
05シュート
91年録音のインスト「The End of The End of the Ugly」に、人生の裏商売を描いた歌詞を付けたナンバー。ミディアム・テンポで淡々と流れるダークなサウンドをバックに、激情をにじませながら歌うキムがクールだ。
06ウィッシュ・フルフィルメント
これを『ダーティ』のベスト曲に挙げるファンも少なくない、リー・ラナルド歌唱のラブ・ソング。ノイジーなサウンドで描き出すブルーな感情の機微が、この曲をソニックス流のブルースに昇華したナンバー。
07シュガー・ケイン
どちらかと言えばドライなものが多いソニックス・サウンドだが、この曲の場合はやや多湿で、曲調もポップ。ソニックスと交流のあるハーフ・ジャパニーズの曲名を引用した歌詞は、ラブ・ソング形式を通じてハーフ〜の作品を賛美しているように読める。
08オレンジ・ロールズ、エンジェルズ・スピット
例によって雄叫びをあげるキムと、その気迫に負けないハイ・エナジー・サウンドが爆走するナンバー。幾種類ものギター・リフが楽しめるフリーク・アウトな音世界と、“♪ララララ”と歌うコーラスの淡々とした風情との差異が絶品。
09ユース・アゲインスト・ファシズム
KKK、ナチス、キリスト教、そして大統領。彼らがファシストと考えるあれこれに次々と噛みつく政治的パンク・ソング。しかし、ここで聴けるのは、歌詞の一部を置き換えたクリーン版。フガジのイアン・マッケイが客演。
10NIC FIT
フガジのイアン・マッケイの弟が在籍するバンド“アンタッチャブルズ”のカヴァー。原曲のハードコア・スタイルにノイズを振りかけたような解釈。サーストンのヴォーカルが原曲に負けじとヨレヨレで、かなりの芸達者ぶりを発揮。
11オン・ザ・ストリップ
ベースレス、トリプル・ギターでの演奏。三本のギターが渦巻くノイズは暴力的に美しく(とくに終盤)、キムの艶やかな歌唱も刺激的。編成の問題なのか、完成度高い楽曲でありながら、ライヴではまずプレイされない。
12チャペル・ヒル
北カリフォルニアの風景を通して、戦争や犯罪の影に覆われてしまった母国アメリカを描き上げた歌詞。ポップなドライヴィング・サウンドがさらに急加速する後半部は、その唐突さも含め、彼らの魅力が凝縮されている。
13JC
ロリンズ・バンドのローディー、ジョー・コールが殺害された事件をテーマにしたナンバー。キムの歌唱はスポークン・ワードに近く、バックも曲を演奏するのではなく、音を鳴らし、きしませている印象だ。
14パー
発表されたのは90年代だが、作られたのはかなり初期段階。イントロもギター・ソロもキャッチーでダンサブルで、持ち前の実験的精神よりも大衆的な魅力が前に押し出ているナンバー。ソニックス入門用に最適かも。
15クレーム・ブリュレ
キムのギター弾き語りに、スティーヴ・シェリーがパーカッションで同行する簡素でアンニュイなナンバー。ギター・リフの雰囲気が、キムの別バンド“フリー・キトゥン”の「John Stark's Blues」を思わせ興味深い。
16ストーカー