ミニ・レビュー
前作で復活したトーレ・ヨハンセンらスウェーデン組との相性がよほどよかったようで、パワー・ポップからダンス・ミュージック寄りの曲までこなれた風情で歌っていく。案外スタッフ気質の強い人なのだろう、感情が前面に出てこない反面、完成度は高い。
ガイドコメント
前作『Even So』より1年4ヵ月ぶりとなる、通算8作目のオリジナル・アルバム。従来のオーガニックなサウンドに、ロックを基盤としつつも独特のアレンジを加味した、新たなBonnie Pinkサウンドを聴かせる傑作だ。
収録曲
01So Wonderful
トーレ・ヨハンソン門下の若手プロデューサー・チーム、“バーニングチキン”による爽快なポップ・チューン。ロック・テイストにあふれたアコギ、80年代風シンセ、大空を滑空する風のようなサウンドに乗せて、どんな困難にも立ち向かう強さを歌う。
02Paradiddle-free
アコギとエレキ・ギターが奏でる土臭いブルース調のミディアム・ロック・チューン。オールディーズ風ピアノも加わったサウンドが良き郷土感を伝える。“パラディドゥル”は“右左右右”といった連打の意で、そういう音を立てない日も必要よ、と諭す歌。
03Coast to Coast
マックスウェル作品で知られるホッド・デヴィッドが手掛けた、パーカッションのサンバ風リズムが身体躍らせるダンサブルなナンバー。大陸間を吹き抜けるドライな風のようなサウンドに乗せ、今は誰にも頼らずに自立しなければ、と歌う。
04Addiction
ダウナーで重苦しいマイナー調のメロディがジワジワと沁みこむミディアム・ロック・チューン。気だるさを醸し出すサウンドが、タイトルの“Addiction”のごとく中毒性を感じさせる。“打って血清 Let's say”などの韻を踏んだ詞の組み込み具合も効果的。
05Mirror
ホッド・デヴィッドが手掛けた全篇英詞のミディアム・ロック・バラード。彼女自身が奏でる爽やかなアコギと、時に艶があり時に泥臭いエレキ・ギターとが対照的。“私は私 あなたはあなたで居られる?”という詞とともに、鏡のような二面性を写し出していて面白い。
06日々草
朗らかなフェンダーローズと陽気な電子シタールの音色が活力を与えるポップ・チューン。常に自分らしく輝くことの素晴らしさを教えられた日々草への愛情を“Nichi-nichi-so”と擬音語風に歌う。トーレ・ヨハンソン門下チーム“バーニングチキン”プロデュース。
07Robotomy
「ロボットのような従順は嫌、私は私でいさせて」と歌うミディアム・スロー・チューン。ギターやパーカッションが奏でるブルース・ロック調の野暮ったいサウンドが、よりいっそう現状の倦怠感を表わしている。ホッド・デヴィッドによるプロデュース。
08Monster
トーレ・ヨハンソンのプロデュースによる全篇英詞のミディアム・ファンク・チューン。自身を完成させてくれる誰かが欲しいと願いながら、自身の中に怪物を創造してしまったことを嘆く哲学的な詞だが、80年代風の曲調により重厚感を上手く取り去っている。
09Rise and Shine
“バーニングチキン”のプロデュースによる派手やかなプログラミング・アレンジがユニークなミディアム・ナンバー。彼と一緒にいることが私が輝ける方法なのだ、と活き活きと歌うヴォーカルには、彼女の天性の明るさが見え隠れしている。
10Cotton Candy
瞬く間に溶けてしまう幸せを綿菓子に喩えた詞が秀逸なミディアム・スロー・バラード。イントロの畳み掛けるドラミングとは対照的に、過去の幸せを回想させるようなギターとオルガンの音色が、センチメンタルに響くノスタルジック・チューン。
11Nocturne
関係に終止符を打つ時を迎える切なさ、やるせなさを“夜想曲が帰ってきた”という彼女らしい表現で歌った、バーニングチキンのプロデュースによるアコギを軸とした楽曲。シャリシャリというパンタン・ランプを揺らした音を使うなど、遊びゴコロもみえる。
12You Got Me Good
ハンドクラップが全篇に配された爽快なサウンドが映えるダンサブルなナンバー。たった一言でスウィートな気持ちへ変えてくれる彼への愛情を、キュートなハミングと心弾むようなヴォーカルで描写。トーレ・ヨハンソンのプロデュース。
13Believe
信念が扉を開けるのだという彼女自身の心の声にも感じられる、ハートウォームなヴォーカルが琴線に触れるバラード。バーニングチキンによるプロデュース作品で、香港映画『ベルベット・レイン』(2004)イメージ・ソングとなった。