ミニ・レビュー
ソロ以降では最もポジティヴで溌剌とした作品に仕上がったソロ通算10作目。ジャム時代の疾走感を彷彿させる(3)(8)といったロック・チューンや、スタイル・カウンシルを思い出させるアレンジの(13)など、いつになく多彩でフレッシュな作風に驚かされる力作。
ガイドコメント
2004年にクラシックの名曲をカヴァーしたアルバムで話題を呼んだ、通算8枚目となるオリジナル・アルバム。JAM時代を彷彿とさせるアグレッシヴなロック・サウンド全開の作品。
収録曲
01BLINK AND YOU'LL MISS IT
ジャムからの影響が色濃い若手バンドの台頭に回春したか、冒頭から炸裂する鋭いギター・カッティングなど、歪めど歯切れの良い往時の猛々しさをバンド全体で再現。彼の若々しさと成熟が同時に感じられるナンバーだ。
02PAPER SMILE
ゆったりとしたテンポながら、歌にも演奏にも力が入りまくっている彼らしい曲だが、「自分で実現できない夢に何の意味が?」と他力本願を否定する姿勢もあり。渋みのある曲調は、さながらウェラー流ジャズ・ファンクか。
03COME ON/LET'S GO
アコースティック・ギターの疾走感も新鮮な快心ビート・ナンバー。ギター・リフに顕著だが、メロディもサウンドもやたらとポップに若作り。ミュージシャンとしての存在証明を自問自答しているような歌詞も印象的だ。
04HERE'S THE GOOD NEWS
レイド・バックしたバンド・サウンドに、陽気なピアノやホーン、そしてサウンド・エフェクトが合流するポップなピアノ・ナンバー。ビートルズなどのマジカルなサウンドへのリスペクトの念が伝わってくる一曲だ。
05THE START OF FOREVER
年齢を重ねた彼が歌う、中年版「イングリッシュ・ローズ」的曲調のアコースティック・バラード。新恋人への思いの丈が綴られた優しくロマンティックな曲だが、なぜだか最後にヘヴィな展開が用意されている。
06PAN
ある時期から、ゴスペル/教会音楽色の強い楽曲を定期的に発表している彼だが、この曲も歌詞・アレンジともに宗教色が強く、楽曲が醸し出す気配も他の曲とは異質。荘厳な曲調に乗せ、創造主の存在を問う彼の真意は?
07ALL ON A MISTY MORNING
アイリッシュ・トラッド史における重要バンド“スウィニーズ・メン”の作品に触発されて作ったフォーク・ナンバー。レッド・ツェッペリンのアコースティック・ナンバーに似た感触もある、田舎暮らしのラブ・ソング。
08FROM THE FLOOR BOARDS UP
歌詞に込められた歌い演奏することの興奮を体現した高揚感満点のナンバー。ロック魂あふれる曲調に、それとなく採り入れたエキセントリックなリズムが秀逸。唐突すぎる曲の幕切れは、聴くたびに不思議な気持ちにさせられる。
09I WANNA MAKE IT ALRIGHT
歌唱を含め、どこかスリム・チャンス期のロニー・レインに通じる人間味が感じられるラブ・ソング。レイド・バックしたサウンドと、いつになくリラックスした節回し。そこには英国ロックらしいぬくもりとわびしさが。
10SAVAGES
300人以上もの死者(半数が児童)を生んだ2004年のベスラン学校占拠事件に触発された曲。いつも以上にオーソドックスな古典的曲調に乗せ、犯人グループと治安部隊を野蛮人とののしり、込み上げる怒りを表明している。
11FLY LITTLE BIRD
ついに五児を設けた“英国のタケカワユキヒデ”ウェラーが、子供たちに父親の眼差しで呼びかけるナンバー。アコースティックを基調にした優しいサウンドに、サイケデリックなエフェクトを加え幻想的なムードを演出。
12ROLL ALONG SUMMER
いくぶんボサっぽい雰囲気を採り入れた、どっぷりとジャジィなサウンドが心地よいナンバー。アコースティック・ギターのオン/オフに、ベースやドラムが動きを合わせる“だるまさんが転んだ”的ブレイクが面白い。
13BRING BACK THE FUNK
「ファンクを取り戻すんだ」と歌う詞そのままに、ファンクの要素を大きく打ち出してみせたナンバー。そこにはスタイル・カウンシル「マネー・ゴー・ラウンド」を骨太にしたようなムードに、エグさを除いたP-ファンク味が少々。
14THE PEBBLE AND THE BOY
「ブリング・バック・ザ・ファンク」同様、スタイル・カウンシルを思い出させるナンバーで、ピアノを中心にした末期カウンシルの雰囲気に近い。優雅なメロディがバックでも、ウェラーの歌唱はいつもどおりのアツさだ。
15ORANGES AND ROSEWATER
いくぶん抑えた歌唱が魅力的なアコースティック・ナンバー。フォーキーなサウンドでゆったりと進む曲調が、1分38秒付近で突如としてサイケデリックに急変。この約20秒ほどのB級サイケな展開が、とても無用で最高だ。
16SHINE ON
ザ・フーを彷彿とさせる派手な展開で始まり、終始骨太なバンド・サウンドで押しまくる迫力のロック・ナンバー。アレンジの練り具合に物足りなさはあれど、『アズ・イズ・ナウ』収録曲にも引けを取らない魅力がある。