ガイドコメント
2005年リリースの通算21枚目となるアルバム。期待を裏切らない楽曲のクオリティの高さと衰えることのないヴォーカルはさすが。レディオ・ヘッドやベックでも知られるナイジェル・ゴッドリッチがプロデュース。
収録曲
[Disc 1]
01FINE LINE
02HOW KIND OF YOU
ポールの頭の中で眠っていたメロディが自然に流れ出たような曲。手間と時間をかけて少しずつ色を塗っていった絵画のようなニュアンスの、レコーディングのプロセスがうかがえるサウンドが面白い。丁寧な感謝状みたいな歌詞もポールにはよく似合う。
03JENNY WREN
“「ブラックバード」の妹”と称される、ビートルズ時代を彷彿させる珠玉のアコースティック・ナンバー。ロサンゼルスの渓谷のなかで沸いてきたという、叙情と安らぎを讃えたメロディに、デュデュクの哀愁帯びた響きが溶けていくさまは絶品だ。ちなみにタイトルはミソサザイという小鳥の英名で、ポールのラッキー・ジンクスだとか。
04AT THE MERCY
積極的な実験精神がビートルズ・サウンドの秘密のひとつだったことを思い出させてくれる曲。10c.c.だってポールの息子みたいなものだから、と考えれば、この曲はポールが孫を育てているようなものだとも言える。“レット・イット・ビー”な歌詞もナイス。
05FRIENDS TO GO
ポールによれば「ジョージ・ハリスンになった僕が書いた彼の曲」。ビートルズが解散せずに続いていて、ジョージが自分で曲を書いていなかったら……と考えると理解しやすい。歌詞の一部にもジョージの性格が表われている。ポールの憑依体質の成果。
06ENGLISH TEA
弦楽四重奏から始まる40年後の「フォー・ノー・ワン」。フレンチ・ホルンの代わりにリコーダー(しかもダブル・トラック)が活躍。ポールらしい自然なメロディにバロック調のサウンドだから、これを嫌う人は天邪鬼。“いかにも”な歌詞も彼らしい。
07TOO MUCH RAIN
ここまで自然なポールの歌声も珍しい。あえてオーケストラを導入せず、コンボ編成でコンパクトにまとめた編曲がメロディを活かしている。経験を積んだ職人の知恵が瑞々しい若葉を守った、というところか。もっと聴きたいと思わせるエンディングも見事。
08A CERTAIN SOFTNESS
もしもポールが中南米に生まれていたら……なんて思わせる美しいバラード。ビートルズ時代からそちら系の資質はあったが、これはもうラテン系そのもの。それでいてポール以外の何者でもないのだから、「中南米のポール」と表現するしかない。
09RIDING TO VANITY FAIR
10FOLLOW ME
メロディが生まれる瞬間を想像させる曲。こんな曲を書いてみたい、という発想が異なる結果を生んだ、という例のひとつ。自己暗示というよりもむしろ啓示。多重録音された生ギターの響きが心地よい。ストリングスからマラカスまでが過不足なく適材適所。
11PROMISE TO YOU GIRL
二つの曲を合体させたミニ組曲。『アビイ・ロード』のB面に収録されていてもおかしくはない。編曲も『アビイ・ロード』風。『アビイ・ロード』で言えば「サン・キング」+「ポリシーン・パン」か。どちらもジョンの曲だが、それをポールが作ったとしたら……という話。
12THIS NEVER HAPPENED BEFORE
一見(いや一聴)ポールの代名詞のような“愚かな恋の唄”だが、実は凝っている。彼らしい強引なミスマッチもあるけれど、そこがまた魅力だなんてあえて今さら言うまでもない。タイトルを女性的に意訳すれば「こんなのって初めて」。ユーモアのセンスも健在。
13ANYWAY
イントロを聴いた時には「ピープル・ゲット・レディ」かと思ったが、徐々にポールの世界へと入っていく。恋も唄も人生も旅のようなもの。やがて感動のエンディングが訪れる。アルバム収録曲の断片を繋ぎ合わせたようなシークレット・トラックも楽しい悪戯。
14SHE IS SO BEAUTIFUL
歌詞だけを眺めれば「また“愚かな恋の唄”か」と思われるかもしれない。しかし、永遠に失われてしまった何かへの憧憬と郷愁の念がここにはあり、さらには鎮魂の気配さえも漂っている。たぶん最も素顔に近いポールの曲のひとつだとも言えるだろう。
[Disc 2]〈DVD〉
01Between Chaos and Creation (ポール・マッカートニーとナイジェル・ゴドリッチのインタビュー映像)
02ファイン・ライン (パフォーマンス・ヴィデオ)
03Line Art (線画の映像)
04ハウ・カインド・オブ・ユー (イメージ・ヴィデオ)