[Disc 1]
01(JUST LIKE) STARTING OVER
02IMAGINE
03WATCHING THE WHEELS
「僕はもう降りた。あとは勝手に回ってくれ」……ショウビズ界をメリーゴーランドに見立て、それを冷静に眺めるジョンの視線を綴った本作は、音楽活動休止中、さまざまな憶測で騒ぎ立てるマスコミへの回答とも取れる。穏やかなメロディに乗せて、そのシニカルな主張をサラッと聴かせてしまうところがいかにもジョン。
04JEALOUS GUY
嫉妬心とは、弱さから生まれるもの。そう、「君にもう愛されていないのでは」という心細さ、恐怖心。そんな心情をさらけ出す、繊細なジョンに出逢えるラヴ・バラード。弱々しいヴォーカルはもちろん、か細い口笛もまた心に染みる。優しいメロディに寄り添うような、美しいピアノ・プレイはニッキー・ホプキンス。
05INSTANT KARMA! (WE ALL SHINE ON)
平和活動へのエネルギーが、そのまま曲に投影されたかのようなロック・ナンバー。「俺たちはみんな輝いている!」とシャウトするジョンの歌声は圧倒的なパワーを放つ。ちなみに本作、わずか1日ですべてを完成させた驚異の“即席”ナンバーだが、ジョンとフィル・スペクターのセンスが炸裂。完成度はいわずもがな。
06STAND BY ME
ベン・E・キングによる名曲のカヴァー。ウッド・ベースなどシンプルなオリジナルに比べ、切れ味抜群のアコギと着実なドラミングが際立つ、よりロック色が濃厚なアレンジに。しかし何より特筆すべきは、ロック魂炸裂のジョンのヴォーカル。ヨーコを想ったであろう「ダーリン、ダーリン」のシャウトにしびれる。
07WORKING CLASS HERO
ギター1本を友に、英国の階級制度を痛烈に批判していく、なんとも荒涼としたフォーク・ソング。その政治色が濃厚な作風は、ジョンに多大な影響を与えたボブ・ディランを彷彿とさせる。抑揚のないメロディをなぞる低いヴォーカルは、ケンカでいえば“ドス”をきかせた感じで、淡々としたなかにも凄みがあるナンバーだ。
08POWER TO THE PEOPLE
09OH MY LOVE
「愛しい人、生まれて初めて僕の目は開かれた」……ヨーコに出逢って変わっていく自身の心情を投影した、珠玉のラヴ・バラード。悟りの域に達したかのような、穏やかなジョンがここに居る。英国らしい叙情と東洋的な美が同居したメロディで、まさしくヨーコとの出逢いが生んだ作品である。
10OH YOKO!
ヨーコへの愛を素直に歌った、ハッピーなフォーク・ナンバー。軽快なアコギと瑞々しく流れるピアノの旋律を従えたジョンの歌声は、永遠の伴侶に巡り合った喜びでいっぱいだ。キャッチーなだけにシングル・カットの話も出たが、「俺のタフなイメージが壊れる」との理由でボツに。
11NOBODY LOVES YOU (WHEN YOU'RE DOWN AND OUT)
12NOBODY TOLD ME
「失われた週末(ヨーコとの別居時期)」でのジョンの心の乾きがありありと表われた、哀愁のバラード。ショービズ界で身を粉にする自身を自嘲し、ヨーコのいない虚しい心中を切々と綴るジョンの歌声は身につまされるものの、快活なロック・ナンバーでは出せない、渋い男の色気は絶品だ。
13BLESS YOU
ヨーコとの別居時代、いわゆる「失われた週末」時代に作られた、ムードたっぷりのラヴ・バラード。「幸あれ、あなたがどこにいようとも」と歌いかける最中も、離れているヨーコへの恋しさは募る。不意に身をくねらせるようなメロディ・ラインと、ジョンのメロウなヴォーカルが相まって、官能的な雰囲気を湛えている。
14COME TOGETHER
知的障害児のためのチャリティ・コンサート(1972年)からの音源。オリジナルは『アビイ・ロード』に収録。このどっしりとしたロック・ナンバーは、チャック・ベリー「ユー・キャント・キャッチ・ミー」をヒントにしたもの。後のアルバム『ロックンロール』では、この元ネタ自体の見事なカヴァーが聴ける。
15NEW YORK CITY
ロックンローラー、ジョンが本領を発揮したR&Rナンバー。ブギーなリズムに乗せてニューヨークでの波乱万丈な日々を快活に綴る。全体に重苦しい『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』のなかで、唯一弾けている佳曲。米国永住権取得が難航した最中だけに、愛人“自由の女神”への愛はさらに燃え上がったものであろう。
16I'M STEPPING OUT
子育てに専念した主夫時代を回想したロック・ナンバー。80年代の到来を実感させる明るいサウンドだ。愛息ショーンに捧げた名曲「ビューティフル・ボーイ」では、穏やかな父親の姿を見せるジョンであるが、本作では「あ〜つまんね〜。赤ん坊も寝たことだし、俺遊びに行っちゃうもんね。」というヤンチャな側面を見せる。
17YOU ARE HERE
ジョンとヨーコの出逢いに、「西洋と東洋の融合」という文化的思想を絡めたエキゾティックなラヴ・バラード。本作収録のアルバム『マインド・ゲームス』発表の1973年は、ヨーコとの不仲、米国からの国外退去命令など至極多難な時期。しかしここでは、それを感じさせない甘いヴォーカルを披露している。
18BORROWED TIME
若き日を振り返り、そして「年をとって良かった」と語る、味わい深いレゲエ調のナンバー。バックを彩るトロピカルなサウンドは、ショーンと訪れたバミューダの風景を思わせる。その旅行中、ジョンは海上で嵐に遭い、絶体絶命の状況を体験し、「人生観が変わった」という。この後、ジョンは音楽シーンへカムバックする。
19HAPPY XMAS (WAR IS OVER)
[Disc 2]
01WOMAN
02MIND GAMES
「LOVE&PAECE」が色褪せてしまった70年代、それでもジョンは、「愛こそ答え」「YESこそ答え」というメッセージをこの歌に託した。ミドル・テンポのロック・バラードであるが、そのメロディは圧倒的な迫力とキャッチーな魅力を放ち、ジョンの天性のヴォーカルと相まって、我々の精神に力強く訴えかける。
03OUT THE BLUE
タイトルは“突然に”ほどの意で、たとえば“ヨーコとの出逢い”という青天のへきれきを指す。運命に感謝し、人生が開けていく喜びを綴った感動的なバラードは、メロディがビートルズ時代の「セクシー・セディ」を彷彿とさせる。当時ジョンはヨーコと不仲だったものの、決して愛が褪せたわけではないのだ。
04WHATEVER GETS YOU THRU THE NIGHT
エルトン・ジョンとのデュエットで、ソロ初の全米第1位に。派手なベース・ラインに、軽快なハンドクラップ、ボビー・キーズのサックスが高らかに歌う、にぎやかなサウンド。二人の威勢のよいヴォーカルも爽快だ。一時の“独身生活”と、LAという土地柄がかくも開放的な作品に繋がったものか。
05LOVE
06MOTHER
ジョンは幼い頃に両親と離別している。その心の痛みを、彼はこの作品にぶちまけた。淡々としたバラードも、終盤は「母さん行かないで、父さん戻ってきて」という壮絶な絶叫と化し、聴く者の胸を締めつける。当時、ジョンは叫ぶことで過去のトラウマを癒す「プライマル療法」を受けており、その影響が顕著なナンバーである。
07BEAUTIFUL BOY (DARLING BOY)
やっと授かったヨーコとの子、ショーンに捧げた子守唄。東洋的で雅なメロディ・ラインと、トロピカルなサウンドが違和感なく溶け合った、極上のリラクゼーション・ナンバーだ。戦うロックンローラーも、ここでは目を細めて我が子を見守る一人の父親。至上の安らぎに浸るジョンの、穏やかな歌声に出逢える。
08WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD
政治色の濃い『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』のハイライトで、女性の地位向上を訴えた作品。かつてのマッチョなジョンがヨーコに感化され、フェミニストに生まれ変わったのだ。豪華なストリングスのなかを、泣きのエレキ&サックスが響きわたる渋いバラードであるが、“ニガー”という言葉ゆえに放送禁止に。
09GOD
まったりとリフレインするピアノの旋律に乗せて、ジョンはあらゆるものを否定していく。神、聖書、エルヴィス、ディラン、しまいにはビートルズまで。そして「ヨーコと僕だけ。それが現実。夢は終わったんだ」と。“ビートルズ”という枠から解放されたジョンはヨーコとともに、“世界との対話”を生涯果敢に試みることになる。
10SCARED
ヨーコとの別居中の荒んだ心情を綴ったロック・ナンバー。心のしとね(=ヨーコ)を失いそうな恐怖心を赤裸々に歌い上げるヴォーカルは迫力満点。弱音を吐いていても、しっかりロックンローラーである。さらにどっしりとしたベース音と緊迫感漂うブラス・セクションが殺伐とした雰囲気を加え、極限の心境を見事に描いている。
11 9 DREAM
ジョンの夢の中の情景を綴った作品で、幻想的なサウンドで彩られたナンバー。なんといってもジョンのファルセットがこだまする「あーばわかーわー、ぽーせぽせ」は、中毒性を持った心地よさ。聴いた後もしばらく頭の中でリフレインするので要注意だ。ちなみに“9”はジョンのラッキー・ナンバー。本作も全米“9”位を獲得。
12I'M LOSING YOU
愛する人を失いそう……そんな気が狂う寸前の心境をぶちまけた、ワイルドなロック・ナンバー。リック・ニールセン(チープ・トリック)のギュンギュンに歪んだギターとジョンのヴォーカルの掛け合いは、まさに男のガチンコ勝負。男の弱さをかくもハードボイルドな世界に仕立ててしまうのは、ロックンローラーの特権だ。
13ISOLATION
人間が生きていく限り、逃れることのできない“孤独”を切々と綴るバラード。ジョンのアンニュイなピアノが情緒の不安定さを絶妙に演出。他にドラム(リンゴ・スター)とベース(クラウス・フォアマン)を加えただけのシンプルなサウンドであるが、ずっしりと心に響くのは、魂の叫びともいえるジョンの歌唱によるものだ。
14COLD TURKEY
タイトルは麻薬の禁断症状を指す隠語で、まさしくその状況を描いたヘヴィなロック・ナンバー。ジョンを煽る挑発的なギターはエリック・クラプトン。終盤でのジョンの悶え声は、ドラックとは何と恐ろしやーと思わせる壮絶さ。ドラック反対ソングとして最適と思われるが、多方面で放送禁止処分をくらった。
15INTUITION
“直感”という意味のタイトル。自身の“直感力”を讃えるちゃっかりしたリリックも、彼の先見の明をもってすれば、誰も文句はつけられまい。軽やかなサウンドをバックにしたリラックスした歌声からは、人生を讃える素直な気持ちが伝わってくる。心が安らぐ、後味の良いナンバー。
16GIMME SOME TRUTH
偽善者、政治家、ペテン師……と行く手を阻む“偽りの存在”を、怒号のようなシャウトで斬っていくジョンらしい辛辣なロック・ナンバー。ビートルズ末期の頃の作品で、どっしりと進むメロディ・ラインは「アイ・アム・ザ・ウォルラス」を彷彿とさせる。リード・ギターに弟分、ジョージが参加。
17GIVE PEACE A CHANCE
プラスティック・オノ・バンドのデビュー曲は、ギターをかき鳴らすジョンを囲んでの大合唱。あふれんばかりのポジティヴなエネルギーには圧倒されるばかりだ。今や反戦運動に欠かせないシンボリックな歌であるが、誰でもすぐに歌えるキャッチーなフレーズと、団結感を生む力強いメロディが、愛され歌い継がれるゆえんだろう。
18REAL LOVE
ジョンが遺したデモ・テープをもとに、ビートルズの残りの3人が仕上げたもの。名曲「イマジン」にも通じる穏やかなピアノ・バラードで、まるでジョンが傍で歌ってくれているような温もりがある。96年にビートルズの“新曲”として発表され、アルバムでは『ジョン・レノン・アンソロジー』に収録された。
19GROW OLD WITH ME
ラヴ・ソングは数多あれど、これほどまでに深い輝きを放つ名曲はあるまい。「一緒に年を重ねておくれ」とヨーコに向けたジョンの歌声は、なんと愛に満たされていることか、思わず目頭が熱くなる。ジョージ・マーティンによる麗しいストリングスが加わったこのヴァージョンは、『ジョン・レノン・アンソロジー』に収録。