ミニ・レビュー
アトランタの二人組の2年ぶりのアルバムは、二人が主演した同名映画のサントラ的機能も持つ。キャブ・キャロウェイの代表曲が蘇る(2)をはじめ、30年代の米南部……物語の背景にある黒人音楽の魂をヒップホップ手法で彼ら流儀に現代に響かせる! 聴き応え大の78分の音絵巻。
ガイドコメント
ヒップホップ・アーティストとして初のグラミー賞アルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得したアウトキャストの『スピーカーボックス』から3年ぶりとなるアルバム。刺激的かつアウトキャストらしさがあふれた話題作だ。
収録曲
01INTRO
アウトキャストの主演映画に沿った内容のアルバム『アイドルワイルド』の幕開けを飾るイントロダクション。エレピにフランジャーをかけたようなイントロは、映画の舞台となる1930年代のアメリカへタイム・スリップするかのようだ。
02MIGHTY "O"
アンドレ、ビッグ・ボーイがフックをはさんで同じ分量をラップする、アウトキャスト共存型のアルバム『アイドルワイルド』の1stシングル。ネタは第二次大戦前に活躍したジャズ・ヴォーカリスト、キャブ・キャロウェイの「ミニー・ザ・ムーチャー」。
03PEACHES
アンドレ抜きで、ビッグ・ボーイのラップとスリーピー・ブラウンのウィスパー・メロディが登場する、大ヒット曲「THE WAY YOU MOVE」方式。ネタは歌詞にも出てくるトゥー・ショートの「CUSS WORDS」。
04IDLEWILD BLUE (DON'TCHU WORRY 'BOUT ME)
アコースティック・ギターがブルースを奏でるアンドレのソロ曲。このヒップホップにはくくれない曲がアウトキャストの個性を際立たせている。出所が出そうで出ないシンセのフレーズ、そんなむずがゆさをくれるのもアウトキャスト流。
05INFATUATION
「N2U」のイントロダクションになっているようなインタールード。バックは街の雑踏音で、音楽は一切なし。ビッグ・ボーイが必死に女の子を口説いているが失敗に終わる。マクドナルドをエサに結婚を持ちかけても無理というものだ。
06N2U
タイトルの意味は「やりたい」。リック・ジェームスを思わせるギターとベースのユニゾンが懐かしい、オーガナイズド・ノイズのプロデュース。アンドレ抜きのビッグ・ボーイのソロ曲だが、歌詞にはモテ男としてアンドレがしっかり出てくる。
07MORRIS BROWN
マーチング・バンド・スタイルのスネアがアレンジの核をなし、スカーの歌うメロディが大人っぽくシャッフルしていて、やたらとかっこいい。ビッグ・ボーイ、スリーピー・ブラウン、スカーをアンドレがプロデュースしている。
08CHRONOMENTROPHOBIA
アンドレがファルセットを交えながらソウルフルに歌う彼のソロ作品。個性的なメロディがつけられている「クロノメントフォビア」の意味は“時間恐怖症”。それにしても曲中の「時間がないから、すぐにヤラセてくれ」の理論は成り立つのか?
09THE TRAIN
ビッグ・ボーイがスリーピー・ブラウン、スカー、美しい女性コーラスを従えて得意の高速無機質ラップを披露。高速ラップは雄弁であることが条件。アンドレのインテリジェンスばかりが目立つアウトキャストだが、これはボーイの才能が光る曲だ。
10LIFE IS LIKE A MUSICAL
アンドレの類まれなるポップ・センスがつまったソロ作品。歌の後ろで鳴るエレピのフレーズや多彩なリズム・サウンドは彼の真骨頂だろう。タイトル通り、いつも音楽のアイディアがあふれていることを感じさせてくれる一曲。
11NO BOOTLEG DVDS
音楽なしの雑踏音が世知辛い世の中を示しているよう。「海賊版じゃないぜ!」と『アイドルワイルド』のDVDを道ばたで叩き売りをしている男、「何、何?」と懐柔されていく男、そして繰り広げられる商品説明、そんな風景のインタールード。
12HOLLYWOOD DIVORCE
アンドレのヴォーカルをはさんで、リル・ウェイン、ボーイ、スヌープ・ドッグがラップしていく、アンドレとビッグ・ボーイの共作。タイトルの「ハリウッド型離婚」についてラッパー3人が見解を述べていく、面白くも濃い仕上がり。
13ZORA
遊び疲れた雰囲気を漂わせ、じゃれあいながら街角を行く男女の背後で銃声が2発、「私のダンナから離れな!!」。アルバム『アイドルワイルド』にスムースな流れをもたらす、次曲「コール・ザ・ロー」のイントロのようなインタールード・スキットだ。
14CALL THE LAW
ビッグ・ボーイの新境地、ミュージカル「シカゴ」に出てきそうな構成のショウ・ソング。リードをとるジャネール・モネイがステージで跳ねるように歌う様子が浮かんでくる。中間部で乱入するボーイの変幻自在のラップも頼もしい。
15BAMBOO & CROSS
「バグフェイス」のリフ・フレーズにのって、かわいらしい声のバンブー君とクロス君の強がり合戦が行なわれる。子供ながらに必死に韻をふもうとしているのが微笑ましい。こんなおしゃべりが進化してラップになるんだなぁと感心してしまうインタールード。
16BUGGFACE
ビッグ・ボーイの得意とするシンプルなラップ・チューン、水を得たでっかい魚が自由にラップしまくっている。「バンブー&クロス」に出てくる子供のつぶやき「CAN I DANCE?」が、エンディングで滑り込んでくるオチが楽しい。
17MAKES NO SENSE AT ALL
「君の瞳に乾杯」と訳された(!!!)「Here's looking at you,kid」というフレーズがイントロで飛び出すアンドレのソロ作品。疾走するウッド・ベースの4分音符にのって、アンドレが多彩な声色で迫ってくる。
18IN YOUR DREAMS
アンドレ不参加のオーガナイズド・ノイズ作品。ジャネール・モネイが美しいメロディをさらに美しく歌い、ビッグ・ボーイ主宰のパープル・リボン・レーベルからキラー・マイクが登場。初々しいラップを披露している。
19PJ & ROOSTER
珍しくアンドレ、ビッグ・ボーイの2人だけのペンによる作品で、オートワウのベースとハンド・クラップがリズムを刻む2ビートのナンバー。正攻法の16ビートでない本作のような2ビートにも、ビッグ・ボーイのラップはぴったりフィットしている。
20MUTRON ANGEL
プログレ・ゴスペルといった趣きのコーラス・チューン。キャッチーな展開はないものの、荘厳さが光るビッグ・ボーイの作品。彼のラップは出てこず、スクリーチー・ピーチーのヴォーカルが全編にフィーチャーされている。
21GREATEST SHOW ON EARTH
アンドレ1人のペンによる作品を21世紀のアレサ・フランクリン、メイシー・グレイが歌う。スペイシー・サウンドをバックに、アンドレとメイシーが繰り広げる物憂いショーは宇宙にまで響いていくほどパワフル。
22YOU'RE BEAUTIFUL
アンドレと彼女? が部屋でじゃれあう情景が浮かんでくるスキットで、ストリングスとピアノがシリアスに盛り上げている。女の子なら誰でも言われたい「きれいだよ」のささやきの後、彼女を笑いとともに和ませる心憎い演出があるインタールード。
23WHEN I LOOK IN YOUR EYES
アンドレの1930年代ショウは終わらない、といった趣の明るいスタンダード風チューン。レイ・チャールズが弾いているような飛び跳ねるピアノに合わせて、しわがれた声でタイトル・フレーズの「君の瞳を見ていると」が繰り返される。
24DYIN' TO LIVE
ロー・トーンが迫力のオルガンとピアノが重なり合うアンドレのソロ作品、鍵盤に黙々と向かいながら、歌う姿が浮かんでくる。彼の音楽愛が歌われた後、エンディングで女性ヴォーカルがアンドレの死を告げるショッキングな演出になっている。
25A BAD NOTE
「僕の音楽はどういうジャンルに入るのか分からない」というアンドレの言葉を表わしているかのような、総時間8分のジャンル分け不可能な曲。難解なフレーズを繰り返すピアノの後ろで、ジミ・ヘンドリックス風のギターが鳴りつづける。