ミニ・レビュー
椎名林檎率いるバンドの2枚目。メンバーが二人替わったが、バンドとしてのまとまりは前作より格段に向上し、アプローチもロックだけでなくジャズ、ボサ・ノヴァ、エレクトロ、ジャム・バンド風など幅広くなった。ヴォーカルも曲ごとに変化してより自由に歌っている。
ガイドコメント
2006年リリースの2ndアルバム。シングル曲「修羅場」のほか、ライヴDVD“Dynamite”シリーズに収録されていた「スーパースター」「透明人間」など、全11曲を収録。タイトル通り“大人”を感じさせる快作だ。
収録曲
[Disc 1]
01秘密
いかにも椎名林檎らしいアルバム『大人(アダルト)』のオープニング・チューンは、ベン・フォールズあたりを彷彿とさせる、ハードなピアノ・ロック。アレンジは新メンバーの伊澤一葉(キーボード)で、“新生・東京事変”の挨拶代わりの一曲といえそう。浮雲によるエッジの効いたギター・ソロも聴きもの。
02喧嘩上等
2分22秒とあっという間に終わる本作は、キャブ・キャロウェイばりのハードなジャイヴを決めていた初期オリジナル・ラヴ(田島貴男)の女性版といった感じもする、ゴキゲンなスウィング・ナンバー。腕利き揃いのバンド、東京事変の演奏力の高さを実証する曲でもあり、そのソリッドなサウンドは文句なしにカッコイイ。
03化粧直し
ボサ・ノヴァ調の涼しげなナイロン・ギターがリズムを刻む軽快なポップ・チューン。そんな明るい曲調とは裏腹に、歌詞は思いっきり失恋モードで哀しさ全開なのが面白い。後半は、それまでの抑えていた感情が一気に爆発したかのような激しいサウンドにチェンジ、気分すっきりのエンディングへ。
04スーパースター
“憧れのスーパースター”に対する率直な思いを綴ったナンバーで、曲調もサウンドもストレートなギター・ロック調の仕上がり。TV画面の向こう側でスポット・ライトを浴びているスーパースターの隣りに、もし自分がいたら?……そんな妄想にとりつかれた“ファン心理”を巧みに描写する。
05修羅場 (adult ver.)
ドラマ『大奥〜華の乱〜』主題歌にもなったヒット・シングルのアルバム・ヴァージョン。ロック色が前面に出ていたハードなシングル・ヴァージョンに比べ、グッと洗練された仕上がりで、まさにアルバム・タイトルそのままの“大人(アダルト)”なヴァージョンといえよう。ソリッドなリズムとエキセントリックなギターが特に素晴らしい。
06雪国
叙情的なピアノに導かれてスタートする本作は、女性の情念の深さを表現した、椎名林檎の独壇場といった感じのナンバー。それにしても男性にとって、かなり“怖い”内容の唄である。途中からオルタナティヴ・ロックっぽく展開するヘヴィなサウンドも、そんな恐怖を余計に増幅させ、この勢いはそのまま次曲「歌舞伎」へと繋がっていく。
07歌舞伎
前曲「雪国」の勢いをそのまま引き継いでスタートする激しいナンバー。わずか2分足らずであっという間に終わってしまう小品ながらインパクトは強烈で、歌詞も曲もノリ一発で録られたような感じがいい。この曲のタイトルがどうして「歌舞伎」なの? という細かいツッコミはナンセンスというものでしょう。
08ブラックアウト
ライヴで盛り上がりそうな、タテノリの激しいナンバー。「山手線の最終が終わっても、家に帰りたくない」心情を、都会の闇へのドロップ・アウト=ブラック・アウトとして歌っている。なにかイヤなことがあってムシャクシャしていて、このまま闇に包まれていたい……そんな気持ちに襲われたことって、誰でも一度はあるはず。
09黄昏泣き
黄昏の茜色がよく似合う、ジャジィなバラード。伊澤一葉の秀逸なピアノ・プレイが作品全体の雰囲気を決定づけている。こうしたジャズ風味のバラードを情感込めて歌う時の椎名林檎からは、ついつい場末のバーで歌っている映像が思い浮かんでしまうのだが、これはあくまで誉め言葉。
10透明人間
アルバムの中でも最もポップでキャッチーで、もしかしたら最もシングル向きのナンバーといえるかもしれない。“透明人間”を主人公にした歌詞も、とってもキュート。ダーク・サイドばかりでなく、こうした明るいタイプの曲をやらせても抜群の完成度だ。
11手紙
弦楽奏団をフィーチャーした、バロック調のクラシカルなアレンジで幕を開けるバラードで、ちょっぴりビートルズっぽいテイストも感じさせる。歌詞は、大人になり旅立とうとする友へ宛てた手紙であり、エールに満ちたもの。アルバム『大人(アダルト)』のラストを締めくくるにふさわしいナンバーだ。
[Disc 2]〈DVD〉“秘密”の初披露時ライブ映像(Dynamite tourより)