ミニ・レビュー
故ビギーのラップを既発曲((4)(10)は未発表もの)から抜き出して、スウィズ・ビーツ、ジャスト・ブレイズといった旬のプロデューサーたちの新トラック上で、ご覧の通りの豪華ゲスト陣と疑似共演させたアルバム。企画は微妙だが、役者が揃い聴き応えはある。
ガイドコメント
歴史に残る不世出のラッパー、ザ・ノトーリアスB.I.G.。死後6年を経て完成した“最後のアルバム”は、ヒップホップ史に残る名作、いや、本作こそ“ヒップホップの歴史”そのものというべき空前の超大作だ。
収録曲
01B.I.G. LIVE IN JAMAICA INTRO
1996年の野外レゲエ・イベント“スティング”に出演した際の前説風景。次第に高まっていく歓声にビギーの登場を心待ちにする会場の空気がうかがえる。威勢の良いMCにビギーが「uh huh」と短く答える声がいたましい。
02IT HAS BEEN SAID
エミネム・プロデュースによる、心を揺さぶる緊張感あふれるトラック。エミネム、オービー・トライス、P.ディディのラップにビギーの合いの手が切り貼りされていて、ディディの「俺たちの友情は変わらない」に思わず目頭が熱くなる。
03SPIT YOUR GAME
ビギーの「ノトーリアス・サグス」のラップを引用したドラマティックな曲。「ノトーリアス・サグス」でも参加したボーン・サグス・ン・ハーモニーが再登場、トゥイスタとの高速ラップ合戦を披露している。
04WHATCHU WANT
アーティスト・クレジットが「THE COMMISSION」とあるが、これはJay-Z、ビギー、チャーリー・バルティモアからなるユニット名。生ドラムのサンプリングと呪文のようなフィメール・ヴォイスが駆け巡るオリエンタルな曲。
05GET YOUR GRIND ON
ファット・ジョー、ショーン・ケイン、今は亡きビッグ・パンらテラー・スクワッドの面々が織りなすビギーへのトリビュート。シリアスなピアノとストリングスが美しいトラックに、ビギーの「マイ・ダウンフォール」のラップがぴったりとはまっている。
06LIVING THE LIFE
ヴァースでビギー、リュダクリス、スヌープ・ドッグが登場、フェイス・エヴァンス、シェリー・デニス、ボビー・ヴァレンティノがサビで絶妙なコーラスを聴かせてくれる。それぞれの持ち味が余すことなく発揮されている大人の曲。
07THE GREATEST RAPPER
ビギー(本名クリストファー・ウォレス)の息子クリストファー・CJ・ウォレスの父についてのコメント。幼さが残る声で「父の作品は生き続けます」と最後に一言。無邪気でも、確かな強い気持ちを含んだ言葉が心に響く。
081970 SOMETHIN'
ビギーからたくさんいただいているザ・ゲームが礼儀正しくラップ、フェイス・エヴァンスが流麗なコーラスでせまる上質なナンバー。ダビィなピアノ・トラックを用意したのは、シアラでブレイクしたプロデューサーのアンドレ・ハリス&ヴァイダル・デイヴィス。
09NASTY GIRL
ビギー不在のレコーディングはラップに合わせてトラックを作っていき、のせていく作業になるが、この曲は原曲の「ナスティ・ボーイ」より、ビギーが生き生きとして聴こえる秀作。アメリカよりもイギリスで大ヒットを記録したキャッチーなヒップホップだ。
10LIVING IN PAIN
全員ビギー存命中に共演経験のあるメアリー・J.ブライジ、NAS、今は亡き2PACがフィーチャリングの迫力満点の曲。中でもメアリー・J.ブライジの歌の力が際立っている。モータウン・サウンドのサンプリングはジャスト・ブレイズのプロデュース。
11I'M WITH WHATEVA
ホラー映画『ハロウィン』のテーマ・ソングのフレーズを使ったトラックに、リル・ウェイン、ジュエルズ・サンタナ、ジム・ジョーンズが細かく絡んでいくナンバー。ビギー名義の曲にしては珍しく、南部の軽いリズムが後ろで鳴っているのが面白い。
12BEEF
ハヴォックとプロディジーのハード・コア・ユニット、モブ・ディープの参加作品。タイトルはヒップホップ・カルチャーのスラングで「もめごと」のこと。その「BEEF」により、命を落としたビギーの「ビーフって何だ?」のリリックが残念でならない。
13MY DAD
ビギーの娘、ティアナ・ウォレスの父についてのコメント。「パパはノトーリアスB.I.G.だけど、私とってはただのパパでした」と淡々と語っている。電話録音のようなノイズが彼女の心の機微を覆い隠しているようで物悲しい。
14HUSTLER'S STORY
ベテランのスカーフェイス、ヤング・ジーズィがリーダーをつとめるBoyz-N-Da-Hoodのビッグ・ジーがラップ、セネガル出身のエイコンがコーラスを担当している。冒頭のビギーのリリックに合わせてそれぞれがストーリーを展開させていくダーク・ソング。
15BREAKIN' OLD HABITS
スリム・サグの重くだるいラップとT.I.の軽くだるいラップの間にビギーが割って入る演出が秀逸。T.I.が担当するコーラスのメロディもなめらかで良い。ビギーの引用はP.ディディ(当時はパフ・ダディ)の「ヤングG'S」から。
16ULTIMATE RUSH
ミッシー・エリオットとビギーのかけあいがとても新鮮な泥臭い曲。ビギーのヴァースはリル・キムの曲「ドラッグス」からの引用。プロデュースは2006年にマリオ、50セント、クリス・ブラウンの大ヒットを生み出したスコット・ストーチ。
17MI CASA
美しいヴィブラフォンのループ・フレーズ、R.ケリーの多彩なメロディ、チャーリー・ウィルソンの歯切れの良いヴォーカルがビギーを囲む。ビギーのラップは「フレンド・オブ・マイン」からの引用だが、恐ろしいほどのフィット感には舌を巻く。
18LITTLE HOMIE
ビギーの尽力でデビューしたジュニアM.A.F.I.A.のリル・シーズの追悼コメント。「彼こそキングだ」はシーズの心からの言葉だろう。使い古された表現だが、ビギーなくしては今のシーズはない。「ホーミー」は親友のこと。
19HOLD YA HEAD
ボブ・マーリィの「ジョニー・ワズ」とビギーの「スゥイサイダル・ソーツ」のサンプリングを新しいトラックにのせた苦心作。時代を異にするヒーローの共演だけに混ざり具合が難しいところだが、好奇心にあふれた演出がひたすら楽しい。
20JUST A MEMORY
ビギーが茶目っ気たっぷりに歌うダイアナ・ロスの「マホガニーのテーマ」のフレーズは「COME ON」からの抜粋。ネプチューンズの協力を得てブレイクした兄弟ラップ・デュオ、クリプスが参加しており、大御所VS若手といった雰囲気のメリハリが心地よい。
21WAKE UP
ロックとヒップホップのコラボレーション、といってもRUN D.M.C.のハード・トラックとは違う洗練された新境地。メタル・ミクスチャー・バンド、コーンのヘヴィな演奏にビギーのラップがぴったりフィットしている。
22LOVE IS EVERLASTING
ビギーの実母、ヴォレッタ・ウォレスが今は亡き息子に対しての思いを語るアルバムのエンディング。息子との時間をフラッシュバックさせながら、前向きになろうとしつつも、息子の死を受け入れられない母の苦悩がひしひしと伝わってくる。
23RUNNING YOUR MOUTH
ファボラス、ネイト・ドッグ、ビギー、バスタ・ライムス、フォクシー・ブラウン、スヌープ・ドッグが登場するヒップホップ好きには垂涎もののボーナス・トラック。中でもバスタ・ライムスがみせる自身の作品にもないぐらいの勢いが圧巻。