ミニ・レビュー
初期の荒井由実に通じるポップス・センスと、コケティッシュなヴォーカル。そして全体を包み込むのは、ケイト・ブッシュ、ミレーヌ・ファルメールを思わせるシュールな音世界。そこに、いまの第一線級の新鮮な息吹が注ぎ込まれ才能あふれるアルバムに仕上がった。★
ガイドコメント
2006年1月発表の2ndフル・アルバム。ユーミン風の歌と華やかなホーンが魅力の「さみしがり屋の言葉達」やピアノ・バラード「Lost child,」など、個性あふれるナンバーが満載の好作だ。
収録曲
01ニラカイナリィリヒ
呼吸や心拍をダイレクトに感じるようなオーガニックなヴォーカルが飛び込んでくる、2ndアルバム『Merry Andrew』のオープニング曲。タイトルの呪文のような言葉がネガティヴな心に光を射し込むようで、温もりに溢れている。
02Green Bird Finger.
坂田学のアクティヴなドラムが痛快に響くアッパー・ポップ。ジャム・セッション風な出で立ちに、ニューミュージック的なアプローチのキュートなヴォーカルが絡む佳曲。ちなみに、タイトルの“Green Bird”は、この曲を制作したスタジオ名。
03のうぜんかつら
月桂冠『定番酒つき』CMテーマ・ソングのフル・ヴァージョンともいえるナンバー。ちょっぴり気まぐれっぽさのあるヴォーカルを、スカパラのホーン・セクションやリズム隊が一緒になって朗らかな雰囲気を醸し出すハートウォームな1曲。
04煙はいつもの席で吐く
ソフトななかにもハッキリした意図が感じられるような、ユーミンや大貫妙子などの輪郭が見え隠れするミディアム・スロー・ナンバー。虚しさと希望がシンクロするヴォーカルとリズム隊が映えるポップ・バラードの逸品。
05み空
EPOや矢野顕子の妙趣が垣間見られるテンポ感あるポップス。だが時折、椎名林檎的な毒気と辛辣さも覗かせるあたりに、単なるニューミュージック的ポップスに陥らない彼女らしい野趣がある。等身大の彼女を感じられる1曲。
06あなたと私にできる事
2ndアルバム『Merry Andrew』収録のミディアム・バラード。時にCHARAを思わせる一面も見せる、コロコロ表情を変えるヴォーカルも魅力だが、山本タカシ、矢部浩志、スカパラなどゲストがそれをより活き活きさせている。
07さみしがり屋の言葉達
本人も出演の日立携帯端末「W32H」CMソングとなった3rdシングル。ユーミンの世界観にも似たニューミュージック的なアプローチで、雨の日の憂鬱さを醸し出す。スカパラのホーン・セクション陣の色づけ具合も絶妙なミディアム・ポップス。
08ポンキ
2ndアルバム『Merry Andrew』収録のマーチ風ポップ・チューン。矢部浩志(カーネーション)のドラム、山本タカシのスティール・ギターなど、活力を感じる潔さとチラチラっとCHARAっぽい面影をみせるヴォーカルが爽快感を残す1曲。
09愛の日
レムとノン・レムを行き来するような昏睡感覚のあるヴァースから、“ただ抱きしめて”と強く欲するコーラスへの展開が胸を打つ、ミディアム・ポップ。大貫妙子のような素朴さを携えながらも、しっかり自己を押し出した揺らぎあるヴォーカルが秀逸。
10Lost child、
韓国映画『人形霊』(2004年)エンディング・テーマとなった2ndシングル。いつまでも少年や少女であり続けたいという熱を持ちながらも、それをひけらかさずに低温の透明感でアプローチしたサウンド・プロダクションが出色。
11夜と星の足跡 3つの提示
イントロのフェンダーローズ、中盤でのエレキ・ギター、全篇を通して刻まれるドラムなど、澄んだ夜空に包まれるような感覚をもたらすミディアム・スロー・バラード。そこに彼女でしかなしえない言葉が絶妙に配される、オーガニックなナンバー。
12星とワルツ
2ndシングル「Lost child,」のカップリングで、WOWOWドラマ『巷説百物語』エンディング曲。“ワン・トゥ・スリー”のカウント・スタートやASA-CHANGのドラムなど、生の気配を漂わせるしっとりしたバラード。
13彼05
エレキ・ギターやベースの配色を強調した、ブリグリ風の低温のビート感が溢れるロック調ポップス。独特の符割りやムードを持ったヴォーカル・ワークはしっかり携えながらも、彼女には珍しいアグレッシヴさが垣間見られるナンバー。
14のうぜんかつら (リプライズ)
月桂冠『定番酒つき』CM曲。リプライズとあるが、実は制作段階ではこちらがオリジナル。同タイトル曲とは一転して、無駄な飾りを削ぎ落としたピアノとヴォーカルがしんみり入り込んでくるアコースティック・バラード。