ミニ・レビュー
サード・フル・アルバム。アコースティックな楽器と打ち込みが絶妙に同居した音作りに笹川の艶やかな歌声が和の旋律を携えて絡み、地に足を着けつつ浮遊感も内包した仕上がりで持っていかれる。ブックレットも細部まで気持ちが行き届いていることは大切。
ガイドコメント
2006年2月発表の3rdアルバム。東北地方のCMソングとなった「いりませんか」や新潟限定の「紫雲寺」、NHKのキャンペーンに使用された「向日葵」など、全12曲を収録。いわゆる名曲タイプの楽曲が多く、聴き応え十分。
収録曲
01夜明け
アルバムのプロローグ的役割を果たしているタイトル・チューン。本人演奏による静謐なピアノの音が見せる凛とした表情、まさに“夜明け”の魔法にかかったような、アンビエントなサウンドが心の中に拡がる。
02向日葵
インディーズ時代にリリースした名曲のニュー・ヴァージョン。穏やかにリズムを刻むパーカッション、深さと強さを増したヴォーカルで、じっくりと聴かせる5thシングル。NHK「がんサポートキャンペーン」テーマ曲。
03いりませんか
アイリッシュ音楽のテイストを盛り込んだサウンド、安らぎを感じさせる笹川のヴォーカルが独特の響きを持って伝わってくる。ストレートな感情を吐露したリリックは、シンプルながらも、思わず裏読みしてしまうほど深い。
04流れ星
ファルセットと独特の節回しで強いインパクトを与えるヴォーカルと、アコギに絡むスチール・ギターの音が印象に残るナンバー。オリエンタルな空気感を伴いながら、拡がりを見せるサビのフレーズに女性らしさが垣間見られる。
05桔梗
アルバム『夜明け』ではいくつかアイスランドでミックスした曲があるが、そのうちのひとつ。打ち込みと生音が融け合うサウンドで、たゆたう雰囲気の笹川ワールドを構築している。日本的なメロディと美しい言葉が凛として輝く。
06緑
マンドリンのイントロから始まる、彼女ならではの和のメロディ・ラインを持ったナンバー。ストレートな告白とも受け取れる言葉で始まり、最後でタイトルの緑に帰結させるリリック構成に味がある。
07流してしまおう
3拍子のリズムにのせ、悲しく切なく描かれる心模様。全体的に淡々としてもの悲しいトーンで彩られたサウンドの中で、低音部からファルセットまで強さを含んだ彼女のヴォーカルが色濃く浮かび上がる。
08無情
斉藤ネコのヴァイオリンが狂おしいほどに響きわたる。感情を露わにした赤裸々なヴォーカルが迫り、とてつもない激しさをもったエモーショナルなナンバーに仕上がっている。その包括するエネルギーに、ただただ圧倒されるのみ。
09誘い
6thシングル。包み込むように歌うヴォーカルは心地よく、そして美しい。ピアノやマンドリン、ストリングスが織りなすサウンドは、どことなく浮遊感をもったエレクトロニカルな雰囲気。この曲もアイスランドでミックスされた。
10宿るな
自分の声と言葉を拒絶する、“消えろ”“尽きろ”というフレーズ。心に宿る深い絶望を吐き出すかのように、それがリフレインされるディープなナンバー。祈りにも似たアウトロのコーラスとフェイクの絡みは荘厳さすら感じさせる。
11光とは
自然体の言葉は、平凡でありながらも普遍性を持ち浸透していく。スケール感のあるヴォーカルから注がれるのは希望の光。自分ひとりですべてを担当したという肉厚のコーラスがラストに向かうにつれて、楽曲を大いに盛り上げていく。
12紫雲寺
新潟県限定シングルとしてリリース。新発田市に吸収合併となり、現在は消えた地名がタイトル。今も新潟に住み、歌を作り続ける彼女の想いが込められている。イントロ、アウトロで聴こえるお囃子が郷愁を誘う。