ミニ・レビュー
4年ぶりのアルバムは、2枚組全28曲の大作ながら、気負ったところなどまったくない落ち着いたファンク・ロック系ナンバーを中心とする貫禄の力作だ。そんな中で各曲を刺激的に彩っているのがジョン・フルシアンテのギターで、ポップさとも巧く折り合いを付けたアレンジにバンドの底力がうかがえる。
ガイドコメント
リック・ルービンをプロデューサーに迎えての9作目となるアルバムは初の2枚組。ファンキーでメロディアス、そしてポジティヴさが前面に出た仕上がりで、バンドの好状態を如実に反映している。
収録曲
[Disc 1]〈JUPITER〉
01DANI CALIFORNIA
歌詞の主人公が同じであることから、「カリフォルニケイション」「バイ・ザ・ウェイ」との三部作として語られるハードなメロウ・ナンバー。王道アメリカン・ロックな作風に、音楽理論に基づく小技が盛り込まれている。
02SNOW ((HEY OH))
「バイ・ザ・ウェイ」路線のメロディックなナンバー。アンソニーが独特の節回しで歌っているうえ、サウンドにうっすらとフォルクローレ調の哀愁が漂っており、どことなく中南米音楽のようにも聴こえるのがおもしろい。
03CHARLIE
「ギヴ・イット・アウェイ」を思わせる曲調に、落ち着きとまろやかさが加えられたファンク・ナンバー。変幻自在のギター・ソロを弾いてみせるジョンは、ファルセット歌唱での見事なハーモニーも披露する活躍ぶり。
04STADIUM ARCADIUM
タイトルは造語で、“一同に会した人々が愛と光と音楽で通じ合う経験”を抽象的な歌詞で表わしているらしい。メロウな曲調をさらにウェットな方向へと押し進めるジョンのギター・ソロは、サンタナばりに泣いている。
05HUMP DE BUMP
リズム隊がくんずほぐれつしているさまも魅力的なファンク・ナンバー。呪文を唱えているようなサビは、ホーンやリズムの雰囲気から察するに、オハイオ・プライヤーズ「愛のローラーコースター」が元ネタでは?
06SHE'S ONLY 18
P-ファンクのジョージ・クリントンがプロデュースを手がけた『フリーキー・スタイル』期を思わせるヘヴィ・ファンク・ナンバー。こもり気味の低音ハーモニー、エディ・ヘイゼルばりのギターなど、P-ファンク臭が充満している。
07SLOW CHEETAH
これまでにもイルカやクマやシャチを歌詞に登場させてきた動物好きのアンソニーが、またも動物を題材に歌う。アコースティック・ギターを基調としたメロウな曲調に合わせ、ドラッグ中毒時代を回顧したような歌詞が展開される。
08TORTURE ME
出だし15秒間の適当に弾いているようでいて凄まじく技巧的なベース・プレイが、そのまま楽曲の軸となって駆け抜けるハード・ファンク。ジョンがハードなギター・ソロを繰り出すかたわらで、ベースが高低を高速往復。
09STRIP MY MIND
チャントのような空気すら漂わせたドラマティックなナンバー。レッチリよりもジョンのソロ作品に近い雰囲気があり、フェイジングなども駆使したギター・プレイが、ジミ・ヘンドリックスの残した作品と共鳴している。
10ESPECIALLY IN MICHIGAN
アンソニーが出生地ミシガンを歌ったファンク・ナンバーで、楽曲を貫くノリにもアンソニーらしさが感じられる。ここでのギター・ソロは、ジョンではなくゲストのオマー・ロドリゲス(マーズ・ヴォルタ)が弾いている。
11WARLOCKS
落ち着き払ったムードの中で高度なプレイが応酬されるファンク・ナンバー。ゲストのビリー・プレストン(この曲発表から間もなく逝去)が弾くクラヴィネットが、ジョンが好き放題弾くギターともどもグルーヴを加速させる。
12C'MON GIRL
冒頭から繰り出される音数の多いベース・プレイは、フリーが得意とする黄金パターン。ついつい「ライト・オン・タイム」でのプレイを思い出す人も多いだろう。なぜか最後は、マイケル・ジャクソンの「スリラー」風に幕引き。
13WET SAND
科学に、宗教に依存する者を歌ったナンバー。物憂げな曲調が徐々に力強さを増し、終盤にはアンソニーがエモーショナルな歌唱を、ジョンが「いとしのレイラ」ばりに情感たっぷりなギターを聴かせてくれる。
14HEY
飛躍的に向上したアンソニーの歌唱力と表現力がたっぷり楽しめるメロディアスなナンバー。アダルティ路線へと面舵いっぱいに進路変更した頃のエリック・クラプトンを思わせる、ブルージィなギター・ソロが器用&秀逸。
[Disc 2]〈MARS〉
01DESECRATION SMILE
アルバム発表前からネット上に流出してしまっていたというナンバー。陰りのある美しい曲調に合わせ、感情抑え気味に歌うアンソニー、そして♪ラララ〜と歌うコーラス・ワークが魅力的。レッチリ・メロウ路線の真骨頂だ。
02TELL ME BABY
彼らのこれまでの作品からファンクな要素を抽出してこねたかのようなナンバー。ハード・ロックあり、P-ファンクあり、オールドスクール・ラップあり、ハモりありのファンには、レッチリならではのにぎやかさがある。
03HARD TO CONCENTRATE
結婚するフリーに捧げられた静かではあるが劇的に展開する曲で、アンソニーらしい言いまわしでの祝福が感動的。ジョンのギターはひたすらに美しく、チャドのレッド・ツェッペリン「ランブル・オン」風パーカッションも効果的。
0421ST CENTURY
ワカメだってこうは増えないだろうってくらいに音が増殖し続けるフリーのベースと、伴走するチャドのドラミングとの呼吸がすばらしいファンク・ナンバー。曲が進むにつれ、バンドの一体感が強まるのが感じ取れる魅力的な曲調だ。
05SHE LOOKS TO ME
イントロでのナイーヴなプレイに始まり、アルペジオやカッティングなど多彩な旋律を表情豊かに弾きまくるジョン。レッチリらしさにはいささか欠けるけれども、ジョンらしさにあふれたメロディアスなナンバー。
06READYMADE
ブラック・サバスやレッド・ツェッペリンを思わせる王道ハード・ロック・サウンドが炸裂するヘヴィ・ナンバー。いかにもギター・ヒーロー風なソロや重厚なリズムに、彼ららしいファンクな味付けがスパイスのごとく加えられてある。
07IF
荘厳なムードを漂わせたバラード・ナンバー。伸びやかなギターと控えめなベースによる穏やかなドラムレス・サウンドをバックに、優しげに歌うアンソニー。ジョンがサイモン&ガーファンクルばりの美麗コーラスを披露。
08MAKE YOU FEEL BETTER
あまりにシンプルな構成に驚かされるメロディアス・パンク・ナンバー。入門書の初期段階で習得できそうなベース・ラインなど、そこらのバンドが弾けば簡素で終わりそうな要素の集合も、彼らが演じれば一級品に昇華。
09ANIMAL BAR
スペーシーなギターが鳴る一方で、土臭さも香り立たせている世にも珍しいダウン・トゥ・アースなクラウト・ロック。♪アッアッア〜や♪パッパラッパ〜のコーラスも楽しいこの曲、妙にポリスっぽく聴こえるのはなぜ?
10SO MUCH I
疾走感あるイントロ、サビ手前での減速、再度アクセルを踏み込んでサビと、世のバンド衆があの手この手で演じている王道ロックな曲構成。こうしたベタな展開とは縁遠かった彼らだけに、やけに新鮮な気分で楽しめる。
11STORM IN A TEACUP
ウータン・クランの名曲「ウータン・クランに手を出すな」をバンド・スタイルで演じたようなラウド・ナンバー。『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』期のサウンドを、鍛え上げ直されたパワフルな演奏で味わえる。
12WE BELIEVE
チャントを思わせる厳かなムードで始まるこの曲は、地味ながらもリズム隊のプレイがかなり高度。静かな曲調は少しずつ熱を帯び、女声コーラス隊が登場する終盤にはサウンドもハードに。そして最後は泡が消えるような幕切れ。
13TURN IT AGAIN
骨太な演奏とグルーヴが堪能できるレッチリらしいファンク・ロック・ナンバーで、終盤にはジョンが阿修羅のごとく弾きまくる。カザフスタンも宇宙も描いた歌詞を、いつになく高めのキーで歌っているアンソニーが新鮮。
14DEATH OF A MARTIAN
フリーの愛犬を歌ったレッチリ版「マーサ・マイ・ディア」。ただし、こちらは死んでしまったペットを歌っているために曲調は哀しげ。歌詞にはフリーの娘クララの名も登場し、最後はアンソニーの長い弔辞(!?)で締め。