ガイドコメント
チコーネ・ユース名義のアルバム『ザ・ホワイティ・アルバム』の次にリリースされた88年発表作品。「ティーン・エイジ・ライオット」など代表曲収録のカオティックで唯一無二な1枚。
収録曲
01TEEN AGE RIOT
まどろむようなサウンドをバックにキムがつぶやくイントロ。それが1分22秒過ぎから音がささくれ始め、甘美でノイジーなギター・ロックへと変貌する。ざっくりとしたサウンドの中で、魅力的なメロディが浮き沈みしているナンバー。
02SILVER ROCKET
小気味よいテンポのパンキッシュ・ナンバー。だが、突然のどしゃ降りノイズによりアヴァンギャルド・ナンバーに一変。最後には元のパンキッシュ・サウンドへと回帰するものの、意表を突く曲展開はソニックスの真骨頂だ。
03THE SPRAWL
冷ややかで美しいミニマル・サウンドが、テンポに小刻みな変化を加えながら、聴き手の意識をノイズの海へと浸してみせる。タイトルは、サイバーパンク小説の旗手、ウィリアム・ギブスンの三部作シリーズからの引用。
04'CROSS THE BREEZE
疾走感あるノイジーなギター・ロック・ナンバー。キムが雄たけびを上げるその背後で、二種類のギター・フレーズがそれぞれ七変化。加速と減速を微妙に織り交ぜながら、フリーク・アウトな音世界を見事に演出している。
05ERIC'S TRIP
ニコが主演したアンディ・ウォーホルの映画『チェルシー・ガール』(1966年)に触発された曲で、タイトルの“エリック”とは出演俳優エリック・エマーソンのこと。ドラッギーなドライヴィング・サウンドが刺激的だ。
06TOTAL TRASH
ギターのフィードバック・ノイズが軋んで歪んで描き出す長尺の騒音は、白昼夢のよう。先が読めない奔放すぎる演奏も、聴き終え振り返れば楽曲としての構成は絶妙で、それとなく仕込まれたキャッチーなフックの数々が隠し味となっている。
07HEY JONI
リー・ラナルドが初めてリード・ヴォーカルを担当。タイトルはもちろん、曲調もリーヴス版「ヘイ・ジョー」を思わせるガレージ・サイケ風。ちなみに“ジョーニ”とは、ジョニ・ミッチェルのこと。
08PROVIDENCE
サーストンが弾くピアノ・ソロを素材に作られたサウンド・コラージュ作品。ぞわぞわとうごめくノイズが、まるで強風吹きすさぶ野外へ身を置いている気分にさせる。途中で聴こえる音声は、マイク・ワットによる留守録メッセージ。
09CANDLE
シャープなバンド・サウンドで構成されたメロディアスなナンバー。明快なサビや薄く被せられたハーモニーなど、彼らの作品の中では聴きやすい部類に入ろうか。もちろん終盤には、ノイズの奔流が待ち構えているのだが。
10RAIN KING
殺伐としてあわただしいビートと切れ味あるサウンドが、曲の雰囲気を不穏な方向へと押しやっているクールなナンバー。ここで歌っているのはリー・ラナルドで、彼の歌声が不穏なサウンドに物憂げな感情を横たえてみせている。
11KISSABILITY
キム・ゴードン歌唱によるスピード感あるライオット・パンク・ナンバー。曲が進むにつれ、ジャンクでパンクなサウンドのカオス状態がより複雑化。踊れる要素も多分にあり、ライヴでも盛り上がる曲のひとつだ。
12TRILOGY; A)THE WONDER|B)HYPERSTATION|C)ELIMINATOR JR.
緊密なバンド・サウンドが山あり谷ありの14分間を演出する三部構成の大作。圧巻はラスト2分半に用意された「エリミネイター・ジュニア」。キムの喘ぎ&うめき混じりの歌唱が金属的なサウンドに乗って挑発を繰り広げる。