ミニ・レビュー
鳴り物入りでデビューした当座に比べると、ヴォーカル、演奏ともに落ち着きが増してきたよう。“昭和歌謡”といったくくり以前に、サーカスめいた無国籍性を、本来身上とするグループだったのでは。童謡を思わせる(4)に、そうした資質がうまく出ている。
ガイドコメント
5thアルバム。新たなアプローチを見せる「天国と白いピエロ」、スケール感あふれる「ロッテンマリー」など、これまでの10年間を集約しながらも更なる飛躍を遂げた会心の作。
収録曲
01天国と白いピエロ
静かなギターの弾き語りで始まるソウルフルなナンバー。シンプルな演奏と、天国とピエロを描く不思議な詩が、物語のプロローグのような雰囲気を演出する。可愛いらしく囁いたり叫んだり、表情豊かな歌声も新鮮に響いてくる。
02ニュースタイム
趣向を凝らしたメロディが、エレガントなミュージカル風ナンバー。“争いのない町”という言葉を用いて、強いメッセージ性を持たせている。センチメンタルな詞とムーディーな色彩感が、並外れた音楽性を高めている。
03Mother Ship
疾走感あふれるロック・スウィングなキラー・チューン。ショー・タイムを予感させる華やかなサウンドに、中納良恵の歌声がショー・ガールのごとく鮮やかに踊る。軽快でありながら、グルーヴ感に満ちたビビッドな仕上がり。
04ロッテンマリー
大海を思わせる、スケール感たっぷりのブルース風ナンバー。淡々としたリズムなかに甘い歌声が溶ける序盤から、徐々に興奮が渦を巻く演奏へ。音楽性の高さと、楽器のように声を操る中納良恵のヴォーカルが熱を含んで迫ってくる。
05マスターdog
緩やかなスウィングに乗って、彼らの日常を描いたスロー・ナンバー。夜中に小さな近所のレストランを訪れて、熱めのスープを頼む。そして「あなたを思うと眠れない」と静かに歌う。彼らには珍しい親密な雰囲気が漂ってくる。
06Sundance
ギターが心地良いリズムを刻む、ポップでキャッチーなナンバー。一語一語を丁寧に発声する、ソフトなヴォーカルが深い愛情を紡ぎ出すよう。シンプルなサウンドへ採り入れた動物の声を真似た効果音が、大自然の清々しさを運んでくる。
07The Ruling Class
80年代のネオアコ・ブームを代表する、モノクローム・セットのカヴァー。スピード感あふれるジャジィな演奏と熱情的なパーカッションに、高揚感たっぷりのコケティッシュな歌声が絡み合う。エキゾティシズムが官能的に香り立つナンバー。
08レモン
猫のように甘い歌声が心地良くスウィングするメロウ・ナンバー。語尾をまろやかに伸ばす独特の歌い方が、真夏の気だるい午後のムードを描き出す。バックに流れる鼓動のような重低音が、じんわりと温かく染み込んでくる。
09水中ゲーム
幻惑的なギターと和風の妖艶なフルートが美しく溶け合うミディアム・ナンバー。音の海をしなやかに泳ぐ「オースイ、オースイ、スイミー」というヴォーカルがまことに爽やか。新鮮な音を探し続ける彼女たちの独創的な世界が広がりを感じさせている。
10旅先案内人
変幻自在の曲調に、自由な音楽性を詰め込んだポップ・サイケデリック。効果的な演出を持つギター音が、幾重にも広がるコーラス調のメロディを盛り上げていく。ファルセットを巧みに採り入れたパワフルなヴォーカルも胸に迫る。
11inner bell
一定のリズムを持たず、メンバーの表現力がぶつかりあう力作。華麗なセレモニーのように威風堂々とした演奏と、ヴォーカルの力量が問われるア・カペラ部分も盛り込んで展開していく。ほとんどミックスなしで仕上げた緊張感が感じられるナンバー。